たかが、恋

水野七緒

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第2話

2・元親友(その2)

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 もろあやは、小学生のころからの友人だ。
 私と同じで読書が大好きで、以前はよくふたりで図書室に入り浸ったり、好きな本についてあれこれおしゃべりしたりしていた。
 だから、中学校でも同じクラスになって、最初はすごく嬉しかった。また、たくさん本の話をできると思っていたから。
 なのに、綾には好きな男の子ができた。
 ううん、正確には小学生のころから「好きな子」はいたんだけど、中学生になってから好きになった子はちょっと特別みたいで、綾の話は日に日にその男の子のことばかりになっていった。
 つまらなかった。
 まったく興味のない男の子のことを、あれこれ聞かされてもちっとも面白くなかった。
 しかも、綾の悩みはいつもだいたい同じだ。

 ──「緊張して話しかけられない」
 ──「話しかけてもらったけど、答えられなかった」
 ──「彼は3組に好きな子がいるかもしれない」

 そんなの、どうだっていい。私には関係ない。
 でも、友達だったから我慢して話を聞いたし、私なりにアドバイスもしてみた。リビングの本棚にあった「大事な場面で緊張しない本」なんてものを、こっそり貸してあげたこともあった。
 なのに、綾の悩みは変わらない。

 ──「今日も緊張して話しかけられなかった」
 ──「話しかけてもらったけど、答えられなかった」
 ──「彼は、やっぱり1組に好きな子がいるかもしれない」

 それで、ほとほとうんざりして、ある日ついに言ってしまったんだ。

「最近の綾、恋愛の話ばかりでつまんない」

 綾はハッと息をのんだあと、うつむいて「ごめん」ってつぶやいた。「伏し目がち」って、たぶんこういうときに使う言葉なんだろう。このときの綾から、私は言葉をひとつ学んだ。
 その翌日から、綾はあまりに私に話しかけてこなくなった。
 べつにケンカをしたわけじゃない。私は不満を口にして、綾は「ごめん」と謝ってくれた。
 でも、私たちの「これまで」は壊れてしまった。
 親友だと思っていた女の子は、今は私ではない友達のそばで楽しそうに恋バナをしている。
 あのとき──私に「ごめん」と謝った綾が、続けてこぼした言葉を今でも忘れられない。

 ──「ごめんね、ともちゃん初恋まだだもんね」

 綾も、お姉ちゃんと同じだ。
 きっと、私のことを可哀想って思っている。
 そんなことないのに。
 かわいそうなのは、無駄なことをしている綾やお姉ちゃんなのに。

(それに、誰かさんも……)

 頬杖をついたまま、間中くんの後ろ姿に目を向ける。
 彼の恋なんて、綾やお姉ちゃん以上に無駄だ。
 だって、結麻ちゃんが2歳も年下の男子を好きになるはずがない。
 失恋する確率99%──それなのに一目惚れしちゃってバカみたい。
 そんなに恋をしたいなら、せめて振り向いてくれそうな子を選べばいいんだ。
 うちのクラスにも、結麻ちゃんほどじゃないけど、きれいな子や可愛い子がいるわけだし。
 そんなことを考えていたら、間中くんが振り向いた。たじろぐほどの強い視線が、まっすぐパチリと私をとらえた。
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