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エピローグ
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少年は、木陰のベンチに腰をおろしていた。
「暑いねぇ、クゥ」
膝の上の黒猫に話しかけたけれど、返事はまったくかえってこない。
どうやら眠ってしまったようだ。
「信じられないなぁ。この炎天下で眠れるなんて」
少年は、苦々しく目を細めた。
日除けとしてフードをかぶってはいたが、今日くらい暑くなると、かえって中に熱を閉じこめて暑苦しくなってしまう。
「まったく」
滲む汗を拭うべく、懐からハンカチを取り出す。
と、いきなり背後から、日差しを遮断するような影が伸びてきた。
「よう。やっぱりここか」
その声には、聞き覚えがあった。
振り返った少年は、相手をみとめるなり、薄い唇をほころばせる。
「お兄さん」
とはいっても、最近彼が「お兄さん」と呼ぶ客は二人いた。
一人は黒髪の青年。
そして、もう一人が──この大きな目をした茶髪の青年だ。
「どう? うまくいった?」
「いったいった」
青年はひどく嬉しそうな笑顔で、少年の隣りに腰をおろした。
「昨日さ。お前から例の薬、買ったじゃん。夢のなかに入れるヤツ」
「うんうん」
「それで、哲平の夢のなかに入っていろいろ言ってやったわけよ。『なんで来なくなったんだよ』とかさ。そしたら」
「現実の彼が、声をかけてきた?」
「そのとーり」
青年は、笑いながら親指をたてた。
「駅で待ってたら、やってきてさ。反対ホームでウロウロしてるから、わざわざこっちから出向いてやったの。そしたら、あいつ、すっげー緊張したカオでやってきてさ。最初の一言、なんだと思う?」
「さぁ?」
「『は……はじめまして』だってさ。夢のなかで、あんなにイロイロやったのにさ。いまさら、どもりながら『はじめまして』だぜ?」
「それは、緊張してたんでしょう?」
「まぁ、確かにな。こっちで口きくのは初めてだったからな。でも、それにしてもなぁ」
よほど、そのときの光景が印象深かったのだろう。
未だクツクツと肩を震わせている彼を、少年は微苦笑を浮かべて見つめていた。
「暑いねぇ、クゥ」
膝の上の黒猫に話しかけたけれど、返事はまったくかえってこない。
どうやら眠ってしまったようだ。
「信じられないなぁ。この炎天下で眠れるなんて」
少年は、苦々しく目を細めた。
日除けとしてフードをかぶってはいたが、今日くらい暑くなると、かえって中に熱を閉じこめて暑苦しくなってしまう。
「まったく」
滲む汗を拭うべく、懐からハンカチを取り出す。
と、いきなり背後から、日差しを遮断するような影が伸びてきた。
「よう。やっぱりここか」
その声には、聞き覚えがあった。
振り返った少年は、相手をみとめるなり、薄い唇をほころばせる。
「お兄さん」
とはいっても、最近彼が「お兄さん」と呼ぶ客は二人いた。
一人は黒髪の青年。
そして、もう一人が──この大きな目をした茶髪の青年だ。
「どう? うまくいった?」
「いったいった」
青年はひどく嬉しそうな笑顔で、少年の隣りに腰をおろした。
「昨日さ。お前から例の薬、買ったじゃん。夢のなかに入れるヤツ」
「うんうん」
「それで、哲平の夢のなかに入っていろいろ言ってやったわけよ。『なんで来なくなったんだよ』とかさ。そしたら」
「現実の彼が、声をかけてきた?」
「そのとーり」
青年は、笑いながら親指をたてた。
「駅で待ってたら、やってきてさ。反対ホームでウロウロしてるから、わざわざこっちから出向いてやったの。そしたら、あいつ、すっげー緊張したカオでやってきてさ。最初の一言、なんだと思う?」
「さぁ?」
「『は……はじめまして』だってさ。夢のなかで、あんなにイロイロやったのにさ。いまさら、どもりながら『はじめまして』だぜ?」
「それは、緊張してたんでしょう?」
「まぁ、確かにな。こっちで口きくのは初めてだったからな。でも、それにしてもなぁ」
よほど、そのときの光景が印象深かったのだろう。
未だクツクツと肩を震わせている彼を、少年は微苦笑を浮かべて見つめていた。
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