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第11話(Another.ver)
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着信は、姉からだった。
しかも「帰りにアイスを買ってきて」という、まさにどうでもいい内容だった。
さらに細かい銘柄指定までされそうだったので「メッセージアプリに送って」とだけ伝えて、青野は遠慮なく通話を終わらせた。
正直がっかりした。
着信相手として、別の人物を想定していたのに。
青野はため息を飲みこむと、足下に落ちていたものを拾いあげた。先ほど、スマホを取り出した際にポケットから落ちたワイヤレスイヤホンだ。
(右耳のか)
すぐにそうわかったのは、「ふみニャン」のロゴが見えたからだ。ちなみに左耳用には「ふみニャン」の足跡が刻印されていて、同じものを持っている女子生徒が「かわいい!」とはしゃいでいた記憶がある。
青野は、ロゴを指で撫でた。
キャラクターグッズに興味がないはずの彼が、うっかりこんなものを買ってしまったのは、ひとえに夏樹の影響だ。
──「なあなあ、可愛いよな、『ふみニャン』って! オレの次に可愛いよな!」
笑顔の夏樹に、たしか自分は「いや、どっちも可愛くないです」と答えたのだったか。
そのくせ「ふみニャン」のことが気になって、ひそかにスタンプやグッズを買い集めるようになった。ちなみに、夏樹に贈ったあのキーホルダーは個数限定のレアもので、手に入れるのにけっこう苦労した一品だ。
(けど、ぜんぜん嬉しそうじゃなかったな)
しかも、受け取るとき、どこか寂しそうに瞳を揺らしていた。
そのことに青野はなんとなく不安を覚えて、慣れない冗談とともに強引にキーホルダーを握らせたのだけれど。
今、思えばそれも当然だ。あのキーホルダーを受け取ったのは、「ふみニャン」を可愛いと笑った夏樹とは違う人物だったのだから。
(ああいうこと、他にもあったんだろうな)
今この世界にいる星井夏樹は、聡い人だ。
聡くて、とても繊細な人だ。
青野からの好意に戸惑いを覚えるだけでなく、傷ついたこともおそらくあっただろう。
けれども、彼はそれを青野に悟らせなかった。
ただ一緒に笑って受けとめてくれた。
だから青野は、彼が差し出してくれた優しさを、疑うことなく受け入れることができたのだ。
(そうだ、あの……)
いつだったか。たしか、復縁して間もないころ、ラッキーバーガーで青野が思わず泣いてしまったとき。
──「今までごめんな。いっぱい浮気して、お前のことを不安にさせて」
冷静に振り返ってみれば、元の夏樹があんな殊勝なことを言うはずがない。
今の「彼」だから、あの言葉が出てきたのだ。
青野は、両手で顔を覆った。
様々な想いが、一気に胸の奥からこみあげてきた。
(あの人のことが、好きだった)
「わがままプリンセス」だろうが「尻軽クソビッチ」だろうが、青野は星井夏樹のことが大好きだった。
でも、だからこそ、浮気されるたびにどうしようもなく傷ついた。すぐにバレるような言い訳をしないで、せめて真摯に謝ってほしかった。
それを与えてくれたのが、今の「浮気をしていない夏樹」だ。
おそらく、青野がずっと傷ついてきたことを理解していて、だからこそ「浮気をした星井夏樹」として青野に謝ってくれたのだろう。
優しい人だ。
優しくて、他人を慮ることができる人だ。
そんな人を、このまま元の世界に帰してしまってもいいのだろうか。
(嫌だ……そんなの絶対に嫌だ!)
青野は、スマホをタップした。折しもホームに快速列車が入ってきたものの、構うことなくメッセージアプリをたち上げた。
しかも「帰りにアイスを買ってきて」という、まさにどうでもいい内容だった。
さらに細かい銘柄指定までされそうだったので「メッセージアプリに送って」とだけ伝えて、青野は遠慮なく通話を終わらせた。
正直がっかりした。
着信相手として、別の人物を想定していたのに。
青野はため息を飲みこむと、足下に落ちていたものを拾いあげた。先ほど、スマホを取り出した際にポケットから落ちたワイヤレスイヤホンだ。
(右耳のか)
すぐにそうわかったのは、「ふみニャン」のロゴが見えたからだ。ちなみに左耳用には「ふみニャン」の足跡が刻印されていて、同じものを持っている女子生徒が「かわいい!」とはしゃいでいた記憶がある。
青野は、ロゴを指で撫でた。
キャラクターグッズに興味がないはずの彼が、うっかりこんなものを買ってしまったのは、ひとえに夏樹の影響だ。
──「なあなあ、可愛いよな、『ふみニャン』って! オレの次に可愛いよな!」
笑顔の夏樹に、たしか自分は「いや、どっちも可愛くないです」と答えたのだったか。
そのくせ「ふみニャン」のことが気になって、ひそかにスタンプやグッズを買い集めるようになった。ちなみに、夏樹に贈ったあのキーホルダーは個数限定のレアもので、手に入れるのにけっこう苦労した一品だ。
(けど、ぜんぜん嬉しそうじゃなかったな)
しかも、受け取るとき、どこか寂しそうに瞳を揺らしていた。
そのことに青野はなんとなく不安を覚えて、慣れない冗談とともに強引にキーホルダーを握らせたのだけれど。
今、思えばそれも当然だ。あのキーホルダーを受け取ったのは、「ふみニャン」を可愛いと笑った夏樹とは違う人物だったのだから。
(ああいうこと、他にもあったんだろうな)
今この世界にいる星井夏樹は、聡い人だ。
聡くて、とても繊細な人だ。
青野からの好意に戸惑いを覚えるだけでなく、傷ついたこともおそらくあっただろう。
けれども、彼はそれを青野に悟らせなかった。
ただ一緒に笑って受けとめてくれた。
だから青野は、彼が差し出してくれた優しさを、疑うことなく受け入れることができたのだ。
(そうだ、あの……)
いつだったか。たしか、復縁して間もないころ、ラッキーバーガーで青野が思わず泣いてしまったとき。
──「今までごめんな。いっぱい浮気して、お前のことを不安にさせて」
冷静に振り返ってみれば、元の夏樹があんな殊勝なことを言うはずがない。
今の「彼」だから、あの言葉が出てきたのだ。
青野は、両手で顔を覆った。
様々な想いが、一気に胸の奥からこみあげてきた。
(あの人のことが、好きだった)
「わがままプリンセス」だろうが「尻軽クソビッチ」だろうが、青野は星井夏樹のことが大好きだった。
でも、だからこそ、浮気されるたびにどうしようもなく傷ついた。すぐにバレるような言い訳をしないで、せめて真摯に謝ってほしかった。
それを与えてくれたのが、今の「浮気をしていない夏樹」だ。
おそらく、青野がずっと傷ついてきたことを理解していて、だからこそ「浮気をした星井夏樹」として青野に謝ってくれたのだろう。
優しい人だ。
優しくて、他人を慮ることができる人だ。
そんな人を、このまま元の世界に帰してしまってもいいのだろうか。
(嫌だ……そんなの絶対に嫌だ!)
青野は、スマホをタップした。折しもホームに快速列車が入ってきたものの、構うことなくメッセージアプリをたち上げた。
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