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第9話(Another.ver)

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到着した電車はすでにぎゅうぎゅうで、俺たちは車両の端っこに押しやられた。

「あの、話というのは……」
「ナナセのことだ」

俺は、青野の緑色の目を睨みつけた。

「お前、ナナセのことを避けてるらしいな?」
「……それは……」
「誤魔化すな。俺はそう聞いた。しかも、そのせいでまわりの連中も気を遣っているって」
「……」
「どういうつもりだ? 俺たちのこととあいつは関係ないだろう?」

青野は、何か言いたげに顔をしかめた。
なるほど、お前にはお前の言い分があるってわけか。

(だったら聞いてやる)

せっかくの機会だ。お前の言いたいこと、きっちり聞いてやろうじゃねぇか。
けれども、青野が口にしたのは詫びの言葉だった。

「すみません。夏樹さんの指摘どおりです」
「じゃあ、どうすんだ?」
「星井とは、これまでどおりふつうに接するように努めます」
「本当だな?」
「本当です。ご心配おかけしました」
「今の言葉、絶対に守れよ?」

もう二度と、うちの妹を無視するんじゃねーぞ?
少しキツめに念押しすると、青野は小さく「はい」とうなずいた。
よし、これでナナセの件は解決だ。
よかったな、ナナセ! 兄ちゃん、ビシッと言ってやったぞ!

(……で)

問題はこのあとだ。
青野があっさり謝ってくれたおかげで、会話が終了しちまった。

(やばい……ここから下車駅までどれくらいだ?)

たしか20分はあるよな?
下手すれば30分くらい?

(え……それまで青野とふたりきり?)

こんなぎゅうぎゅう詰めの空間で?
お互い、特に話すこともないのに?

(いや、話すことならあるだろ!)

昨日、俺──というか八尾が代理で送ったメッセージ。
あれの返信、まだもらってないだろうが。
気づいたとたん、嫌な感じの汗がじんわりとてのひらに滲んだ。
やべぇ、アレって今どうなってるんだ?
もしかして、まだ未読のまま?
それとも、いちおう読んではくれたのか?

(くそ……なんで確かめておかなかったんだよ、俺!)

こうなったら、直接本人に確かめて──
いや、でもここで「夏樹さんのアカウント、ブロックしてますんで」なんて返されたら、マジでもう立ち直れねぇ。

(だったら、このまま無言で乗り切るか?)

けど、それじゃ、昨日までと何ら変わらないわけで──
ぐるぐる頭を悩ませながら、俺は少しだけ視線をあげた。
青野は、ずっと窓の外を見ていた。
3週間前の夜と同じ、俺と目を合わせる気はありませんと言わんばかりに。

(……キツ)

現実を突きつけられた気がした。
そうか、青野は俺との対話を望んでいないんだ。
けど、いい加減このままでいるのも辛い。ダメならダメで、ちゃんとそう伝えてもらわないと──

「うわっ」

突然、耳をつんざくような急ブレーキの音が響いた。
車内が波打つように大きく揺れ、背後にいたおっさんから勢いのある頭突きをくらう。
当然、バランスを崩した俺は、不覚にも目の前の青野に抱きついてしまった。
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