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第8話
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え、なんで今、その質問?
あまりにも唐突すぎやしないか?
怪訝に思いながらも、俺は「そんなの決まってるだろ」と口を開く。
「サッカー部」
「えっ」
「に入りたかったけど、練習キツそうだから諦めた」
「……そのあとは?」
「どこにも入ってねーよ。知ってんだろ」
わざと訊ね返すと、ナナセは大きくうなずいた。
「だよね、お兄ちゃん帰宅部だったよね!」
「おう」
当然とばかりに笑ってみせたけど、実は冷や汗ダラダラだ。
そう、「サッカー部」っていうのは元いた世界での俺自身の経験。うっかり口にしちまったけど、これでなんとかリカバリーできたよな?
ところが、ナナセの質問はこれで終わりじゃなかった。「じゃあ、今日の朝食は?」「青野からもらった誕生日プレゼントって?」「今年のお正月、家族旅行でどこ行った?」──
おいおい、どうした?
なんで俺、こんな質問攻めにあってんの?
ひとまず「八尾メモ」やこれまで俺自身が集めた過去情報を思い出しながら、ひとつひとつ答えていく。どうしてもわからないことは「えーなんだっけ」とか「ああ、ええと…ほら…ほら!」みたいな感じで誤魔化して。
「ていうかさ」
もしかして俺、また記憶障害を疑われている? お前の質問、さっきから俺が何をどこまで覚えているのか探るようなものばかりだよな?
俺の指摘に、ナナセは「うーん、まあ」と肯定寄りの答えを返してきた。
──うわ、マジか。俺、今日お前の前で疑われるような言動したっけ?
すると、ナナセは「違う違う」と慌てたように首を振った。
「私じゃなくて、青野」
……え?
「青野がさぁ、またお兄ちゃんの様子がおかしいって。また記憶障害を起こしてるんじゃないかって気にしてて」
でも普通じゃんねー、とナナセは朗らかに笑う。
もちろん俺も「当たり前だろ」って返したけど、本当は心臓が早鐘のような音をたてていた。
(……どこだ?)
俺、どこでしくじった?
ラッキーバーガーでおしゃべりしていたとき──いや、店にいる間はふつうに会話をしていたはずだ。
(となると帰り道か?)
やっぱり、青野の「キス待ち」にすぐに行動できなかったのがマズかった? それともそのあとのリアクションがおかしかった?
(……わかんねぇ)
どこがダメだったのか、心当たりがさっぱりない。
けど、それ以上にまずいのは、今回青野がそれを指摘してくれなかったことだ。
これまでのあいつは、俺が「こっちの俺」らしくない態度をとると、すぐにその場で指摘してくれていた。だから、俺はその都度修正できていたんだ。
でも、今後そうした機会がなくなるとしたら?
いつまで経っても、俺は自分の行動のおかしな部分に気づけない。青野は青野で、そんな俺にどんどん不信感を募らせるはずだ。
(怖い)
もっと完璧にやらないと、いつか俺が偽物だってバレてしまう。
その先にあるのは、当然ふたりの関係の破綻だ。
(いっそ、打ち明けるか?)
けど、どうやって? あいつは、嘘つかれるのが嫌いっぽいのに?
そもそも、これまで何度訴えても、ぜんぜん理解してもらえなかったじゃん。
(やっぱり、俺が「こっちの俺」に完璧になりきるしかないんじゃ……)
「……お兄ちゃん? どうかした?」
「ああ、いや……」
大丈夫、なんでもない。自分自身に言い聞かせるように、俺は妹に笑顔を見せた。心のどこかで、出口の見えない迷路に足を踏み入れてしまったことを自覚しながら。
あまりにも唐突すぎやしないか?
怪訝に思いながらも、俺は「そんなの決まってるだろ」と口を開く。
「サッカー部」
「えっ」
「に入りたかったけど、練習キツそうだから諦めた」
「……そのあとは?」
「どこにも入ってねーよ。知ってんだろ」
わざと訊ね返すと、ナナセは大きくうなずいた。
「だよね、お兄ちゃん帰宅部だったよね!」
「おう」
当然とばかりに笑ってみせたけど、実は冷や汗ダラダラだ。
そう、「サッカー部」っていうのは元いた世界での俺自身の経験。うっかり口にしちまったけど、これでなんとかリカバリーできたよな?
ところが、ナナセの質問はこれで終わりじゃなかった。「じゃあ、今日の朝食は?」「青野からもらった誕生日プレゼントって?」「今年のお正月、家族旅行でどこ行った?」──
おいおい、どうした?
なんで俺、こんな質問攻めにあってんの?
ひとまず「八尾メモ」やこれまで俺自身が集めた過去情報を思い出しながら、ひとつひとつ答えていく。どうしてもわからないことは「えーなんだっけ」とか「ああ、ええと…ほら…ほら!」みたいな感じで誤魔化して。
「ていうかさ」
もしかして俺、また記憶障害を疑われている? お前の質問、さっきから俺が何をどこまで覚えているのか探るようなものばかりだよな?
俺の指摘に、ナナセは「うーん、まあ」と肯定寄りの答えを返してきた。
──うわ、マジか。俺、今日お前の前で疑われるような言動したっけ?
すると、ナナセは「違う違う」と慌てたように首を振った。
「私じゃなくて、青野」
……え?
「青野がさぁ、またお兄ちゃんの様子がおかしいって。また記憶障害を起こしてるんじゃないかって気にしてて」
でも普通じゃんねー、とナナセは朗らかに笑う。
もちろん俺も「当たり前だろ」って返したけど、本当は心臓が早鐘のような音をたてていた。
(……どこだ?)
俺、どこでしくじった?
ラッキーバーガーでおしゃべりしていたとき──いや、店にいる間はふつうに会話をしていたはずだ。
(となると帰り道か?)
やっぱり、青野の「キス待ち」にすぐに行動できなかったのがマズかった? それともそのあとのリアクションがおかしかった?
(……わかんねぇ)
どこがダメだったのか、心当たりがさっぱりない。
けど、それ以上にまずいのは、今回青野がそれを指摘してくれなかったことだ。
これまでのあいつは、俺が「こっちの俺」らしくない態度をとると、すぐにその場で指摘してくれていた。だから、俺はその都度修正できていたんだ。
でも、今後そうした機会がなくなるとしたら?
いつまで経っても、俺は自分の行動のおかしな部分に気づけない。青野は青野で、そんな俺にどんどん不信感を募らせるはずだ。
(怖い)
もっと完璧にやらないと、いつか俺が偽物だってバレてしまう。
その先にあるのは、当然ふたりの関係の破綻だ。
(いっそ、打ち明けるか?)
けど、どうやって? あいつは、嘘つかれるのが嫌いっぽいのに?
そもそも、これまで何度訴えても、ぜんぜん理解してもらえなかったじゃん。
(やっぱり、俺が「こっちの俺」に完璧になりきるしかないんじゃ……)
「……お兄ちゃん? どうかした?」
「ああ、いや……」
大丈夫、なんでもない。自分自身に言い聞かせるように、俺は妹に笑顔を見せた。心のどこかで、出口の見えない迷路に足を踏み入れてしまったことを自覚しながら。
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