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第7話

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「えっ、昼飯は?」
「弁当忘れてきたんで、購買のパンをひとつ」
「バカ、もっと買えよ!」
「そうしたかったんですが、昼休みにいろいろあって購買に行くのが遅くなってしまって」

なるほど、それでパン1個だけか。
そりゃ、腹が鳴るのも当然だよな。

「じゃあ、ラッキーバーガーにでも寄って行くか」
「いえ」
「遠慮するなって。今日は俺がおごって……」

っと「おごってやる」はダメか、「わがままプリンセス」らしくないもんな。
こういうときは、ええと──

「もちろん、その……お前のおごりで」
「おごりませんし、そもそも今日は塾の日なんで」
「あっ……そう。じゃあ、無理か」

がっかりしたような素振りを見せたけど、内心ちょっとホッとしていた。
だって、年下におごらせるのって抵抗感があるだろ。むしろ、俺がこいつにおごってやりたいくらいだし。
と、青野がジッとこっちを見ていることに気がついた。

「なんだよ」
「いえ……今日は駄々をこねないんですね」
「は?」
「てっきり『塾なんて休めよ』と言われるかと」

(え──)

マジか。それが「わがままプリンセス」の通常運転か。

「いや……けど塾は大事だし、サボらせたらお前の親御さんに申し訳ないし」
「『親御さん』って」
「わ、笑うなよ! だって実際そうだろ?」

塾ってけっこう金がかかるって聞いてるし、なのに俺のわがままでサボらせるなんてマジで申し訳たたないし、それ以外にもほら、なんつーか、ええと……

「俺たち本当に付き合ってるわけじゃないし!」

もちろん、最後の言い訳は声を潜めた。だって、他のヤツらに聞かれるといろいろまずいだろ。
けど、その一言で青野の表情が明らかにかげった。緑色の瞳がゆるりと流れ、口元に皮肉げな笑みが浮かぶ。

「そうっすね。あんたにそんなことを言う権利ありませんでしたね」

(あ──っ、くそ!)

俺は頭をかきむしりたい衝動にかられた。

(バカ! なに言ってんだ、俺!)

今のは明らかに失言だ。
青野的に、こんなことを言われて嬉しいはずがない。

(なんとか挽回しないと)

でも、どうすればいい? 青野に塾をサボらせず、それでいて「わがままプリンセス」っぽいリアクションって──

「……コンビニ」
「え?」
「コンビニなら付き合ってやってもいいぞ!」

わざとエラそうにそう言ってやると、案の定青野は微妙な顔つきになる。
うんうん、わかる「なんだよ、その上から目線」ってことだよな?
けど、お前が好きな「わがままプリンセス」ならこういう言い方をするはずだろ? なんなら、もっと高飛車な口調で──

「めずらしいっすね。あんたがそんな気遣いするの」

──あれ?

「昼休みに何か悪いもんでも食ったんっすか」
「食ってねぇよ! ふつうに母ちゃんの弁当食ったっつーの!」

いや、そんなことはどうでも良くて。

(今の俺の言動も、不正解ってことか?)

でも、俺なりにかなり頑張ったつもりなんですけど! こっちの俺っぽく振る舞ったつもりなんですけど!
もはや涙目になりかけている俺を見て、青野はなぜかふっと笑った。

「駅前のコンビニがいいです」
「……え」
「あそこ、今おにぎり割引セールやってますし」

そう言って、青野はさっさと歩き出す。ぽかんと口を開けたままの俺を置き去りにして。
いや、待てよ! こっちはまだちゃんと飲み込めていねーんだよ!

「おい、青野……」
「わかってます。付き合ってくれたお礼でしょう?」
「へっ?」
「いつものでいいっすよね」

同意を求めてくる青野は、ほんのり目元を緩ませている。
その顔につられて、俺は「お、おう」とうなずいたけど──「いつもの」ってなんだ?
「お礼」って何をするつもりなんだ?
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