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第5話

3・八尾によると

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 そんなわけで数時間後。
 コンビニの肉まんをぶらさげて、八尾の病室を訪れた。

「おつかれー」
「おう、例の『ブツ』は?」
「物騒な言い方するなよ。ほら」
「……チーズ肉まんか。悪くねぇな」

 八尾いわく、病院食はどうも物足りなくて、ときどき無性にがっつり味の濃いものが食いたくなるらしい。
 そういえば、あっちの八尾も小柄なわりに大食いだったよな。いつも俺の倍の量の飯を食っては「なんで身長に反映されねーんだろう」ってボヤいてたっけ。
 「熱っ、熱っ」と嬉しそうに肉まんを頬張っていた八尾は、俺の話を聞き終えるなりしょっぱい顔つきになった。

「まあ、たしかにそういうところがあるんだよな、こっちのお前」
「そういうところって?」
「『○○してくれないならここから飛び降りる!』──で、本当に実行にうつしちまうようなところ」
「え……それ、マジでメンヘラじゃん」
「メンヘラっつーか、バカなんだよな。いつも後先考えずに突っ走って、痛い目にあって、さらに逆ギレするっていう」
「マジか……」

 そりゃ「わがままプリンセス」ってあだ名がつくわ。とてもじゃないけど、俺にはそんなことできそうにない。「元に戻れる可能性がある」って言われても、階段から飛び降りるのをためらっているのに。

「それにしても白昼夢か」
「ああ、なんかメシ食ってる途中でふっと意識が遠くなってさ。しかも、妙にリアルだったから、ただの夢とは思えなくて」
「ってことは?」
「あくまで仮定だけど……こっちの俺が実際にやったことなのかなぁ、なんて」

 とたんに、八尾の目がキラキラと輝き出す。
 ああ、くそ、やっぱりこういう反応になるよな。ついでに、このあとお前が何を言うのかも予想できるぞ。
 お前さ、絶対──

「よし、次こそ飛び降りろ!」

 ほら、きた。

「断る! 絶対に嫌だ!」

 何度も言ってるけど、それは「最後の手段」だっての!
 それに、この間は瞑想だけでも十分結果が出そうだっただろ? だったら、次回もそれを試させてくれよ。

「それは構わねーけど……『瞑想』なぁ」

 八尾は、不満げに唇をとがらせた。

「あれ、ほんとに効果があったのか? ここでやってみせたときは、ふつーに『10分間、瞑想して終わり』だっただろ」
「それは認める。けど、西階段でやったときはマジで違ったんだって!」

 あのときの、ふわっと魂が浮く感じは、やっぱりただ事じゃない。青野に身体を揺さぶられなかったら、あのまま元の世界に戻れた気がするんだよ。

「となると『西階段の踊り場』は外せねぇってことか」
「たぶん。今日みた夢のこともあるし」

 やっぱり、あそこはキーポイントな気がする。ただ、誰でも来られる場所だから、また邪魔が入るかもしれねーけど。

「まあ、その点は大丈夫だ。次は俺がきっちり付き合うから」
「え、じゃあ……」
「今週末、退院予定」

 親指をたてる八尾に、俺は「おおおっ」と声をあげた。

「やったじゃん、おめでとう!」
「まーな。って言っても完治したわけじゃねぇから、まだまだ当分は松葉杖生活だけどよ」

 それでも、八尾が一緒にいてくれるのは心強い。これで次回の満月のときは、安心して挑戦できそうだ。

「あとは、そうだな……お前が見た白昼夢のことも、俺なりにちょっと調べてみるか」
「頼む。俺も青野に訊いてみるから」

 あのケンカが、実際にこっちの俺との間に起きたものなのか。もし、そうだとしたら、いつ頃だったのか。
 それによって、また新しい試みができるかもしれない。

(ただ、問題は……)
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