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第4話

16・ついに昼休み

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 そんな感傷的な気持ちを抱えたまま午前中を過ごし、いよいよ昼休み。八尾とたてた計画を実行に移すときがやってきた。
 少し緊張しながら、俺は最上階の踊り場に向かって階段を一段一段のぼっていく。
 まだ昼休みがはじまって間もないせいか、今のところ、誰かとすれ違うこともない。階数があがればあがるほど、人の気配がどんどん薄くなっていく。
 よし、いい感じだ。これなら途中で邪魔が入ることもないだろう。
 最上階に到着すると、以前青野が瞑想していた場所に腰を下ろした。
 そういえばあいつ、あれから煩悩退散できたのかな。まあ、できていなくても問題ないか。こっちの俺が戻ってくるわけだし。

(青野のためにも、成功させないと)

 深呼吸を数回。身体の力が抜けてきたところで、俺はゆっくり目を閉じた。

──「瞑想のコツは、いかに雑念を払うかです」

 あっちの青野の声が、耳奥によみがえった。

──「最初は目を閉じていても、いろんな音が聞こえてくるんです。空調の音とか、車のエンジン音とか。それと思考ですね。『うまくできるかな』『誰かに邪魔されるかも』『このあと牛丼食べよう』……そういった雑念がどうしても浮かんできて、瞑想の邪魔をするんです」

 そうそう、今まさにお前の声がよみがえっているよ。
 あとは、誰かの足音とか、下手くそなトランペットの音色とか。ブーンって低く鳴っているのは、どこかのモニターかな。

――「なので、そういうのをひとつひとつ取り除いていきます。俺は、頭のなかでホウキを振りまわしますね。竹製の大きなホウキで、雑音や雑念を全部払うイメージです」

 頭のなかの空白が、ホウキを動かすたびに増えていく。
 当然、青野のナビゲートも遠くなる。フロアのどこかから聞こえていたモニター音みたいなものも、今ではまるで聞こえない。
 うん……うん、この調子……
 あとはどんどん沈んでいくだけ──

(……ん?)

 なぜか、ふわりと身体が軽くなった。
 え、なんだこれ……俺、今、宙に浮いてないか?
 いや、足の裏はちゃんと床についている。
 じゃあ、意識……というか、魂だけがさまよい出てしまっているとか?
 どうしよう、こんなの初めてだ。
 俺の場合、「瞑想」は「沈む」イメージなんだ。目を閉じて頭を空っぽにしていくと、徐々に身体が重たくなって、意識の沼にずぶずぶと沈みこんでいく──みたいな。
 だから、こんなふうに「浮く」なんて経験したことがない。どうしよう、ちょっと怖い。これじゃ、幽体離脱じゃん。
 ああ、でも、それはそれでむしろ理に適っているのか。このままふわふわと魂が浮きあがれば、そのまま元の世界へ、きっと──

「夏樹さん!」

 いきなり、強く肩を揺さぶられた。

「しっかりしてください、夏樹さん!」

 待て待て……誰だ、俺の身体を揺さぶってるやつ!
 ふわふわと浮いていた意識が、一気に元いた場所に引き戻される。
 それこそ、魂を素手で捕まれて、力任せに引っ張られたような。

「ハァ……ッ」

 大きく息を吐き出して、俺は閉じていた目を開けた。
 真っ先に視界に飛び込んできたのは──緑色の目をした青野だった。
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