53 / 189
第4話
7・瞑想、迷走…?(その2)
しおりを挟む
「まあ、いいか」
いや、よくねーよ! さんざんもったいぶっておいてそれかよ!
再び抗議する俺に、八尾はカラカラと笑った。
「だって、やっぱ違うだろ。第三者の俺があれこれ言うのは」
「とか言って、ほんとは説明するのが面倒くさくなっただけだろ」
「ハハハッ、わかってんじゃねーか」
くそ、こんなの詐欺だ。俺の心をもてあそびやがって。
「まあ、でも安心しろよ。一番大事なとこは迷走してねーから」
「というと?」
「お前を元の世界に戻すって計画。そっちはちゃんと前進してんだ、だったら何も問題ないだろ」
「な?」と親指をたてる親友に、不覚にもちょっとキュンときた。
なんだよ、こっちの八尾。思ってた以上に頼りがいがあるじゃん。
「ヤバい、惚れそう」
「いいぞ惚れても。青野にまた嫌味言われるだろうけど」
「それは……ちょっと困る」
いや、嫌味そのものは我慢できなくもないんだけどさ。
あいつ、たぶんまた傷ついた顔するだろ。
それは嫌だ。絶対に嫌だ。
だって、そういうときのあいつ、本当に辛そうなんだ。緑色の目をゆらゆら揺らして、そのくせ「なんともありません」って強がろうとして。
「そういうの見ちゃうと、罪悪感がすごいっつーか」
「あーそれな、こっちのお前も言ってたわ」
だよな? やっぱりそう思うよな?
おお、やっとこっちの俺と意見が合って……
「だから、ときどきすげーいじめたくなるんだと。意外とSだよな、こっちのお前」
──前言撤回。こっちの俺、ただのひどいヤツだった。
あの青野を見て「いじめたくなる」なんて、人の心がなさすぎるだろ。
「でもよ、お前が元の世界に戻った場合、青野はその『ひどいお前』とよりを戻すことになるんじゃねーの?」
「う……」
「まあ、十中八九戻るだろうな。こっちのお前、マジで自己主張強いから『別れたなんて聞いてない! 青野は! 俺の彼氏!』って大騒ぎするだろうし」
「お、おう……そっか……」
ヤバい、迷いが生じてきた。
こっちの俺とよりを戻すのは、青野にとって幸せなのか?
やっぱりナナセと付き合ったほうが幸せになれるんじゃないのか?
でも、そうなったらそうなったで、なんだかまたモヤりそうだし……
(いっそ、俺が青野と……)
そこまで考えたところで、我に返る。
待て待て、なにを言い出すんだ、俺。
それはない、絶対にない!
俺が青野と付き合うなんて、そんなこと……
「ま、青野の話はそれくらいにして。もうちょっと話を詰めようぜ」
「お、おう」
そうだ、大事なのはそっちだ。今は、どうやったら俺が元の世界に戻れるのかを考えないと。
その結果、青野がこっちの俺とよりを戻すかどうかは青野自身の問題だ。俺が口出しすることじゃない。
「とりあえず『瞑想』は絶対試すとして──他にお前がやっていそうなことってあるか?」
「それが、あるにはあるけど、すげーありきたりなことばかりなんだよな」
「というと?」
「マンガを読むとか動画を観るとか、あとは……SNSをチェックするとか」
どれもあまりにもふつうすぎて、特別感がぜんぜんない。
それに、このテのことって、これまでの満月の日に何度もやっていたことだろ? なのに前回まで何も起こらなかったんだから、こういうのは除外していいと思うんだ。
「たしかに……となると、今んとこ『瞑想』だけが新しくやりはじめたことってわけか」
「ああ、たぶん……俺が覚えている限りでは」
なんかごめんな、はっきり断言できなくて。
謝ると、八尾は「気にするな」と笑ってくれた。
「まだもうちょっと日はあるだろ。また何か思い出したら教えてくれ」
「わかった」
「あとは、そろそろ具体的なことを決めないとな」
「というと?」
「時間と場所。『満月の日』なのは確定として、昼間に試すか、夜に試すか。場所は学校か、お前の家か。俺に付き添ってほしいなら、場所は『病院』一択で時間も限られるわけだけど……」
というわけで、ふたりでさらに話し合った結果──
いや、よくねーよ! さんざんもったいぶっておいてそれかよ!
再び抗議する俺に、八尾はカラカラと笑った。
「だって、やっぱ違うだろ。第三者の俺があれこれ言うのは」
「とか言って、ほんとは説明するのが面倒くさくなっただけだろ」
「ハハハッ、わかってんじゃねーか」
くそ、こんなの詐欺だ。俺の心をもてあそびやがって。
「まあ、でも安心しろよ。一番大事なとこは迷走してねーから」
「というと?」
「お前を元の世界に戻すって計画。そっちはちゃんと前進してんだ、だったら何も問題ないだろ」
「な?」と親指をたてる親友に、不覚にもちょっとキュンときた。
なんだよ、こっちの八尾。思ってた以上に頼りがいがあるじゃん。
「ヤバい、惚れそう」
「いいぞ惚れても。青野にまた嫌味言われるだろうけど」
「それは……ちょっと困る」
いや、嫌味そのものは我慢できなくもないんだけどさ。
あいつ、たぶんまた傷ついた顔するだろ。
それは嫌だ。絶対に嫌だ。
だって、そういうときのあいつ、本当に辛そうなんだ。緑色の目をゆらゆら揺らして、そのくせ「なんともありません」って強がろうとして。
「そういうの見ちゃうと、罪悪感がすごいっつーか」
「あーそれな、こっちのお前も言ってたわ」
だよな? やっぱりそう思うよな?
おお、やっとこっちの俺と意見が合って……
「だから、ときどきすげーいじめたくなるんだと。意外とSだよな、こっちのお前」
──前言撤回。こっちの俺、ただのひどいヤツだった。
あの青野を見て「いじめたくなる」なんて、人の心がなさすぎるだろ。
「でもよ、お前が元の世界に戻った場合、青野はその『ひどいお前』とよりを戻すことになるんじゃねーの?」
「う……」
「まあ、十中八九戻るだろうな。こっちのお前、マジで自己主張強いから『別れたなんて聞いてない! 青野は! 俺の彼氏!』って大騒ぎするだろうし」
「お、おう……そっか……」
ヤバい、迷いが生じてきた。
こっちの俺とよりを戻すのは、青野にとって幸せなのか?
やっぱりナナセと付き合ったほうが幸せになれるんじゃないのか?
でも、そうなったらそうなったで、なんだかまたモヤりそうだし……
(いっそ、俺が青野と……)
そこまで考えたところで、我に返る。
待て待て、なにを言い出すんだ、俺。
それはない、絶対にない!
俺が青野と付き合うなんて、そんなこと……
「ま、青野の話はそれくらいにして。もうちょっと話を詰めようぜ」
「お、おう」
そうだ、大事なのはそっちだ。今は、どうやったら俺が元の世界に戻れるのかを考えないと。
その結果、青野がこっちの俺とよりを戻すかどうかは青野自身の問題だ。俺が口出しすることじゃない。
「とりあえず『瞑想』は絶対試すとして──他にお前がやっていそうなことってあるか?」
「それが、あるにはあるけど、すげーありきたりなことばかりなんだよな」
「というと?」
「マンガを読むとか動画を観るとか、あとは……SNSをチェックするとか」
どれもあまりにもふつうすぎて、特別感がぜんぜんない。
それに、このテのことって、これまでの満月の日に何度もやっていたことだろ? なのに前回まで何も起こらなかったんだから、こういうのは除外していいと思うんだ。
「たしかに……となると、今んとこ『瞑想』だけが新しくやりはじめたことってわけか」
「ああ、たぶん……俺が覚えている限りでは」
なんかごめんな、はっきり断言できなくて。
謝ると、八尾は「気にするな」と笑ってくれた。
「まだもうちょっと日はあるだろ。また何か思い出したら教えてくれ」
「わかった」
「あとは、そろそろ具体的なことを決めないとな」
「というと?」
「時間と場所。『満月の日』なのは確定として、昼間に試すか、夜に試すか。場所は学校か、お前の家か。俺に付き添ってほしいなら、場所は『病院』一択で時間も限られるわけだけど……」
というわけで、ふたりでさらに話し合った結果──
20
お気に入りに追加
294
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜
ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。
王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています!
※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。
※現在連載中止中で、途中までしかないです。
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――
天海みつき
BL
族の総長と副総長の恋の話。
アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。
その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。
「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」
学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。
族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。
何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる