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第3話

7・なんかヘンだ

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 こっちの世界に来てから1週間が過ぎた。
 元いた世界との違いもわかるようになってきて、ようやくちょっとはなじんできたかなってところ。これも八尾のおかげだな。「これだけは頭にいれておけ」ってこと、いろいろ教えてくれたから。
 昼飯は、あいかわらず山本たちと学食に来ることが多い。ちなみに、今日のお目当ては「チャーシュー麺」。だって「チャーシュー大盛りの日」だもん。そりゃ、頼まないわけにはいかないよな。
 で、最初にラーメンを受け取ったのが俺だったから、待っている間、全員分のお冷やを用意しておいた。そしたら「どうした星井!?」って、みんなにえらく驚かれた。

「なんだよ、これくらいやるっての!」
「いやいや、今まで絶対やらなかったじゃん」
「そうそう、いつも青野くんに『水持ってきて~』『トレイ運んで~』ってお願いしてさ」

 うっ……そうだったのか。
 そりゃ「わがままプリンセス」ってあだ名がつくわけだ。

「いいんだよ。俺はこれからキャラ変するって決めたの」
「どうだか」
「いつもそう言って失敗してるじゃん」
「今度は大丈夫だっての!」
「でも、まあ、そのほうがいいよな。元カレはもう手を貸してくれないわけだし」

 山本の視線が、少し離れたテーブルに向けられた。
 その先にいたのは、仲間とおしゃべりしながらメシを食っている青野だ。

(なんか……久しぶりだな)

 3日目の登校時に出くわして以来、青野と顔を合わせていなかった。まあ、学年が違うからな、こうなるのが普通だよな。

(つーか隣にいるのナナセじゃん)

 じゃあ、一緒にいる他の連中もクラスメイトか。ナナセと、女子がもうひとり。あとの4人は全員男子。

「お前の妹、可愛いよな」

 山本が、箸を持つ手を止めた。

「そうか? ふつうだろ」
「いやいや、可愛いって。付き合ってるヤツいねーの?」
「……たぶん」

 元いた世界のあいつは青野と付き合ってたけど、こっちのナナセは「あり得ない」って言ってたしなぁ。なんてことを、チャーシューをかじりながら思い出していると

「青野と付き合ったりして」
「……え」
「だって仲よさそうじゃん、ほら」

 ──たしかに。
 山本が指摘したとおり、ナナセと青野の距離はけっこう近い。というか、ナナセが青野に近づいているんだ。あいつが食っているものを覗き込んで、楽しそうに話しかけながら、背中とか叩いたりして。

「あ、また青野に触った」
「星井の妹、ボディタッチ多いよな」
「けど、青野限定じゃね?」
「女子のああいうのって『好意の表れだ』っていうよな」

 いやいや、待ってくれ。
 違うから。うちの妹は、誰にでもあんな感じだから。
 ほら、いるだろ? 異性同性問わずボディタッチが多いやつ。
 ナナセがまさにそう。だから、決して青野限定ってわけでは──

「そのうち、違う意味でも星井と『兄妹』になったりして」

 冗談っぽい山本の一言。
 それを打ち消すかのように、ガタンと大きな物音が響いた。
 ──え、何事?
 びっくりしている俺を、さらにびっくりしたように見上げている山本たち。
 ああ──俺か。俺が、勢いよく立ちあがったせいか。

「ほ、星井?」
「どうした? いきなり立ち上がったりして」
「あっ、え、ええと……」

 ヤバイ、ここは誤魔化さないと。

「み……水のおかわり取ってくるけど! お前らもいる?」
「あーじゃあ、頼もうかな」
「俺も」
「俺もおねがい」
「了解」

 へらりと笑って、半ば逃げるように席を離れる。
 他のテーブルのヤツらの視線が痛い。そりゃそうだ、ふつう「何事だ?」って思うよな。
 なのに、ナナセと青野はあいかわらず楽しそうにおしゃべりしている。
 ああ、知ってる──あの光景。元いた世界では、さんざん見てきた。

(なのに、なんでモヤモヤしてんだろう)

 くそ、なんかヘンだ、今日の俺。
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