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第3話

4・覚えなければいけないこと

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 というわけで、入院中の親友に「ひまつぶし」のネタを提供した俺だけど、理解者がひとりできたことで心がだいぶ軽くなっていた。
 病院からの帰り道はけっこうな上り坂が続いていたにも関わらず、気分は上々、まさに絶好調。俺のチャリを軽々追い抜いていった電動自転車並みの軽やかさだ。
 さらに、家に着くころには、八尾から新しいメッセージが届いていた。

「なんだ、これ」

 どうやらメモアプリに入力したものを、スクショにしてくれたようだ。
 アップされた画像は、全部で2つ。
 そのうちの1つは、さっき病室で話し合った内容のまとめ。
 もう1つは、こっちの俺と青野の「思い出エピソード」。帰り際に「お前が知っている範囲で構わないから」って頼んでおいたものだ。

「うわ、結構あるな」

 交際期間半年ならそれほど多くないだろうって高をくくってたけど、そんなことなかった。めちゃくちゃ多かった。
 つーか、こっちの俺、けっこう八尾と恋バナしてたんだな。元いた世界の八尾と俺は、面白かったゲームや動画、マンガの話ばかりだったけど。

「好きな食べ物……イカの塩辛。マジか、渋いな」

 ああ、でも、なんか想像できるかも。
 熱々ごはんにたっぷり塩辛を乗せて、大口開けて食べている青野の姿。

「デートも……けっこう行ってるんだな」

 もっとも、添えられてるコメントを読むかぎり、デートのほとんどは俺が『行きたい』って駄々こねて、青野を引きずりまわしていたっぽいけど。

「ハハ……なんだよ、この『ロイヤルミルクティーLサイズ事件』って」

 他にも様々な「事件」が連ねられていて、その原因のほとんどがどうやら俺にあるらしい。さらに「事件」の半分くらいは、俺の「尻軽クソビッチ」関連のものなんだから、ほんと「青野ごめん!」って感じだ。

「それでも半年付き合っていたんだもんなぁ」

 青野はすごい。ほんとすごい。
 これじゃ、我慢強いのを通り越して、もはや精神鍛錬の域じゃん。俺が青野なら、絶対1ヶ月ももたずにサジを投げてるって。
 ひととおり読み終わったところで、俺はスマホの画面を撫でた。これだけは何度も読みかえしてしっかり頭にたたき込んでおかないと。
 今更、これを覚える意味があるのかはわからない。もう別れちまったから、あいつと顔を合わせる機会は今後グッと減るはずだ。
 それでも、うっかり顔を合わせたとき、今日みたいに傷つけちまうのはごめんだ。あいつの、痛みをこらえるような顔をもう二度と見たくないんだ。

(ひとまず八尾に感謝だな)

 スクショのお礼に「八尾、愛してる」ってメッセージを送っておいた。
 すぐに、ゴリラが投げキッスするスタンプが返ってきた。
 あいつ、やっぱりヒマなんだな。けど、いろいろ教えてくれてありがとう。これからもよろしくな。
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