天使の住まう都から

星ノ雫

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一章

013 薬草採取 2

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「アルテリア冒険者ギルド本店へようこそ。ケータさん、本日はどのような御用でしょうか?」

 このセリフはもうテンプレなんだな。

「常設依頼の達成報告ですね。――こちらお願いします」

 そう言い、俺はトマス君から貰った査定用紙を渡す。
 ミリアさんは用紙に目を通すと、やれやれといった顔をしてしまう。

「まったくケータさんは運がいいんだか悪いんだか。無事に帰ってこれて何よりです」

「あはは……。ミリアさん達のおかげで命拾いしました」

「ホントですよ、もう」

 そう言いながらもミリアさんは少し満足顔だ。

「あら、ケータさんはゴールデンホーンの角と革はどうするつもりなんです? 売れば結構な額になりますよ?」

「ああ、女性に喜ばれるって聞いたので、とりあえず大家さんに渡してミリアさんと大家さんのお二人で有効活用してもらおうかなと。――色々とお世話になってますしね」

「ふふふ、なかなかやりますねケータさん。好感度アップですよっ」

「やったぜ!」

 お互いちょっと照れながら、笑顔で軽口を叩く。

「では常設依頼の達成という事で、代金はこちらになります。――またのご利用お待ちしております」

 今回のギルドでの収入は小銀貨6枚に銅貨が2枚だった。ホーンラビットを狩れたのが大きい。



「ただいま帰りました」

「おかえりなさい。ご無事でなによりです」

「大家さん達のおかげで無事に帰ってこれました」

 大家さんは工房アトリエの方にいたので、このまま採ってきた薬草を見てもらう事にしよう。

「薬草を採ってきましたので、確認をお願いできますか?」

「ちょっと待ってくださいね。そちらの作業台へ並べておいて頂けますか? ――こちらの作業が終わり次第拝見しますので」

「わかりました」

 俺は作業台にケルナコを二十四株とクロセリナを六株並べると、暫く待つ事にした。

「はいごめんなさいね。お待たせしました」

「いえ、こちらこそ作業中にすいません」

「では確認させて頂きますね。――あら、クロセリナがあったんですね! 凄いですケイタさん」

「運良く見つける事が出来ました」

 大家さんはてきぱきと薬草の状態を確認していく。

「はい、丁寧なお仕事されてますのでどれも良い状態です。――これらは全て私の買取でよろしいです?」

「はい、お願いします。大家さんに言われた通り、半分はギルドに納品しました。ただ、クロセリナは少数でしたので全部こちらへ持ってきましたけど」

「そうでしたか。クロセリナは欲しかったので、とっても助かります。――では代金はこれでよろしいかしら」

 なんと、大家さんは小銀貨を8枚もくれた。

「えっ、こんなに頂いていいんですか?」

「勿論です。これでもギルドを通すよりも安いですからね」

「ありがとうございます!」

「こちらこそ。またお願いしますね」

 こうして初めての薬草採取は、とりあえず無事に終える事ができた。
 後日受け取ったゴールデンホーンの角と革は大家さんに大変喜んでもらえた。角は薬の材料になるとの事で大家さんが受け取り、革の方はミリアさんが衣装か何かをオーダーメイドする時の素材に使うそうだ。

 この日以降、俺は身体強化魔法や剣術の講習を受けながらも、少しずつ薬草採取の依頼をこなしていく事にした。
 そうそう、ギルドの解体作業場で解体の講習がある日は率先して参加した。日によって対象となる獣や魔物が違うのでどれも逃したくなかったんだよね。



 そんな感じで日常を過ごし、半月ほどが経った。

 身体強化魔法も、最近は外皮だけでなく身体能力全体を上げる事が少しずつできるようになってきていた。
 でもまだまだ練度が足りないので魔力の消費量も多く、集中を切らすとすぐに効果が落ちてしまう。

 そのため、最近は空手の型稽古を通して、インパクトの瞬間だけでも威力の乗った一撃を加えられるように鍛錬している。
 あと、買った剣に魔力を通す訓練もしている。武器屋のおじさんが言っていた通り、魔力を上手く通せると本当に切れ味が上がってビックリした。

 薬草採取に関しては、同じ場所を何回も行くのではなく、様々な場所で採取するようにしていた。季節でも採取できる品が違うし、少しでも様々な条件下で採取できる薬草を覚えたかったからだ。
 そんな感じで活動しているので、少しずつ俺のメモ帳に薬草の情報が増えていってるのが地味に嬉しい。ふふふのふー。

 という事で、今日は湿地帯で採れる薬草を採りに、聖都から少し離れた所にある湿原まで来ていた。
 これから夏に向かうので、どの草花も威勢がよく生い茂っている。

 さあやるぞ! と意気込んだんだけど、なんか向こうの方で戦闘音がする。……一応確認しておくか。

 警戒しながら見える場所まで行くと、見知った三人組のパーティがビッグトードというカエルの魔物と戦っていた。
 少年一人に少女二人の所謂いわゆるハーレムパーティの子達。彼らも身体強化魔法の講習の時にいた子達で、剣術講習でもたまに一緒になる。

 剣術講習でよく会う三人組のように、痛い目見た後も果敢にダンジョンにトライする子ばかりではなく、もう少し実力を上げてから再びダンジョンにトライしようと普通の依頼をこなしている慎重な子らも結構いる。彼らはきっと後者なのだろう。
 彼らは別に襲われているという訳でも無さそうだったので、とりあえず俺はその場を離れようとしたのだが……。迂闊にも、後方にいた攻撃魔法士の少女に気付かれてしまった。

「誰!?」

 物凄い警戒を含む声で杖を向けられたので、俺は慌てて両手を上げて姿を現す。

「お、俺だよ俺!」

 俺はハンバーグ師匠かよと心の中でセルフツッコミしながら答える。

「なんだ、おじさんかあ……。ビックリさせないでよね!」

 少女は安堵した後、すぐに再び二人が戦闘中のビッグトードの方へ警戒しだす。

「ごめんごめん、すぐあっちにいくよ」

「あ、おじさんちょっと待ってて。もうすぐ戦闘終わるから」

 俺はさっさと行こうと思ったんだけど、呼び止められてしまった。



 程なくして戦闘は終わり、一匹のビッグトードが討伐されて残りの二人もこちらへやってきた。

「誰かと思ったら、おっさんじゃん。どーしてここにいんだ?」

「こんにちはおじさん。今日も薬草採取?」

 前衛戦士の少年と、短槍持ちの回復魔法士の少女がそれぞれ声をかけてくれた。

「うん、薬草採取に来たら戦闘音がしてさ。気になって見に来たんだけど驚かせたようでごめんね。――それで、何か用?」

 呼び止めた攻撃魔法士の少女に問う。

「うん、おじさんも薬草採取に来たんなら帰りは一緒に帰らない? あたし達ビッグトードの討伐で荷車持ってきてんだけど、おじさんの荷物も載せてあげるからさ、一緒に押してほしいなーと思って。――どうかな?」

そういう事か……。なかなかしたたかな子だな。
まあ男一に女二のパーティだからなあ。いろんな面で頭数が多い方がいいんだろうし……仕方がない。

「んー、まぁいいよ。ただ、俺の方が少し遅くなるかもしれないから、その時は先に行ってくれ。後で追いつくから」

「ありがとおじさん! ――分かった、帰る時は声かけるね」

 そう言うと彼女らは早速、先ほど仕留めたビッグトードの血抜き作業を始めた。
 さて、俺もさっさと薬草採取をしに行こう。



 今日は主にシーラン、ポスタム、コジスの三種類の薬草が狙いだ。どれも花に特徴があるので見つけやすい。
 それに湿原全体に分布している薬草なので、俺は手当たり次第にサクサクと採っていく。

 何だかあっという間に鞄一杯になりそうだな……。そう思った俺は一旦作業の手を止めると、一息入れる事にした。
 適度に見晴らしの良い場所を選び、倒木に腰掛けて弁当を広げる。すると向こうから、先程の三人組がやって来た。

「おじさーん! 一緒に弁当食べよ」

「いいよー」

 一緒に弁当を食べながら、他愛のない雑談をする。

「俺らもう必要な三匹狩っちゃったんだよね。んで、まだ時間早いからさ、俺らも薬草採って帰ろうかなと思って」

「俺はもう少しかかりそうだから、いいんじゃない?」

「そんでさ、どれ採ったらいいか、ちょっと教えて欲しいなと思ってさ」

「ああ、そういう事か。いいよ」

 説明するよりも、実際に見せた方が早い。
 俺は鞄から採取した束を取り出すと、三人に見せてあげた。

「この三つを採ってるんだ。今は花が咲いてるから分かりやすいだろ?」

「うん、分かる分かる」

「根ごと引っこ抜いちゃだめだぞ。根より少し上辺りで切ればいいから」

「はーい」

「俺ら三人だから、それぞれ採るの決めて採ろうぜ」

「「おっけー」」

 昼食を済ませたので薬草採取を再開する。すると彼らも、それぞれ採りだした。
 暫くして俺の鞄が一杯になったのを告げると、どうやら彼らも満足できる量を集め終わったようだ。

 なので俺達は、この辺で切り上げる事にした。



 彼らの荷車は一応、木の陰に隠すように置いてあった。
 ビッグトードが見当たらないので 「どこにあるの?」 と尋ねたら、此処ここ此処ここと下を指差した。
 見ると、丁度ビッグトードが浸かる位の水の深さの所に、氷漬けにされたビッグトードが三匹沈んでいた。

「おお凄い! これ魔法?」

「そうそう、あたしの魔法。便利でしょ?」

 攻撃魔法士の少女は得意げに言う。

「これなら鮮度が保てるね。いいなぁ」

 彼らは身体強化魔法を発動させると、三人で荷車に載せていく。
 仕方がないので、俺も手伝ってあげる事にした。

「おじさんも身体強化使えるようになったんだね。おめでとう!」

「ああ、やっと少しだけね。ありがとう」

 それから自分達の荷物も荷車に載せると、全員で荷車を押しながら帰途についた。
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