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一章
004 木級冒険者
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「お待たせしました。こちらがケイタさんの冒険者証となります。――まず、ケイタさんは階級が一番下の木級冒険者からのスタートとなります。下から順に、木、黒曜、鉄、銅、銀、金、白金となっております。昇級の条件は依頼達成の貢献度を軸とし、素行、賞罰などを加味した上でこちらで決めさせていただいております。貢献度がある基準以上を満たしたら、ギルドから昇級審査のご案内をさせていただきます。ただ、鉄から銅への昇級には必ず読み書き可能というのが必須条件となります。……ですので、ケイタさんはその分有利となりますね」
受付のお姉さんは冒険者の階級について説明してくれた後、カードを渡してくれた。木級だけあって木の板だった。
いかにも最低ランクっぽい感じ。でもなんか嬉しいよね。こういう免許証や資格を手に入れた時って。
あと、女神様本当にありがとうございます! この年で読み書き覚えるなんて地獄でしかないから助かりました!
「冒険者証は身分証の代わりにもなりますので、無くさないように気を付けてくださいね。再発行には銀貨1枚の手数料を頂きます」
小銀貨じゃなくて銀貨! 手数料高いなあ。無くさないように気を付けないと。
「それでは次に、冒険者の活動内容ですが、基本あちらの掲示板に貼られる依頼をこなしていただきます。依頼は階級により分かれておりますが、推奨人数も書かれている場合がありますのでご注意ください。――掲示板横に座っているのは職員見習いのサリーです。彼女は依頼を読むことができない冒険者のためにあそこで待機しておりますが、他にも質問すれば分かる範囲で答えてくれますので、ご活用ください」
「わかりました。――さっき、早速助けてもらいましたよ」
あの子、サリーちゃんて言うのか。
お姉さんは首肯し、説明を続けてくれる。
「もう一つ、どちらかというとこの都で冒険者として活動される方はこちらがメインとなってしまう感じですが、ダンジョンに潜って様々な素材や宝箱などから手に入れるアイテムをギルドに卸す事で、ギルドに貢献していただいております。素材はほぼ全て常設依頼として受け付けておりますのでよろしくお願い致します」
宝箱! 実際には誰が置いてんだよって深く考えちゃいけない謎ギミックなのにゲームじゃ当たり前にあって一番ドキドキわくわくな、あの宝箱!
「また、素材の買取受付なのですが、こちらのギルド内でも可能なのですがダンジョンから手に入れた場合、殆どの方はダンジョン出てすぐの所にある支店の方に卸して頂いておりますね。建物はここよりも大きいのですぐにわかりますよ」
ああ、だからここは人が少なかったのか。納得。
「わかりました。後で俺も支店の方へ足を運んでみますね」
しかし、受付のお姉さんは俺の言葉に難色を示してしまう。
「とは言え、ケイタさんに記入していただいた用紙を確認しますと、武器を扱う技能が全く無いので、いきなりダンジョンへの入場は許可できません。――というかケイタさん武器もお持ちでないですよね?」
「え、あ、はい……」
「習得技能に徒手格闘技と書かれてましたが、正直なところダンジョンではオーガなど戦闘能力の高い種族の方以外は、何かしらの武器が扱えないと生き残れません。――と言いますか、彼らも普通に武器を持って戦ってます」
武器か……。俺、今は手桶しか持ってないからなあ。まずは装備を整えなきゃいけないな。
「実はどこで情報を入手してくるのか知りませんが、支店の方に直接行き冒険者登録時に虚偽の内容を書かれて、いきなりダンジョンへ入っていく新人の方が多いのです。――まぁ、そういった方々はほぼ数日以内にダンジョンの肥やしとなってしまいますけどね」
うへぇ、なんか怖い事言ったぞ。
あっ、町に入る時に冒険者志望の奴がかなりいたのに、この本店で殆ど見かけない理由が分かった気がする。
みんな向こう見ずだなあ……。
「えっと、では私はどうしたらよいのでしょう?」
「もちろん、まずはあちらの掲示板で等級に見合った依頼をこなして慣れていってもらいます。街の外ではどんな依頼にも危険は付き纏いますので、できたら早めにケイタさんには武器による戦闘技術を磨いていって欲しいですね」
「武器による戦闘技術ですか……。そういった技術が学べる道場のような場所ってあるんです?」
「はい、勿論ありますよ。武器の扱いに関してはギルドお勧めがいくつかありますし、魔法に関してはあちらのカレンダーに講習日が書かれていますので、ぜひご参加ください」
ふむ、武器の扱いを教えてもらえる場がある事は分かった。だけど、武器って言われても色々あるよな……。
「うーん……、まずどんな得物を使うかも決めなきゃいけないのか」
「そうですねえ……、未経験から始めるのでしたら剣か短槍か弓ですかねえ。弓は矢の都合があり、お金が結構かかってしまいますが」
俺、銃剣道なら教育隊でちょろっとだけやった事があるから短槍がいいかも。
でも折角、剣と魔法のファンタジーな世界に来たんだし、やっぱ剣も使えるようになりたいなあ。
くそう、こんな事なら剣道でも習っておけばよかったなあ。
「なら、とりあえず剣か短槍の扱いを習いたいですね」
「剣や短槍でしたら毎日この本店裏にある訓練施設でも担当職員が指導してますよ。受付で受講料を払えばいつでも参加できます。また、見学でしたら無料ですので、良かったら帰りに覗いてみてはどうですか?」
おっ、ギルドでも講習を行っているのか。
折角だし見学して行こうかな。どの武器を選ぶのが良いのか分かるかもしれないし。
「分かりました。――そうですね、後で覗いてみようかな」
「それが良いと思います。では、ざっとでしたが説明はこの位でよろしいですかね? また何かあればいつでも質問してください。――それでは、ケイタさんの冒険者としてのご活躍を期待しております」
「ありがとうございました」
席を立とうとしたのだが、横に置いていた手桶を見て大事な事を思い出す。
「あっとそうでした! こちらのギルドでお勧めの宿とかってあります? ――できたら家庭菜園させてもらえる所がよいのですが……」
「家庭菜園ですか? うーん……ちょっとそういった要望を叶えられる宿はどこにも無いと思いますよ。薬草栽培とかされるパーティは庭付きの借家を借りていると聞きますが」
あれ? 女神様に言われたから、この世界ならそんな宿が普通にあるんだろうなって思ってたんだが……、まさか無いのか?
「……因みに、どういった植物を育てたいんですか?」
「実は故郷から持ってきた芋なんです。人参芋と言って、焼き芋にすると、とても甘くて美味しいんですよ」
手桶をひょいと持ち上げ、受付のお姉さんに見せてあげる。
「甘芋ですか! へ、へぇ~、ほ~、ふーん……そ、そうですね……」
受付のお姉さんは顎に手を当て、何やら考え始めた。
おっ、ひょっとして当てがある?
「……宿とは違い下宿という形になりますが、上手くいけば育てる場所を貸してもらえるかもしれませんよ?」
「本当ですか!」
「そこの大家さんは薬師の方なんですけど、優先的に薬草を卸してくれたり、たまに薬草畑の作業を手伝ってくれる冒険者の方なら格安で下宿させても良いと仰ってるのです。なので交渉次第では薬草畑の隅にお芋を植えさせていただけるかもしれませんよ?」
おおおっ! やった! なんという幸運!
「ぜひ紹介していただきたいです!」
「わかりました。とりあえず紹介状を準備致しますので、それを持って訪ねてみてください。ただし、紹介状を持って行っても必ず下宿させてもらえるとは限りませんので、その事は先に言っておきますよ。要はケイタさんの交渉次第という事です。――頑張ってくださいね」
そう言うとお姉さんは紹介状の準備をしに、奥の方へ行ってしまった。
「ではこちらの紹介状と簡単な案内地図をお渡しします。申し遅れましたが、私は当ギルドの受付を担当しておりますミリアと申します。ギルド職員のミリアからの紹介で来たと言ってください」
「わかりました。ありがとうございます!」
訓練施設の見学はまた今度にして、俺は早速手書きの案内に従い、下宿先の家を訪ねてみる事にした。
まずは生活拠点を確保しないとね。
ミリアさんの書いてくれた案内を頼りに向かった先は、冒険者ギルド本店のある繁華街からはそれほど離れていなかったが、とても閑静な場所に在った。
そのお宅はお店兼工房のようで、庭先には薬草と思われる草花が整然と植えられている。家に隣接して小さいながらも温室まである。
外見は何と言うか、すっごいメルヘンチックなお家だった。思わず見入ってしまう……。
こんな場所で生活できるなら、それだけでこの世界へ来てよかったと思えてしまうだろう。……うん、間違いなく。
――どうか下宿させてもらえますように……。
祈りながら、俺はお店側の入り口の扉に手を掛けた。
受付のお姉さんは冒険者の階級について説明してくれた後、カードを渡してくれた。木級だけあって木の板だった。
いかにも最低ランクっぽい感じ。でもなんか嬉しいよね。こういう免許証や資格を手に入れた時って。
あと、女神様本当にありがとうございます! この年で読み書き覚えるなんて地獄でしかないから助かりました!
「冒険者証は身分証の代わりにもなりますので、無くさないように気を付けてくださいね。再発行には銀貨1枚の手数料を頂きます」
小銀貨じゃなくて銀貨! 手数料高いなあ。無くさないように気を付けないと。
「それでは次に、冒険者の活動内容ですが、基本あちらの掲示板に貼られる依頼をこなしていただきます。依頼は階級により分かれておりますが、推奨人数も書かれている場合がありますのでご注意ください。――掲示板横に座っているのは職員見習いのサリーです。彼女は依頼を読むことができない冒険者のためにあそこで待機しておりますが、他にも質問すれば分かる範囲で答えてくれますので、ご活用ください」
「わかりました。――さっき、早速助けてもらいましたよ」
あの子、サリーちゃんて言うのか。
お姉さんは首肯し、説明を続けてくれる。
「もう一つ、どちらかというとこの都で冒険者として活動される方はこちらがメインとなってしまう感じですが、ダンジョンに潜って様々な素材や宝箱などから手に入れるアイテムをギルドに卸す事で、ギルドに貢献していただいております。素材はほぼ全て常設依頼として受け付けておりますのでよろしくお願い致します」
宝箱! 実際には誰が置いてんだよって深く考えちゃいけない謎ギミックなのにゲームじゃ当たり前にあって一番ドキドキわくわくな、あの宝箱!
「また、素材の買取受付なのですが、こちらのギルド内でも可能なのですがダンジョンから手に入れた場合、殆どの方はダンジョン出てすぐの所にある支店の方に卸して頂いておりますね。建物はここよりも大きいのですぐにわかりますよ」
ああ、だからここは人が少なかったのか。納得。
「わかりました。後で俺も支店の方へ足を運んでみますね」
しかし、受付のお姉さんは俺の言葉に難色を示してしまう。
「とは言え、ケイタさんに記入していただいた用紙を確認しますと、武器を扱う技能が全く無いので、いきなりダンジョンへの入場は許可できません。――というかケイタさん武器もお持ちでないですよね?」
「え、あ、はい……」
「習得技能に徒手格闘技と書かれてましたが、正直なところダンジョンではオーガなど戦闘能力の高い種族の方以外は、何かしらの武器が扱えないと生き残れません。――と言いますか、彼らも普通に武器を持って戦ってます」
武器か……。俺、今は手桶しか持ってないからなあ。まずは装備を整えなきゃいけないな。
「実はどこで情報を入手してくるのか知りませんが、支店の方に直接行き冒険者登録時に虚偽の内容を書かれて、いきなりダンジョンへ入っていく新人の方が多いのです。――まぁ、そういった方々はほぼ数日以内にダンジョンの肥やしとなってしまいますけどね」
うへぇ、なんか怖い事言ったぞ。
あっ、町に入る時に冒険者志望の奴がかなりいたのに、この本店で殆ど見かけない理由が分かった気がする。
みんな向こう見ずだなあ……。
「えっと、では私はどうしたらよいのでしょう?」
「もちろん、まずはあちらの掲示板で等級に見合った依頼をこなして慣れていってもらいます。街の外ではどんな依頼にも危険は付き纏いますので、できたら早めにケイタさんには武器による戦闘技術を磨いていって欲しいですね」
「武器による戦闘技術ですか……。そういった技術が学べる道場のような場所ってあるんです?」
「はい、勿論ありますよ。武器の扱いに関してはギルドお勧めがいくつかありますし、魔法に関してはあちらのカレンダーに講習日が書かれていますので、ぜひご参加ください」
ふむ、武器の扱いを教えてもらえる場がある事は分かった。だけど、武器って言われても色々あるよな……。
「うーん……、まずどんな得物を使うかも決めなきゃいけないのか」
「そうですねえ……、未経験から始めるのでしたら剣か短槍か弓ですかねえ。弓は矢の都合があり、お金が結構かかってしまいますが」
俺、銃剣道なら教育隊でちょろっとだけやった事があるから短槍がいいかも。
でも折角、剣と魔法のファンタジーな世界に来たんだし、やっぱ剣も使えるようになりたいなあ。
くそう、こんな事なら剣道でも習っておけばよかったなあ。
「なら、とりあえず剣か短槍の扱いを習いたいですね」
「剣や短槍でしたら毎日この本店裏にある訓練施設でも担当職員が指導してますよ。受付で受講料を払えばいつでも参加できます。また、見学でしたら無料ですので、良かったら帰りに覗いてみてはどうですか?」
おっ、ギルドでも講習を行っているのか。
折角だし見学して行こうかな。どの武器を選ぶのが良いのか分かるかもしれないし。
「分かりました。――そうですね、後で覗いてみようかな」
「それが良いと思います。では、ざっとでしたが説明はこの位でよろしいですかね? また何かあればいつでも質問してください。――それでは、ケイタさんの冒険者としてのご活躍を期待しております」
「ありがとうございました」
席を立とうとしたのだが、横に置いていた手桶を見て大事な事を思い出す。
「あっとそうでした! こちらのギルドでお勧めの宿とかってあります? ――できたら家庭菜園させてもらえる所がよいのですが……」
「家庭菜園ですか? うーん……ちょっとそういった要望を叶えられる宿はどこにも無いと思いますよ。薬草栽培とかされるパーティは庭付きの借家を借りていると聞きますが」
あれ? 女神様に言われたから、この世界ならそんな宿が普通にあるんだろうなって思ってたんだが……、まさか無いのか?
「……因みに、どういった植物を育てたいんですか?」
「実は故郷から持ってきた芋なんです。人参芋と言って、焼き芋にすると、とても甘くて美味しいんですよ」
手桶をひょいと持ち上げ、受付のお姉さんに見せてあげる。
「甘芋ですか! へ、へぇ~、ほ~、ふーん……そ、そうですね……」
受付のお姉さんは顎に手を当て、何やら考え始めた。
おっ、ひょっとして当てがある?
「……宿とは違い下宿という形になりますが、上手くいけば育てる場所を貸してもらえるかもしれませんよ?」
「本当ですか!」
「そこの大家さんは薬師の方なんですけど、優先的に薬草を卸してくれたり、たまに薬草畑の作業を手伝ってくれる冒険者の方なら格安で下宿させても良いと仰ってるのです。なので交渉次第では薬草畑の隅にお芋を植えさせていただけるかもしれませんよ?」
おおおっ! やった! なんという幸運!
「ぜひ紹介していただきたいです!」
「わかりました。とりあえず紹介状を準備致しますので、それを持って訪ねてみてください。ただし、紹介状を持って行っても必ず下宿させてもらえるとは限りませんので、その事は先に言っておきますよ。要はケイタさんの交渉次第という事です。――頑張ってくださいね」
そう言うとお姉さんは紹介状の準備をしに、奥の方へ行ってしまった。
「ではこちらの紹介状と簡単な案内地図をお渡しします。申し遅れましたが、私は当ギルドの受付を担当しておりますミリアと申します。ギルド職員のミリアからの紹介で来たと言ってください」
「わかりました。ありがとうございます!」
訓練施設の見学はまた今度にして、俺は早速手書きの案内に従い、下宿先の家を訪ねてみる事にした。
まずは生活拠点を確保しないとね。
ミリアさんの書いてくれた案内を頼りに向かった先は、冒険者ギルド本店のある繁華街からはそれほど離れていなかったが、とても閑静な場所に在った。
そのお宅はお店兼工房のようで、庭先には薬草と思われる草花が整然と植えられている。家に隣接して小さいながらも温室まである。
外見は何と言うか、すっごいメルヘンチックなお家だった。思わず見入ってしまう……。
こんな場所で生活できるなら、それだけでこの世界へ来てよかったと思えてしまうだろう。……うん、間違いなく。
――どうか下宿させてもらえますように……。
祈りながら、俺はお店側の入り口の扉に手を掛けた。
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