第四の生命体#1 遭遇

岬 実

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Day33ー⑫ エントルディゴ

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 カールは、イオタの体を眺め回しながら心配する。

「結構ボコられてたけど、大丈夫か?」
「ああ。テクニックで完全に負けていた。良い経験になったな」

 パチ、パチ、パチ、パチ……!
 ペースの遅い拍手をしながら、今度はトワイライトが姿を現した。

「良いね良いね、デイブレイク兄貴。わざわざハンデを付けたのはともかく、劣勢を一瞬でひっくり返すなんて」

 トワイライトはスーツェーの死体を足蹴にする。

「それに比べて、この無駄生き野郎は……。『怒り』ってのに少しは期待したが、所詮は雑魚か。そうだ、いずれは『恨み』や『愛情』や『物欲』のちからも試してみるか。バイフーの奴は『怖気』づいて逃げ出したか?」

 カールは焦れて突撃銃を向ける。

「下んねー事ばっか言ってねーで、さっさと捕まれって。それと、市長はどこだ?」
「知りたいか? そう思って連れて来たんだが、その甲斐があった」

 トワイライトはロープを引っ張る仕草をすると艦橋のドアが開き、縛られ猿轡もされた健一ジェンイーが飛び出して来て、カールの足元に転がった。

「どうせ俺を殺そうってんだろ? その前に兄貴に訊きたい事がある」
「お、わたくしか? 何でも訊いて良いぞ」
「何で勃起してんだ……?」
「ションベン我慢すんのに最適なんだよ」
「へっ……、へー……」

 トワイライトがたじろいだその瞬間、カールが発砲する。しかし僅かな差でトワイライトが回避した為、弾は虚空を通り過ぎて行った。

「俺の隙を伺っていた様だが、軍隊や兄貴の仲間の真似して、兄貴の観察をしてた甲斐があった。攻撃より一瞬早く避けるワザをな」
「それなら、面での攻撃をするだけだ」
「俺は何度でも生き返れるから弾の無駄だ。そもそも下手に撃つなよ? 俺にはこんな味方も居るしな」

 トワイライトはマジシャンの様に宙で手を捻ると、その手には大型の円柱形の物体が現れていた。
 長さはイオタの身長の約2倍。太さはイオタの肩の高さに匹敵する。
 トワイライトはそれを床に置き、足で押してイオタ達に転がして来た。

「それが何だか分かるか?」

 イオタは、円柱形の物体の中央にある、放射能マークに目を落とす。但し、丸の部分が球形の髑髏であり、リボンまで着けている。

「新しい着せ替え人形か?」
「そう、ソイツは広島型原爆を模した第四生物で、『ハード・ワーカー』と名付けている」
「ハード・ワーカーって呼んでね?」

 頭蓋骨がくちを開閉させて少女の声を発した。

「喋った……? まあ、喋る第四生物は時々居るが、核兵器だと?」
「あんだ? バケモンさんよ。使い捨ての癖に喋る能力まで付いてんのか?」

 イオタはハード・ワーカーに蹴りの連打をし、ついでに頭蓋骨部分を踏み付けた。

「痛い痛い!」
『おいおい、原子爆弾サマに何て事を!』
『スタンド・プレーもいい加減にしてくれ、ミスター』
「俺の方こそションベン漏らすとこだったぜ、今のは」
「例え撃たれても爆発しないし、実は核兵器じゃないが、豪胆なヤツだな」

 ハード・ワーカー、勇示、ミリエラ、カール、トワイライトの順に喋り、トワイライトは咳払いした。

「……でよ、ハード・ワーカーは広島型原爆と同じ威力の爆発を、秒間15回起こせるんだ。それも48時間連続でな。自力で動けないのと、エネルギー充填に24時間掛かるのが難点だけど、コイツが居なかったら宇宙人達の星を滅ぼすのは二日では済まなかっただろう」
「……、その星は地球より小さかったのか?」
「あん? いや……。陸地面積は地球と同じ位だったが……。何故だ?」
「別に」

 イオタの問いに当惑するトワイライトだが、イオタは顎に手を当てた。

「そんな事より、ちょっと戦力を見せてやろうと思ってな。こんな風に」

 正面にかざしたトワイライトの手に、ハード・ワーカーがひとりでに浮かんで収まった。
 それをトワイライトは重さが無いかの様に振りかぶり、空の彼方に投げ付けた。

「え! あっちの方向は!」
「避難所が在る方だ!」

 イオタとカールが驚いた隙を見逃さず、トワイライトは指示を下す。

武蔵ウーキャン、スピン・ターンしろ!」

 トワイライトが浮遊すると同時に指示に従い、ウーキャンの船体は勢い余って大きく傾いた。

「あっ! 首……!」

 イオタは一足飛びで、転がっていくテレンスの首を掴みはしたが、着地の体勢が悪く、健一ジェンイーとスーツェーと一緒に滑り台の様に滑って行く。

「今助ける!」

 カールは軍用ナイフを抜いてイオタに飛び掛かり、イオタに手を伸ばしつつナイフを床に突き立てた。
 しかし、その手は空振りし、イオタは手摺に当たって一瞬バウンドした後、溶岩に真っ逆さまに落ちて行く。健一ジェンイー、スーツェーもそれに続く。

「しまっ……、た!」

 カールは目を瞑って顔を背けるが、トワイライトは驚きの声をあげた。

「何だよ……、アイツぁ……」

 カールが恐る恐る目を開けてイオタ達の方を見ると、イオタ達は溶岩に落ちてはいなかった。
 ウーキャンから転落してすぐ、蝙蝠の翼を模した巨大な、様々な色の電気を帯びる雷雲に受け止められていたのである。

「……!?」

 カールは雲の付根に向かって視線を動かす。
 そこに居た存在を目にするや否や、胸元で十字を切った。

「今度は悪魔、か……!?」

 カール達が目にしたのは、新手の第四生物。
 逞しい体、くすんだ銀色のグラディエーター風の鎧、黒に近い灰色の肌、爪と耳は尖っており、精悍な顔付き。輪を描いて天を指す、2対の黄金の角。瞳孔は山羊と同じく横長。
 そして、文字通り雲を突く程の威容。悪魔と呼ぶに相応しい姿の第四生物であった。
 それが腕組みをして、音も無く宙に浮かんでいる。

「ひっ」

 健一ジェンイーも怯えた様子を見せるが、イオタは悪魔型の第四生物を一瞥しただけでカールを手招きする。

「カール! 助けてくれるってよ! 早く来い!」
「あ、ああ!」

 カールは助走を付けてジャンプし、翼の上に収まる。悪魔型第四生物はそれを確認すると、溶岩の無い安全な場所にイオタ達を降ろした。

「そうだ! ハード・ワーカーは!?」

 トワイライトが空を見上げると、ハード・ワーカーはもう片方の翼に摘ままれていた。
 翼はスナップを利かせて、ハード・ワーカーをトワイライトに投げ返す。

「おっと!」

 トワイライトは伸ばした片腕をサスペンション代わりにしてハード・ワーカーを受け止め、その顔を撫でた。

「よしよし、無事で良かった」
「ふえ……、怖かった……」
「それで? 急に出て来て、何者だお前? 何しに来た?」

 「ズズズ……」と金属が擦れる音を立てながら、悪魔型第四生物は視線をトワイライトに向け、くちを開いた。

「答えてやろう。賜った名は『敵の偶像』。『試作品の処分』をしに来た」
    
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