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第六章 サークル壊滅大作戦!
第五十七話 ファック・ユー
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ステージ上では島村が幹細胞サプリの説明に入っていた。
「今注目の幹細胞成分を、サークルではいち早く製品化しました!高度な科学者を抱える我々だからこそ実現した最先端サプリ!これで皆さんのビジネスが圧倒的に成長すること間違いなしです!」
「ワァァァァーーーー!!」
地響きのような歓声が会場を包んだその時だった。スクリーンに映っていた幹細胞の画像が消え、女子アナウンサーが原稿をめくっている映像に変わった。吉井が画面を切り替えたのだ。
表示されたのはインターネットテレビ局、サイバーテレビの報道番組だった。サイバーテレビは毎朝テレビとインフォエージェントが合同で経営しており、ちょうどこの時間に放送されるよう、陽子が関係部署と調整していたのだった。
アナウンサーが原稿を読み上げる。
「サイバーテレビの独占取材です。マルチ商法の疑いがある組織の製品から、覚醒剤が検出されました。さらに、この組織は自己啓発セミナーや新興宗教とも繋がっており、北朝鮮に送金していた疑いも持たれています。毎朝テレビの杉永陽子記者が検証しました。」
続いて、陽子がアミノ酸サプリのボトルと、小型のプラスチックチューブを持っている画面に移った。アミノ酸サプリのボトルはラベルにモザイクがかかっているが、小さなラベル以外は白一色という、そのあまりにもシンプルなデザインは、サークルが扱っているもので間違いなかった。
「このチューブに入っているのは、覚せい剤検査用の薬です。この液と粉末を混ぜて、青くなれば覚せい剤が含まれています。では、早速やってみます。」
陽子がサプリのカプセルから粉末を取り出し、白いシートの上で検査液と綿棒で混ぜると......みるみるうちに青く染まっていった。
「この通り、青くなりました。覚せい剤が含まれていると見て間違いなさそうです。番組では、この検査薬を作っている企業に精密検査を依頼しましたが、やはり覚せい剤の成分、アンフェタミンが含まれているということでした。さらにこの団体には、別の疑いが持たれています。」
画面はそこから暗転し、元会員のインタビュー映像が始まった。暗い部屋に女性が座っており、顔から上が隠されている。声も変えられ、くぐもった響きになっていた。この女性は、済が脱会者のネットワークを辿って陽子に紹介していた。
「これはSという組織の中でも、ある程度ダウンがいる人だけに話が行っていたんですけど、毎月指定された口座にビットコインやイーサリアムを振り込むバイトがあったんです。そのうちいくらかは貰えたので助かってたんですけど。」
陽子がインタビューを受けて話し始める。画面に多数のイーサリアムアドレスが矢印で繋がっている映し出された。取引の流れを表しているようだ。
「番組では、都内のセキュリティ企業に依頼し、このアドレスの取引を追跡しました。すると、何段階か辿ったこの部分、このアドレスに、似たような経路で大量のイーサリアムが振り込まれていたことが分かりました。セキュリティ会社が調査したところ、このアドレスは北朝鮮ハッカーチームの関与が疑われている仮想通貨流出事件で使われたものと同一であることが分かりました。番組では、今後も北朝鮮への資金流出について、そしてこの組織について調査を進める予定です。」
続いて画面は報道スタジオに戻り、月十五万の自己投資や店舗の運営、自己啓発セミナー・新興宗教との関係について簡単に説明された後、濃い顔の四十代男性にコメントが求められた。元国連の北朝鮮研究者、今川勝時氏だ。
「今川さん、杉永記者の取材によれば、Sという組織が稼いだ資金のほとんどが北朝鮮に流れていることになりますね。」
「そうですね。北朝鮮といえば経済制裁を受けているので外貨を全く稼げていないのではないか、と思っている方も多いと思います。ところが、実は真剣に経済制裁に取り組んでいるのは日本とアメリカくらいで、意外と他の国とは取引してるんですよ。なのでミサイルを開発できているわけです。しかし、それでも日本から、この規模の資金援助が行われているのは私も初めて知りました。今後は政府も調査に乗り出すのは確実でしょう。」
◇
番組の途中で止められるのではないかと吉井は心配していたが、止めようと動き出したスタッフもスクリーンに釘付けになり、次第に会場がざわざわし始めた。さらにしばらくして、周囲からヴヴ……ヴヴ……という振動音や、ピーンという通知音がし始めた。会員のスマホにメール通知が来ているのだ。吉井のスマホにも通知が来たため開いてみると、アミノ酸サプリの成分を詳細に分析した結果や、MASKの地下にあった科学の道のマーク、北朝鮮への送金記録など、陽子の番組内容をより詳細に説明したメールが届いていた。
済が、サークルの全体メールリストに暴露メールを送信したのだった。
メールが届き始めると会場のざわざわはさらに大きくなり、やがて野次が飛び始めた。
「ふざけるな!」
「どうなってんだよ!」
「答えろ島村ー!!」
「金返せー!!」
最初は番組の内容が本当か疑う声も聞こえてきていたのだが、野次が飛び交うに至り、今や完全に島村への怒りが場を支配していた。
罵声が大きくなるにつれて、興奮した男女が一人、二人、十人、二十人と立ち上がり、ステージへと詰め寄り始める。
それでも島村は笑みを崩さず黙っている。
「笑って誤魔化してるんじゃねえぞてめえ!」
「説明しろ説明!」
「金だ!金返せ!金!!!」
島村はなおも微笑みを崩さなかったが、「金!金!」という大合唱で会場が染まり始めると、突然無表情になり言った。
「Fuck you。ぶち殺すぞ……ゴミめら……!」
「今注目の幹細胞成分を、サークルではいち早く製品化しました!高度な科学者を抱える我々だからこそ実現した最先端サプリ!これで皆さんのビジネスが圧倒的に成長すること間違いなしです!」
「ワァァァァーーーー!!」
地響きのような歓声が会場を包んだその時だった。スクリーンに映っていた幹細胞の画像が消え、女子アナウンサーが原稿をめくっている映像に変わった。吉井が画面を切り替えたのだ。
表示されたのはインターネットテレビ局、サイバーテレビの報道番組だった。サイバーテレビは毎朝テレビとインフォエージェントが合同で経営しており、ちょうどこの時間に放送されるよう、陽子が関係部署と調整していたのだった。
アナウンサーが原稿を読み上げる。
「サイバーテレビの独占取材です。マルチ商法の疑いがある組織の製品から、覚醒剤が検出されました。さらに、この組織は自己啓発セミナーや新興宗教とも繋がっており、北朝鮮に送金していた疑いも持たれています。毎朝テレビの杉永陽子記者が検証しました。」
続いて、陽子がアミノ酸サプリのボトルと、小型のプラスチックチューブを持っている画面に移った。アミノ酸サプリのボトルはラベルにモザイクがかかっているが、小さなラベル以外は白一色という、そのあまりにもシンプルなデザインは、サークルが扱っているもので間違いなかった。
「このチューブに入っているのは、覚せい剤検査用の薬です。この液と粉末を混ぜて、青くなれば覚せい剤が含まれています。では、早速やってみます。」
陽子がサプリのカプセルから粉末を取り出し、白いシートの上で検査液と綿棒で混ぜると......みるみるうちに青く染まっていった。
「この通り、青くなりました。覚せい剤が含まれていると見て間違いなさそうです。番組では、この検査薬を作っている企業に精密検査を依頼しましたが、やはり覚せい剤の成分、アンフェタミンが含まれているということでした。さらにこの団体には、別の疑いが持たれています。」
画面はそこから暗転し、元会員のインタビュー映像が始まった。暗い部屋に女性が座っており、顔から上が隠されている。声も変えられ、くぐもった響きになっていた。この女性は、済が脱会者のネットワークを辿って陽子に紹介していた。
「これはSという組織の中でも、ある程度ダウンがいる人だけに話が行っていたんですけど、毎月指定された口座にビットコインやイーサリアムを振り込むバイトがあったんです。そのうちいくらかは貰えたので助かってたんですけど。」
陽子がインタビューを受けて話し始める。画面に多数のイーサリアムアドレスが矢印で繋がっている映し出された。取引の流れを表しているようだ。
「番組では、都内のセキュリティ企業に依頼し、このアドレスの取引を追跡しました。すると、何段階か辿ったこの部分、このアドレスに、似たような経路で大量のイーサリアムが振り込まれていたことが分かりました。セキュリティ会社が調査したところ、このアドレスは北朝鮮ハッカーチームの関与が疑われている仮想通貨流出事件で使われたものと同一であることが分かりました。番組では、今後も北朝鮮への資金流出について、そしてこの組織について調査を進める予定です。」
続いて画面は報道スタジオに戻り、月十五万の自己投資や店舗の運営、自己啓発セミナー・新興宗教との関係について簡単に説明された後、濃い顔の四十代男性にコメントが求められた。元国連の北朝鮮研究者、今川勝時氏だ。
「今川さん、杉永記者の取材によれば、Sという組織が稼いだ資金のほとんどが北朝鮮に流れていることになりますね。」
「そうですね。北朝鮮といえば経済制裁を受けているので外貨を全く稼げていないのではないか、と思っている方も多いと思います。ところが、実は真剣に経済制裁に取り組んでいるのは日本とアメリカくらいで、意外と他の国とは取引してるんですよ。なのでミサイルを開発できているわけです。しかし、それでも日本から、この規模の資金援助が行われているのは私も初めて知りました。今後は政府も調査に乗り出すのは確実でしょう。」
◇
番組の途中で止められるのではないかと吉井は心配していたが、止めようと動き出したスタッフもスクリーンに釘付けになり、次第に会場がざわざわし始めた。さらにしばらくして、周囲からヴヴ……ヴヴ……という振動音や、ピーンという通知音がし始めた。会員のスマホにメール通知が来ているのだ。吉井のスマホにも通知が来たため開いてみると、アミノ酸サプリの成分を詳細に分析した結果や、MASKの地下にあった科学の道のマーク、北朝鮮への送金記録など、陽子の番組内容をより詳細に説明したメールが届いていた。
済が、サークルの全体メールリストに暴露メールを送信したのだった。
メールが届き始めると会場のざわざわはさらに大きくなり、やがて野次が飛び始めた。
「ふざけるな!」
「どうなってんだよ!」
「答えろ島村ー!!」
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最初は番組の内容が本当か疑う声も聞こえてきていたのだが、野次が飛び交うに至り、今や完全に島村への怒りが場を支配していた。
罵声が大きくなるにつれて、興奮した男女が一人、二人、十人、二十人と立ち上がり、ステージへと詰め寄り始める。
それでも島村は笑みを崩さず黙っている。
「笑って誤魔化してるんじゃねえぞてめえ!」
「説明しろ説明!」
「金だ!金返せ!金!!!」
島村はなおも微笑みを崩さなかったが、「金!金!」という大合唱で会場が染まり始めると、突然無表情になり言った。
「Fuck you。ぶち殺すぞ……ゴミめら……!」
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