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第五章 恐怖!カルト宗教
第五十四話 QRコードの正体と、北の影
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「実は知り合いの妹さんがMASKにハマってから行方不明になってるんだが、知らないか?杉永恭子さんて名前で、ゆるふわロングで長身の、顔がちょっと深田恭子に似てる。」
「あー、恭子さんか。歳は二十代後半てとこだろ?」
「そうそう、MASKのシェアハウスに入ってたみたいなんだが、行方が分からなくなってな。」
「恭子さんなら、確か新しく作った工場に配属されてるはずだな。ほら、最近幹細胞培養液成分がどうとか、コスメとかサプリで流行ってるだろ。うちもそういうとこに進出しようとしてるらしくて、ライフサイエンス系の設備に詳しい彼女が呼ばれたみたいなんだよ。あんまり面識はないけどな。」
「そういえば、恭子さんは帝国電算のライフサイエンス系部署にいたな。それにしても、ビタミンやアミノ酸は成型してるだけなのに、幹細胞はちゃんと設備買ってやろうとしてるんだな。」
「イカれた教祖のことだ、はっきりした理由は分からんよ。」
「新工場の場所は分かるのか?」
「俺もあそこに軟禁状態だったからな、同じ群馬にあることしか分からん。」
「おいおい頼むぞ、上のステージになったら超能力が使えるんだろ?」
「そんなもんあるわけないだろ!気のせいだ気のせい!!」
山崎からはそれ以上の情報は引き出せず、中野に着いた時には真夜中になっていた。さすがにこの時間から山崎を実家に帰すわけにはいかず、夜が明けるまで済の部屋で時間を潰すことにした。
◇
コンビニで食べ物を買い込み、三人で済の部屋に入る。とりあえず交代でシャワーを浴びることにした。歯磨きまで済ませ、Macbookproでニュースをチェックしていると眠気が襲ってきた。うとうとしていると、風呂上がりの吉井が気になる情報を話し始めた。
「そういえば言い忘れてたが、ある程度系列持ってる奴向けに、指定された店で買い物するだけのバイトがあるって話をしてたよな?」
「ああ、あったな。俺が脱会者の飲み会で聞いたやつ。」
「それは確かに本当らしくて、昔はその通りにやってたらしいんだ。ところが最近は、指定された仮想通貨の口座に振り込む方式に変わったらしいんだよ。」
「へえ、振り込みだけか。何のためなんだろうなー。」
そう言いながら、ふと画面の脇に目をやると、ローテーブルの下の小物入れに入れておいた、あのQRコードが見えた。
済の頭の中で、何かと何かが繋がった。
「仮想通貨で四十二桁!?ひょっとして......!」
猛然と検索を始めた済に、吉井が訝しみながら話し掛ける。
「おいおい、いきなりどうした?」
「科学の道の本部でQRコードを拾ったんだが、読み取ったらそれが四十二桁の英数字なんだよ。仮想通貨で四十ニ桁のアドレスといえばイーサリアムだ。」
済はイーサリアムの取引情報を確認できるウェブサイトを開き、QRコードを読み取った文字列を打ち込んだ。仮想通貨の台帳は公開されており、銀行で言うところの口座にあたるアドレスを検索すると、そこで行われた取引情報も確認することができる。
「十月二日 十時 三十イーサリアム入金、同日十一時 三十イーサリアム入金、十月三日 九時 三十イーサリアム入金……。近い時期に複数の入金があるな。」
済がさらに調べると、そのアドレスから複数のアドレスを経由し、あるアドレスにイーサリアムが集まっていることが分かった。資金が集まっているアドレスの取引を辿ったところ、十月初旬に二十~三十イーサリアムの入金が別々のアドレスに向けて大量に振り込まれ、複雑な経路を介して集められていることが分かった。
「これだけのイーサリアムとなると……待てよ、今の相場は一イーサリアムで一万五千円か。そうすると、一万、百万、千万……二億!?」
「毎月二億だと!?諸々引いたら、サークルの儲けの大部分が流れてるんじゃないか!?それにしたって、何だってこんなややこしいことを……。」
「資金の流れをややこしくする理由といえば……。」
少しの沈黙があり、吉井が口を開いた。
「……マネー・ロンダリングか。」
「あるいは、よっぽどバレたくない相手に入金してるかだな。もしくは脱税目的か。それにしても、マルチもどきの組織がこんな風に使われてるとはな。うまい方法を考えついたもんだ。大量の資金を一気に移すと後で何かあった場合、真っ先に狙われる。ところがこれを、大人数で少しずつ移動させればそうそう怪しまれることはない。特にサークルの場合、会員は会社員じゃなく、単なる販売契約が数珠つなぎになってるだけだからな。組織としては緩い部類に入る。その割に洗脳した通りに動いてくれるんだから、実に便利なもんだよ。」
済は「それにしてもイーサリアムか、こいつもマネロンに使われるようになってしまったか……。」などと言いながら検索していたが、トップに表示されたニュースを見て仰天した。
済の目に入ってきたのはこんな記事だった。
「イーサリアム開発者、北朝鮮に制裁回避方法を教えた容疑で逮捕。
十一月XX日、イーサリアムに勤めていたマギル・グリフィン容疑者がロサンゼルス国際空港で逮捕された。グリフィン容疑者は、今年北朝鮮で行われたカンファレンスでプレゼンを行っており、この時制裁回避に繋がるブロックチェーン技術の活用方法を北朝鮮首脳陣に伝えたとされている。北朝鮮は今年四月、『平壌ブロックチェーン&仮想通貨カンファレンス』を開催していた。」
画面を覗き込んだ吉井が声を上げる。
「まさか、送金先は北朝鮮か!?」
イーサリアムアドレスの正体が気になった済は、次の検索でさらに驚くことになった。イーサリアムアドレスと北朝鮮について検索したところ、5chにあるスレッドがヒットした。スレッドのタイトルは、「北朝鮮の暗号放送を解読した」というもので、そのスレッドの中に、暗号解読結果の一つとしてあのアドレスが書かれていたのだった。
「暗号放送だと?」
「北朝鮮は各国の諜報員向けに、複数の暗号放送を発信している。内容は女性の声で教科書の宿題ページを読み上げたり、楽曲とモールス信号が混ざっていたりと複数ある。5chの暗号解読スレッドでは、過去にミサイルの発射時刻を的中させたこともあり、あながちデマとも言い切れない。」
「つまり、サークル会員の金が北朝鮮のミサイルになってるわけか!?」
吉井がそこまで言った時、いつの間にかシャワーから上がってきていた山崎がつぶやいた。
「まさか、本当に北朝鮮に送金していたとは……。」
「あー、恭子さんか。歳は二十代後半てとこだろ?」
「そうそう、MASKのシェアハウスに入ってたみたいなんだが、行方が分からなくなってな。」
「恭子さんなら、確か新しく作った工場に配属されてるはずだな。ほら、最近幹細胞培養液成分がどうとか、コスメとかサプリで流行ってるだろ。うちもそういうとこに進出しようとしてるらしくて、ライフサイエンス系の設備に詳しい彼女が呼ばれたみたいなんだよ。あんまり面識はないけどな。」
「そういえば、恭子さんは帝国電算のライフサイエンス系部署にいたな。それにしても、ビタミンやアミノ酸は成型してるだけなのに、幹細胞はちゃんと設備買ってやろうとしてるんだな。」
「イカれた教祖のことだ、はっきりした理由は分からんよ。」
「新工場の場所は分かるのか?」
「俺もあそこに軟禁状態だったからな、同じ群馬にあることしか分からん。」
「おいおい頼むぞ、上のステージになったら超能力が使えるんだろ?」
「そんなもんあるわけないだろ!気のせいだ気のせい!!」
山崎からはそれ以上の情報は引き出せず、中野に着いた時には真夜中になっていた。さすがにこの時間から山崎を実家に帰すわけにはいかず、夜が明けるまで済の部屋で時間を潰すことにした。
◇
コンビニで食べ物を買い込み、三人で済の部屋に入る。とりあえず交代でシャワーを浴びることにした。歯磨きまで済ませ、Macbookproでニュースをチェックしていると眠気が襲ってきた。うとうとしていると、風呂上がりの吉井が気になる情報を話し始めた。
「そういえば言い忘れてたが、ある程度系列持ってる奴向けに、指定された店で買い物するだけのバイトがあるって話をしてたよな?」
「ああ、あったな。俺が脱会者の飲み会で聞いたやつ。」
「それは確かに本当らしくて、昔はその通りにやってたらしいんだ。ところが最近は、指定された仮想通貨の口座に振り込む方式に変わったらしいんだよ。」
「へえ、振り込みだけか。何のためなんだろうなー。」
そう言いながら、ふと画面の脇に目をやると、ローテーブルの下の小物入れに入れておいた、あのQRコードが見えた。
済の頭の中で、何かと何かが繋がった。
「仮想通貨で四十二桁!?ひょっとして......!」
猛然と検索を始めた済に、吉井が訝しみながら話し掛ける。
「おいおい、いきなりどうした?」
「科学の道の本部でQRコードを拾ったんだが、読み取ったらそれが四十二桁の英数字なんだよ。仮想通貨で四十ニ桁のアドレスといえばイーサリアムだ。」
済はイーサリアムの取引情報を確認できるウェブサイトを開き、QRコードを読み取った文字列を打ち込んだ。仮想通貨の台帳は公開されており、銀行で言うところの口座にあたるアドレスを検索すると、そこで行われた取引情報も確認することができる。
「十月二日 十時 三十イーサリアム入金、同日十一時 三十イーサリアム入金、十月三日 九時 三十イーサリアム入金……。近い時期に複数の入金があるな。」
済がさらに調べると、そのアドレスから複数のアドレスを経由し、あるアドレスにイーサリアムが集まっていることが分かった。資金が集まっているアドレスの取引を辿ったところ、十月初旬に二十~三十イーサリアムの入金が別々のアドレスに向けて大量に振り込まれ、複雑な経路を介して集められていることが分かった。
「これだけのイーサリアムとなると……待てよ、今の相場は一イーサリアムで一万五千円か。そうすると、一万、百万、千万……二億!?」
「毎月二億だと!?諸々引いたら、サークルの儲けの大部分が流れてるんじゃないか!?それにしたって、何だってこんなややこしいことを……。」
「資金の流れをややこしくする理由といえば……。」
少しの沈黙があり、吉井が口を開いた。
「……マネー・ロンダリングか。」
「あるいは、よっぽどバレたくない相手に入金してるかだな。もしくは脱税目的か。それにしても、マルチもどきの組織がこんな風に使われてるとはな。うまい方法を考えついたもんだ。大量の資金を一気に移すと後で何かあった場合、真っ先に狙われる。ところがこれを、大人数で少しずつ移動させればそうそう怪しまれることはない。特にサークルの場合、会員は会社員じゃなく、単なる販売契約が数珠つなぎになってるだけだからな。組織としては緩い部類に入る。その割に洗脳した通りに動いてくれるんだから、実に便利なもんだよ。」
済は「それにしてもイーサリアムか、こいつもマネロンに使われるようになってしまったか……。」などと言いながら検索していたが、トップに表示されたニュースを見て仰天した。
済の目に入ってきたのはこんな記事だった。
「イーサリアム開発者、北朝鮮に制裁回避方法を教えた容疑で逮捕。
十一月XX日、イーサリアムに勤めていたマギル・グリフィン容疑者がロサンゼルス国際空港で逮捕された。グリフィン容疑者は、今年北朝鮮で行われたカンファレンスでプレゼンを行っており、この時制裁回避に繋がるブロックチェーン技術の活用方法を北朝鮮首脳陣に伝えたとされている。北朝鮮は今年四月、『平壌ブロックチェーン&仮想通貨カンファレンス』を開催していた。」
画面を覗き込んだ吉井が声を上げる。
「まさか、送金先は北朝鮮か!?」
イーサリアムアドレスの正体が気になった済は、次の検索でさらに驚くことになった。イーサリアムアドレスと北朝鮮について検索したところ、5chにあるスレッドがヒットした。スレッドのタイトルは、「北朝鮮の暗号放送を解読した」というもので、そのスレッドの中に、暗号解読結果の一つとしてあのアドレスが書かれていたのだった。
「暗号放送だと?」
「北朝鮮は各国の諜報員向けに、複数の暗号放送を発信している。内容は女性の声で教科書の宿題ページを読み上げたり、楽曲とモールス信号が混ざっていたりと複数ある。5chの暗号解読スレッドでは、過去にミサイルの発射時刻を的中させたこともあり、あながちデマとも言い切れない。」
「つまり、サークル会員の金が北朝鮮のミサイルになってるわけか!?」
吉井がそこまで言った時、いつの間にかシャワーから上がってきていた山崎がつぶやいた。
「まさか、本当に北朝鮮に送金していたとは……。」
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