52 / 62
第五章 恐怖!カルト宗教
第五十一話 サプリ工場で作られていたもの
しおりを挟む
脳神経科学出身の済が説明を始めた。
「サークルの人達が連日深夜まで頑張れたり、サプリの中に痩せるものがあった理由がようやく分かった。人間の脳の中には膨大な数の神経細胞があって、その間をグルタミン酸、アセチルコリン、ドーパミン、セロトニンといった神経伝達物質が飛び交うことで精神活動が行われている。神経伝達物質のうち、ドーパミンとかセロトニンとかのモノアミン類と呼ばれる奴らは、体内でアミノ酸から作られるんだ。ドラッグとか向精神薬は、これら神経伝達物質の働きを弱めたり、逆に出しっぱなしにしたりして人の精神に影響を与えるんだけど、神経に影響を与えるわけだから、神経伝達物質と形が似ているものも多い。そして、これらの中にもアミノ酸から合成できるものがある。例えば必須アミノ酸の一つ、フェニルアラニンからもドラッグを合成することができる。何だと思う?……覚せい剤だ。その合成経路の途中で、水素化アルミニウムリチウムを使うんだよ。」
「ええっ!?」
「とはいえ普通は覚せい剤、物質名で言うとメタンフェタミンやアンフェタミンはエフェドリンから合成することが多いんだ。これは漢方薬で言う『麻黄』に含まれていたり、市販の風邪薬にもちょっと構造を変えたものが含まれてる。海外ドラマとかで風邪薬を砕いてドラッグの原料にするシーンがあるけど、これはエフェドリンを抽出してるわけだ。こっちのほうが覚せい剤を作るのは簡単なんだけど、モロに覚せい剤原料だから取り扱いが規制されている。サプリ屋が大量購入できるようなもんじゃない。ところがフェニルアラニンなら購入したって怪しまれることはない。アミノ酸サプリを作ってる会社なんだから。」
「ってことはつまり、山崎さんは……。」
「今はネットで大昔の論文だって買える時代だ。有機合成やってた山崎ならいとも簡単に作れるだろう。そして、覚せい剤の主な作用は当然ながら覚醒、そして食欲減退だ。」
「奴が作ってるのはメタンフェタミンかな?」
「いや、メタンフェタミンは効果が強すぎる。いくら馬車馬のように働かせたいといっても、組織がシャブ中だらけになっちゃ困るだろう。それに比べてアンフェタミンは、海外じゃアデロールって名前でADHDの治療薬として処方されて、それが大学生の間でスマートドラッグとして流行してるんだ。あっちのドラマに『お前ら、アデロール持ってる!?』なんて大学生が子供に聞くシーンが出てくるくらいで、サプリにごく微量混ぜてたくらいじゃ中毒だらけにはならないだろう。それに工場を握ってるわけだから、混ぜたり混ぜなかったりしなければある程度摂取量もコントロールできる。」
「それにしても、そこまでして組織を拡大してどうしたいんだろう?もうお金は充分持ってるはずじゃん。」
「ところが、その組織にも最近綻びが出始めたんだよ。」
吉井が、潜入で調達した情報を話し始めた。
「ニューステージに契約切られてから、マルチよりもっとエグい仕組みになってるだろ、あれのせいで辞める人が増えてるんだよ。今は人を維持するのが優先で、師匠によっちゃ十五万の自己投資を強制しないところもある。セミナー費で月何万円か取れるから、大分減るが稼ぎにはなるらしい。ただちょっと違和感あるのは、入った時よりも人集めに必死なんだよな。ここ数ヶ月でかなりハッパ掛けられてるんだよ。まあ俺は、面白半分で潜入してくれる知り合いがいるからそんなにプレッシャーかけられてないけど。」
吉井は、済が大阪のサブカル系の知り合いや元政治活動家を紹介したのもあって、早々と六系列を達成していた。全員物見遊山のろくでもない趣味の奴らなので、さすがに自己投資はやっていないが、脱会者が増えた昨今はそれでも重宝されているらしい。
それにしても、人数を維持するためとはいえ、急な路線変更に思える。何か変化があったのだろうか。
「辞める奴が増えてる以外の理由は聞けてないな。師匠クラスが参加できる会議があるから、そこに出られれば何か分かるかもしれんが……。」
「さすがにそこまで行くには潜入レベルじゃ難しそうだね。」
「しかし、何か違和感あるんだよなあ。」
会話をしながら工場周辺を探っていると、少し下ったところに三階建てのアパートがあった。やや新しく、大学生が住んでいそうなクラスの建物だ。すぐ後ろは崖になっている。田舎によくある、地主が建設会社に乗せられて作ったはいいものの、あまり人が入っていないタイプのアパートを彷彿とさせる。違和感があるのは、駐車場が付いているにも関わらず車が一台も駐まっていないことだ。
「こういうところって、車がないと生活できないから一人一台は車持ってるはずなんだけどな。」
「なあ済、ひょっとしてここに山崎が住んでるんじゃないのか?信者をここに集めて働かせて、工場との往復生活をさせてるから車がないのかもしれん。」
「そうだとすると、実質的には軟禁状態ってわけか……。」
「ちょっとここ、行ってみないか?」
吉井の案に済も賛成し、この怪しいアパートに行ってみることにした。陽子も参加したがっていたが、危険なので二人で行くことにする。
二人との通話が終わった後、済はふと思い出し、あのQRコードを読み込んでみた。英数字の羅列が並んでいるだけで意味は読み取れない。数えてみると、四十二桁あった。
「サークルの人達が連日深夜まで頑張れたり、サプリの中に痩せるものがあった理由がようやく分かった。人間の脳の中には膨大な数の神経細胞があって、その間をグルタミン酸、アセチルコリン、ドーパミン、セロトニンといった神経伝達物質が飛び交うことで精神活動が行われている。神経伝達物質のうち、ドーパミンとかセロトニンとかのモノアミン類と呼ばれる奴らは、体内でアミノ酸から作られるんだ。ドラッグとか向精神薬は、これら神経伝達物質の働きを弱めたり、逆に出しっぱなしにしたりして人の精神に影響を与えるんだけど、神経に影響を与えるわけだから、神経伝達物質と形が似ているものも多い。そして、これらの中にもアミノ酸から合成できるものがある。例えば必須アミノ酸の一つ、フェニルアラニンからもドラッグを合成することができる。何だと思う?……覚せい剤だ。その合成経路の途中で、水素化アルミニウムリチウムを使うんだよ。」
「ええっ!?」
「とはいえ普通は覚せい剤、物質名で言うとメタンフェタミンやアンフェタミンはエフェドリンから合成することが多いんだ。これは漢方薬で言う『麻黄』に含まれていたり、市販の風邪薬にもちょっと構造を変えたものが含まれてる。海外ドラマとかで風邪薬を砕いてドラッグの原料にするシーンがあるけど、これはエフェドリンを抽出してるわけだ。こっちのほうが覚せい剤を作るのは簡単なんだけど、モロに覚せい剤原料だから取り扱いが規制されている。サプリ屋が大量購入できるようなもんじゃない。ところがフェニルアラニンなら購入したって怪しまれることはない。アミノ酸サプリを作ってる会社なんだから。」
「ってことはつまり、山崎さんは……。」
「今はネットで大昔の論文だって買える時代だ。有機合成やってた山崎ならいとも簡単に作れるだろう。そして、覚せい剤の主な作用は当然ながら覚醒、そして食欲減退だ。」
「奴が作ってるのはメタンフェタミンかな?」
「いや、メタンフェタミンは効果が強すぎる。いくら馬車馬のように働かせたいといっても、組織がシャブ中だらけになっちゃ困るだろう。それに比べてアンフェタミンは、海外じゃアデロールって名前でADHDの治療薬として処方されて、それが大学生の間でスマートドラッグとして流行してるんだ。あっちのドラマに『お前ら、アデロール持ってる!?』なんて大学生が子供に聞くシーンが出てくるくらいで、サプリにごく微量混ぜてたくらいじゃ中毒だらけにはならないだろう。それに工場を握ってるわけだから、混ぜたり混ぜなかったりしなければある程度摂取量もコントロールできる。」
「それにしても、そこまでして組織を拡大してどうしたいんだろう?もうお金は充分持ってるはずじゃん。」
「ところが、その組織にも最近綻びが出始めたんだよ。」
吉井が、潜入で調達した情報を話し始めた。
「ニューステージに契約切られてから、マルチよりもっとエグい仕組みになってるだろ、あれのせいで辞める人が増えてるんだよ。今は人を維持するのが優先で、師匠によっちゃ十五万の自己投資を強制しないところもある。セミナー費で月何万円か取れるから、大分減るが稼ぎにはなるらしい。ただちょっと違和感あるのは、入った時よりも人集めに必死なんだよな。ここ数ヶ月でかなりハッパ掛けられてるんだよ。まあ俺は、面白半分で潜入してくれる知り合いがいるからそんなにプレッシャーかけられてないけど。」
吉井は、済が大阪のサブカル系の知り合いや元政治活動家を紹介したのもあって、早々と六系列を達成していた。全員物見遊山のろくでもない趣味の奴らなので、さすがに自己投資はやっていないが、脱会者が増えた昨今はそれでも重宝されているらしい。
それにしても、人数を維持するためとはいえ、急な路線変更に思える。何か変化があったのだろうか。
「辞める奴が増えてる以外の理由は聞けてないな。師匠クラスが参加できる会議があるから、そこに出られれば何か分かるかもしれんが……。」
「さすがにそこまで行くには潜入レベルじゃ難しそうだね。」
「しかし、何か違和感あるんだよなあ。」
会話をしながら工場周辺を探っていると、少し下ったところに三階建てのアパートがあった。やや新しく、大学生が住んでいそうなクラスの建物だ。すぐ後ろは崖になっている。田舎によくある、地主が建設会社に乗せられて作ったはいいものの、あまり人が入っていないタイプのアパートを彷彿とさせる。違和感があるのは、駐車場が付いているにも関わらず車が一台も駐まっていないことだ。
「こういうところって、車がないと生活できないから一人一台は車持ってるはずなんだけどな。」
「なあ済、ひょっとしてここに山崎が住んでるんじゃないのか?信者をここに集めて働かせて、工場との往復生活をさせてるから車がないのかもしれん。」
「そうだとすると、実質的には軟禁状態ってわけか……。」
「ちょっとここ、行ってみないか?」
吉井の案に済も賛成し、この怪しいアパートに行ってみることにした。陽子も参加したがっていたが、危険なので二人で行くことにする。
二人との通話が終わった後、済はふと思い出し、あのQRコードを読み込んでみた。英数字の羅列が並んでいるだけで意味は読み取れない。数えてみると、四十二桁あった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』
コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ”
(全20話)の続編。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211
男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は?
そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。
格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。
AIアイドル活動日誌
ジャン・幸田
キャラ文芸
AIアイドル「めかぎゃるず」はレトロフューチャーなデザインの女の子型ロボットで構成されたアイドルグループである。だからメンバーは全てカスタマーされた機械人形である!
そういう設定であったが、実際は「中の人」が存在した。その「中の人」にされたある少女の体験談である。
【死に文字】42文字の怖い話 【ゆる怖】
灰色猫
ホラー
https://www.alphapolis.co.jp/novel/952325966/414749892
【意味怖】意味が解ると怖い話
↑本編はこちらになります↑
今回は短い怖い話をさらに短くまとめ42文字の怖い話を作ってみました。
本編で続けている意味が解ると怖い話のネタとして
いつも言葉遊びを考えておりますが、せっかく思いついたものを
何もせずに捨ててしまうのももったいないので、備忘録として
形を整えて残していきたいと思います。
カクヨム様
ノベルアップ+様
アルファポリス様
に掲載させていただいております。
小説家になろう様は文字が少なすぎて投稿できませんでした(涙)
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
フリー声劇台本〜モーリスハウスシリーズ〜
摩訶子
キャラ文芸
声劇アプリ「ボイコネ」で公開していた台本の中から、寄宿学校のとある学生寮『モーリスハウス』を舞台にした作品群をこちらにまとめます。
どなたでも自由にご使用OKですが、初めに「シナリオのご使用について」を必ずお読みくださいm(*_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる