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第五章 恐怖!カルト宗教

第四十八話 済、科学の道に入信

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カウンセリングルームを出ると、吉野は入り口脇の階段を上り始めた。その後ろに付いて行くと、吉野は二階を通り越し、三階で建物の中へ入った。登りながら聞いた説明によると、二階は全てカウンセリングルームになっているらしい。三階は入ってすぐに大きなホールの入り口があり、済はその左にある応接室に通された。

応接室には重厚な木製のローテーブルと、それを挟んで高そうな黒いソファが四つ置かれていた。入り口から見て正面には大きなガラス窓があり、これが外から見える数少ない窓の一つだった。壁には濃い色合いの木製本棚が設置され、百科事典ほどもある分厚い本がずらりと並んでいる。

吉野は済をソファに座らせると、どこから持ってきたのか薄い冊子を広げた。入会の説明資料らしい。表紙を開くと、Eメーターを握る男と、分厚い本を持った男の絵のページが現れた。陽子がMASKの地下で見た絵と同じものだ。

「我々科学の道は、このEメーターを使い、『クリア』な状態になることを目指しています。我々には、子供の頃の辛い記憶が、思い出せないまま脳に根を張っています。我々はこれを『反発心』と呼び、日常生活でのトラブルや不安の元になると考えています。我々のカウンセリングを通じて、会員はその『反発心』がなくなった状態、『クリア』を目指すのです。」

そう言うと吉野は立ち上がり、本棚から五百ページはあろうかという分厚い本を取り出した。分厚さは辞書のようだが、装丁はシンプルで、海外のペーパーバックのようだ。

「これが我々の考え方の基本となっている、『ダイナミックス』シリーズの第一巻です。『ダイナミックス』シリーズは全部で十巻あり、これらを学びながらカウンセリングを繰り返すことで『ブリッジ』を登っていくことができます。これからさらに我々の代表、天道加世が書いた教え十巻を学ぶことで、世界の真理に触れることができます。」

(この分厚い本を二十巻も……しかし霊界物語よりは短いか)などと考えていると、吉野がおもむろに壁のポスターを指差した。
※霊界物語:神道系新宗教、大本の教祖だった出口王仁三郎が口述筆記した経典。八十三冊に及ぶ膨大な内容で、神道を基本としながらキリスト教、仏教、儒教、さらには偽書で知られる古史古伝、九鬼文書までも取り込んだ内容となっている。

「これが『ブリッジ』です。魂のステージが上昇していく過程を示したもので、レベルが上がるごとに様々な能力が得られるんですよ。」

そこには十五に及ぶ魂のレベルと、そこで得られる能力の表があった。といっても能力について書かれているのはレベル七までで、それ以上については機密扱いとなっていた。レベル七までの能力は深い思考や一人でのカウンセリング、反発心からの解放などで、透視やテレパシーといった怪しい記載は見当たらない。恐らくレベル八以上になって始めて、教団の怪しい一面を教えてもらえるのだろう。

「レベルアップって、どうやってやるんですか?」
「上位の人間からカウンセリングを受け、どれくらいクリアに近づいているか、また天道加世の教えを理解しているかでレベルアップの認定を受けられます。」
「なるほど、レベルが結構細かいから継続して頑張れそうですね。入会金とか、月謝とかあるんですか?」
「それについてはこちらの表をご覧下さい。入会金は三万円、年会費一万円、カウンセリングは一回五千円です。それ以外はお気持ちのみ受け取っております。」

吉野から聞いた教団の仕組みは、細かく段階を分け、少しずつレベルアップさせることでモチベーションを維持させる、なかなかうまい仕組みだった。それにしても、思ったより金はかからない。あまり人数はいないように見えるのだが、このビルや教団を維持できるのだろうか。話を聞いた限りでは、少なくとも建物部分は教団の持ち物のように思える。それだけの資金が稼げるようにはとても思えず、実に怪しい。

これは調べがいがあると思い、済は早速入信することにした。入会の儀式は特にないが、月に一度行われる集会で新入信者の紹介があり、そこに教祖も来るという。



月例集会は二週間後だったので、その日は入会金だけ払って帰宅し、翌週は再びカウンセリングを受けに本部へと向かった。前と大して変わらない内容だったので、今度も適当に話を合わせて乗り切る。とはいえ子供の頃の思い出を話すのは案外楽しく、ただ話すだけでも精神的な癒やしに繋がるのではないかと思った。また、カウンセリング後に『ダイナミックス』を買うように言われたので、二十巻セットを押し売りされるかと一瞬緊張したものの、とりあえず一巻だけ買えば良いと言われたので面白半分に購入した。一冊一万円也。

中身はというと、反発心の理論について、それらしい精神分析用語や心理学用語を引用し、著者がいかにしてそれを見出したかを回りくどく書いたもので、ページ数が多い割に読むのに時間はかからなかった。

そしてその翌週、ついに済は月例集会に参加することとなったのだった。
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