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第三章 サークル構成員吊し上げ作戦

第二十九話 吊し上げ会③~爆弾投下~

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「もういいですよ、イッチーさん。これまでの話でよく分かりました。あなたドリームランドの人なんでしょ?いや、今はサークルって呼ぶんでしたっけ。」

質問攻めを食らわせたところで、ついに済が爆弾を投下した。その瞬間、市村の表情が一瞬警戒へと変わる。しかし、まだ事態を飲み込めていないのか、わざとらしくとぼけた。

「えっ、サークルって何のサークルですか?」
「イッチーさん、とぼけたって無駄ですよ。新橋のニューブリッジって店知ってますか?僕ね、あの店で何年か前に勧誘されてたんで知ってるんですよね。師匠への弟子入り直前まで行ったし、やめた知り合いも何人もいます。」
「最初から気づいてたんですか……。」

ニューブリッジの話が出ると、市村は隠すのを諦めたようだった。

「最初からではないですよ。なんとなく変わった人だな、とは思ってたんですが。この間、吉井を師匠に紹介してましたよね?あの後、吉井が『何かネットワークビジネスとか言ってたな』って言ってたので、ピンときました。それにしても、割と初期段階で言っちゃうんですねえ。あ、吉井にはバラしてないですよ。」

吉井をきっかけに気づいたというのは勿論嘘で、とっくの昔に気づいていた。しかし、吉井の潜入が台無しになっては困る。時期を誤魔化し、つい最近のことにしておく。

「仕組みはよく知ってます。互助会とマルチ商法を組み合わせたような仕組みですよね。イッチーさんと同じチームに所属していた人から、イッチーさんは二、三系列って聞いてます。だからまあ、十五万円まるまるは払っていないかもしれませんが、逆に言えばあなたは搾取に加担しちゃってるってことですね。ファンを作るとかチームビルディングとかも、要は組織への勧誘でしょ。僕が行ってたオタク飲み会も勧誘用の会なんでしょうが、何も言わずに近づくって、これマルチ商法だったらブラインド勧誘と言って違法なんですが。」
「ぼ、僕らはマルチ商法ではないんですが。」
「そんなことは知ってますよ。でも月十五万円も払わないといけない上に現金還元がないんでしょ?組織内で使えるマイルで還元されるなんて、まるで大東島紙幣ですね。それに、今の仕組みに変わったのって去年じゃないですか。ってことは、市村悠一さんが入った三年前はマルチ商法をやってたはずだ。東尚之さんとか佐々木洋一さんも一緒なんですか?どうですか?」
※大東島紙幣:かつて沖縄県の大東諸島で使われていた紙幣。元は一企業が発行した手形だったが、島がその会社に実質支配されていたため、島内ではこの紙幣が流通しており、日本円は流通していなかった。

相手を揺さぶるため、わざと三人の名前をフルネームで呼ぶ。「東尚之」と済が言った時、市村の目が右斜め上を向いた。何かを思い出そうとしているようだ。

「イッチーさん。あなた今、『こいつにターリー、サスケの本名教えたっけ……?』って思ってますよね。安心してください。あなたが僕に彼らの名前をバラしたわけではありません。彼らについては僕のほうで調べさせてもらいました。ターリーは鹿児島の工業高校出身、サスケは京都の立志館大学出身ですよね。そして多分三人とも、越島さんに言われて、今は派遣かフリーのエンジニアやってるんじゃないですか?」

市村の目が済を見たまま固まった。図星のようだ。

「なるほど図星ですか。あなた達については他にも情報を持っていますよ。東京都江東区亀戸X丁目XX-XX クロス亀戸。」
「何でそんなことまで……。」
「動揺してるところを見ると当たってるみたいですねえ。オタク飲み会の主催者と常連の数名、全員ここに住んでますよね?しかもこの建物の権利者は越島さんだ。つまりあなたは、月十五万だけではなく、家賃も師匠に貢いでいるわけだ。違いますか?」

もはや市村に反論する元気は残っていない。

「そうです……。」
「イッチーさん、いつだったか、僕はオタクというよりサブカルだって言いましたよね?サブカルの分野には色々ありますが、その中にマルチ商法とか情報商材とかの怪しい商法について調べて楽しむっていうのもあるんですよ。アングラ臭が強かった頃のネットでは、マルチ商法とか架空請求をあえて相手にしてぶっ叩くネタがウケてたもんです。僕のような人間がいるってことも考えて勧誘しなきゃ。サブカルに勧誘仕掛けたって、遊ばれて終わりですよ。意識の高い話をぶつけたところで、相手はそいつをぶっ叩いてネットのネタにしようとしか思ってないんですからね。」
「それでも、僕は夢のために頑張る人を応援しようと思ってるんです、サークルはサークルで良い学びの場所だと思ってるんですよ。」
「それは結構なことですが、それじゃイッチーさんは、これまでどれだけ頑張ってきたんですか?子供の頃から将来の夢に向かって頑張ってたら、サークルになんて入らなくても良いわけじゃないですか。それに、学びの場なんて大学にもあったし、貴重な話を聞きたかったら大学の人脈でも辿ればいいじゃないですか。」
「そりゃ、僕は大学に入るまで特に夢を持ってるわけでもなかったし、何となく周りに合わせて進学しただけです。でも、良い大学に入って良い企業に入るなんて、当たり前のレールに乗っただけじゃ常識を破る成功は得られないんじゃないですか?」
「市村さん、それを『当たり前のレール』と思えるなんてあなたは随分恵まれてますよ。僕の地元なんて不良だらけで、少年院に入る奴も何人もいたし高卒が当たり前でしたよ。僕の環境からすれば、大学進学は『常識から外れたレール』そのものなんですよ。そこから逃れるために頑張った結果が今なのに、大した努力もしてこなかった市村さんに普通の生き方だなんて言われたらブチ切れるに決まってるでしょうが。あなたはね市村さん、僕の地雷を踏み抜いちゃったんですよ。従ってこのように僕に責められてるわけです。それにさっきの話、大学に限りませんよ。僕の知り合いには政党を持ってる某新宗教の三世とか、共産党員とかいますけど、彼らは組織の繋がりで実業家とか政治家に触れることだってできるわけです。学びの場が欲しかったら市村さん、宗教とか政党に入ったらいいんじゃないですか?」
「そんな、おかしなところに入るわけにはいかないですよ……。」
「ええっ!?今あなた、『常識的な生き方してたら、それを破る成功は得られない』とか言ってたじゃないですか。あなた矛盾してますよ。常識を破って宗教や政党に入るべきでしょうが!そこから政治家や実業家を目指すべきでしょうがって言ってるんですよ僕は!あなた、ネットワークビジネスもどきやってる割に対人経験少なすぎじゃないですか?今までどれだけ新宗教信者や政治系の人間と向き合ってきたんですか?相手をよく知らずに避けてるから、いつまでたっても九系列達成できないんでしょうが。違いますか?」

最初は穏当に終わらせるつもりだったが、酒が入っていたためか完全にボコボコにしてしまった。市村は黙りこくっている。このままでは帰れなくなってしまうため、クロージングに入ることにした。
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