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第三章 サークル構成員吊し上げ作戦

第二十二話 スパイ、確保

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東京駅に新幹線が滑り込んだ時には、既に日が暮れていた。中央線に乗り換え、中野に向かう。山手線はよく真円として描かれるが、実際には縦に長い形をしており、東京~新宿、そしてその先の中野まではあまり時間が掛からない。二十分もあれば着いてしまう。済は中野駅を出ると、出張で疲れた体を引きずり、アパート近くの油そば屋に滑り込んだ。しらす入りの油そばを注文し、スマホを取り出す。いつもの癖で、スマホを立ち上げるとすぐにブラウザを開いてしまう。画面には、新幹線の中で特定したターリーの検索結果が再び表示された。

一番手こずったターリーの特定が、やっと完了した。済は麺を口に運びながら、これまでの調査結果を頭の中でまとめることにした。

まず市村だが、彼については元々本名を知っており、Facebookの情報から出身地や大学、かつての勤務先を突き止めている。他の二人も同じで、現職については言及がない。今回の特定の最終目的は、「お前、知ってるんだぞ。『サークル』の奴なんだろう?」とネタばらしし、吊し上げる会の実現である。そのためには、ターゲットとなる市村とターリーが、サークルに所属しているという確実な証拠が必要だ。市村についてはこしじを師匠と呼んでいることから、ターリーについてはZEROのスタッフをやっていたことから恐らく間違いないが、勧誘をしているという確実な証拠を得るためには、もう一度潜入する必要がある。済は過去に激怒してしまっているため、もう勧誘されることはないだろう。となると誰かを潜入させる必要がある……。

食事を終え、アパートに帰る道すがら、何人もの顔が頭に浮かび消えていった。ネットの知り合いであれば面白がってくれる人間が何人かはいるだろう。ただ、傍観者としてネタを消費するのと、実際に潜入するのは全く別ものである。かつてフォロワー数が一万人を超えているTwitterユーザーがオフ会を呼びかけたところ、四人しか集まらなかったという話がある。ネットの繋がりをリアルに引っ張り出すのは、それだけ難しいのだ。済のように、予定さえ空いていればどこにでも出ていく人間が珍しいからこそ、サークル側もそれなりの熱量を持って勧誘してきたのかもしれない。傍観者を超えて、主体的に協力してくれる人間はいないか……。

色々な人物について思いを馳せたが、これという人材には思い至らなかった。どうせ仲間は集まらないだろうし、一人で突撃して面白おかしい記事に仕立てて終わりにするか、ブログにでも書けばそれなりにバズるだろう……などと思いながら帰宅し、スマホをチェックするとLINEが入っていた。

「ワタル、久しぶり!今度東京に出張するんだけど、予定空いてたら会わないか?この間の特定作戦とか、まだまだ肴にできそうだしな笑」

大阪の吉井からだった。

そうだ、古のインターネット魂を持つこの男なら協力してくれるかもしれない。この後通話できるか確認し、これまでの経緯を話す。

「……というわけで、三年前と同じ団体の奴らと、現在進行系で接触してるっぽいんだよ。それで、もしも予定が合えばヨッさんには市村に会ってもらって、潜入してもらいたいんだよね。奴らは大阪が本拠地だから、そっちにも師匠がいるはずだ。俺は一度ブチ切れてるから勧誘はしてこないと思う。」
「この前調べてたドリームランドとかいうやつか。なかなか面白そうだな!昔のテキストサイトのノリを思い出すぜ。」
「とりあえず東京に来る日を教えてくれ。」

吉井の日程を確認し、早速市村にLINEする。

「イッチーさんお久しぶりです!実は僕の知り合いに、イッチーさんの話を聞いてみたいって奴がいるんですけど、今度の土日空いてますか?起業に興味がある奴なんですよ。」
「おおー、それは是非是非、ありがとうございます!(*^^*) 今度の土曜空いてますよ、食事しましょう☆」

知り合いを紹介したいというのが効いたのか、すぐにLINEが返ってきた。実は済も、調査を始めた後に何度か食事に誘っていたのだが、予定があるとかわされていた。カモではないと分かったからだろう。現金な奴だ。

日程調整が完了したことを吉井に告げ、市村との食事に向けて打ち合わせをする。今回の目的は勧誘のステージを進めることである。もしも話がうまく進み、師匠に紹介されることになれば、市村がサークルの会員であるという確実な証拠になる。さらに、吉井が師匠からサークルの情報を引き出せれば確実だ。そのためには、一定の資金が必要な夢を持っているという設定を作っておく必要がある。奴らは夢のために必要な資金を起業で稼ごうと洗脳してくるからだ。吉井にそれを話すと、「何だそんなことか。適当にでっち上げとくぜ。」と言われたので、任せることにした。奴なら意識高い系向けのストーリーを適当に作ってくれるだろう。

さらに裏取りを進めるため、済は次の土曜日を待つ間、オタク飲み会の参加者に話を聞くことにした。
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