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第一章 マルチ商法女、攻撃作戦

第四話 インターネット特定班、行動開始

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「ニューリのマネーフローゲームセミナー」



これがイベントの名前だった。ニューリは名字の読みを変えたものだろう。彼女はネットでこの名前を使っているようだ。

済が引っ掛かったのはイベント名の後半だった。

マネーフローゲーム。

済はこの名前に聞き覚えがあった。これは「大富豪パパと大貧民パパ」という自己啓発本の作者が考案したボードゲームである。この自己啓発本、ノンフィクションと言っておきながら実は大富豪パパが実在しないことが暴露されてしまっており、作者の成功を書いたものというよりはマネーフローゲームの販売やセミナーで作者が成功するための本であると言われていた。実際、この本がベストセラーになったことで作者はかなりの収入を得た上にセミナーも高額である一方、本を出版する前の業績はパッとしなかった。ゲームの内容はというと、雇われ人の立場を抜け出して経営者や投資家になってゴールを目指すというものであり、本の中でマルチ商法が肯定的に取り上げられていることも相まって、マルチ商法の勧誘に頻繁に使われていた。持ち込み禁止のボードゲーム会が非常に多く、ボードゲーム好きというよりはむしろ、悪徳商法マニアに有名なボードゲームだった。

吉井大介(済は彼を「ヨッさん」と呼んでいる)もこのことは知っており、イベントページやコメントを見せたところ、入里麻里奈がマルチ商法をやっているのはほぼ間違いない、ということで見解が一致した。
吉井は済の大学時代の同期で、同じく古のインターネット民である。宗教思想や悪徳商法への興味が強い済よりもさらにインターネット寄りで、掲示板での叩き合いや特定祭りも手慣れたものだった。二人とも、成績は良いがどこか狂っているところで波長が合い、一緒に特定作業をしたことも何度もあった。

一晩明け、すっきりした頭でメッセージを送る。今日は土曜日、時間はたっぷりある。

「それでさ、こいつがどこのマルチ商法をやってるか特定して突いてやろうと思うんだよ。ヨッさんも協力してくれ。」
「よっしゃ分かった。手分けして特定しよう。まずは作戦準備からだな。」

こうして東京・大阪二拠点での入里麻里奈特定作戦、プロジェクト・ニューリの蓋が切って落とされたのである。作戦準備ということで、まずはコンビニへ走ってエナジードリンクや酒、食事を買い込む。春の朝はまだまだ肌寒い。エアコンで室温を整え、デスクトップPCの前に陣取る。手の届く範囲にエネルギー源を準備したところで作戦開始である。

「よし、準備完了だな。まずは作業分担と行こうか。フレンドになってる俺がFacebookを辿るから、ヨッさんはGoogle検索や別SNSを頼む。」
「任しておけ。」

済はFacebookの投稿確認、吉井はGoogleでの検索を始める。Facebookの投稿については、マルチ商法の勉強会メモや名刺の整理をしている投稿が出てきたものの、めぼしい情報はなかった。平日昼間に中目黒カルマタワーの写真をアップロードしていたのが妙に気にかかり、一応メモしておく。一方吉井は「ニューリー」というHNから、早々とTwitterとInstagramのアカウントを特定していた。

「Facebookのほうは意外とガードが固いな。確定できる投稿が見当たらない。」
「それじゃこっちを手伝ってくれ。TwitterとInstagramを辿ろうぜ。」

済はInstagram、吉井はTwitterを辿ることにする。かなり念入りに調べてみたものの、高専関係のイベント写真や食事の写真ばかりで、それらしい投稿はなかった。

「こいつ意外と慎重だなー、なかなか尻尾を出さない。やってるのは間違いないと思ったんだけどな。もしかして、マネーフローゲームは真面目にやってるだけだったとか?」
「ヨッさん、まだ諦めるには早い。あのコメントからしてマルチをやってるのは確実だと俺は思う。それに、インターネットで活動したからには必ず痕跡が残るはずなんだ。選民思想野郎にコケにされたままじゃ、古のインターネット魂がすたるってもんよ。」
「何だそりゃ!笑」
「とにかくもう一度Facebookを辿るぞ!」

Skypeで画面を共有し、通話しながら投稿を辿っていく。すると、三ヶ月ほど遡ったところで怪しげなセミナーの投稿が増え始めた。二百人くらいで集合写真を撮っているが、素晴らしい仲間と高めあった、というような抽象的な説明だけで中身の説明はない。コメントで何のセミナーか質問されても

「気になるなら後でこっそり教えてあげますよ☆」

と、イラッとする末尾の☆スタイルを保ちながら答えていた。

さらに遡ったところ、十二月頃に見たこともないアミノ酸サプリメントの投稿が行われていた。

「ワタル、これはもしかして尻尾を掴んだか?」
「いやまだ分からん、付き合いで買っただけかもしれないからな。でもマルチの商品なのは確かだ。」

サプリメントのブランドを検索すると、ネイチャーバンテージというマルチ商法の商品であることが分かったが、単に付き合いで買っただけの可能性もあり、まだ断定はできなかった。

特定には慎重を喫し、そこからさらに遡ること二ヶ月分、二人の前に確定的な情報が現れたのだった。
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