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御者の男 ー3ー
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言われたものを用意し、娘に渡すと
「ありがとう」
今まで、無表情で感情を持ち合わせていないかのようだった娘が、庶民の服を嬉しそうに受け取る。
希望の服は質素な庶民のものだったけれど、相手は貴族の娘だ。質素なものを選んでも文句は言わないだろうとは思ったけれど、預かった金も十分にあったので、似合いそうなものを選んだつもりだ。とりあえず、お気に召して貰えたようで良かった。
預かった金を戻そうとすると
「このままなら、次の村で宿泊でしょ?その時の支払いに必要だから預かってて。それから、この町を過ぎると森があるから、その森を抜けたら食事にしましょう」
そう言って、金を受け取ろうとしない。困惑していると
「あなた、ホント人がいいのね」
クスリと笑って娘は馬車を出すように言うと扉を閉めてしまった。
国外追放のはずなのに、殺されかかっているというのに、なんでもない様に過ごしている。
泣きわめくでもなく、落ち着き払って。
普通の町娘のような服が気に入ったと笑う。
パンの件で敵認定は外れているようだけれど、安心しすぎだろ、もっと、危機感を持って欲しい。
思わず、娘の心配をしている自分に気づき、ため息が出てしまった。
自分こそ、これからの事を考えなければならないというのに。
殺人者に仕立てられそうなこと。弟を巻き込まないようにしなければならない事。ただ、娘が言うように、馬車を走らせつづけ、隣国へ向かうことが出来れば、何か手立てが浮かぶかも知れない。
森を抜け、開けた場所に馬車を止め娘に声をかける。見張られている事を考えて、わざと見通しの良いところに馬車を停めておく。
着替えをして出てきた娘は、育ちの良さが滲み出してて、庶民の服だというのに、高級な服を着ているようだった。
「どうかしら」
「…」
「似合ってる?おかしい所はないかしら?」
「貴族は、どんな服を着てもお貴族様なんだな」
「似合ってない?」
「…かわいいですよ」
「ありがとう」
褒めると、ほんのりと頬を赤くする。最初の無表情などなりを潜めている。そこには年相応の娘がいた。
娘は、後ろを振り返ると「あら、頭は良かったのね」と、馬車を停めた場所のことに気づいたらしく、失礼なことを呟いている。
確かに、ここまでの言動では、そう思われても仕方がないかと反論するつもりもなかった。
平民なら、ほんの少し贅沢な食事だが、美味しいと言って食べてくれる。貴族なら、もっと美味しいものを食べてきだだろうに。
一体、今まで、どんな生活をしてきたというのか。
モグモグと、固いパンを口に運ぶ娘を見ながら、貴族も大変なんだなと思った。
「あなた、犯罪に手を出すような人には見えないけれど、何か脅されてるの?」
隠すこともないので、全てを話すと
「やっぱり、馬鹿なの?」
何度目かの馬鹿発言に、思わずムッとする。
「だって、馬鹿でしょ。貴方が犯罪に手を出したって知ったら。あなたが、それで死んだと知ったら、残された人はどう思うの?それも、たった一人の家族なんでしょ?」
何も言い返せない。しかし、それでも、この選択肢しかなかったのだ。あの時は。
「でも……嫌いじゃないわ」
ポツリと零された娘の囁きにドキリとした。その行動は馬鹿だと言いながら、嫌いじゃないと言う。何故か、胸の重しが軽くなったような気がした。
「ありがとう」
今まで、無表情で感情を持ち合わせていないかのようだった娘が、庶民の服を嬉しそうに受け取る。
希望の服は質素な庶民のものだったけれど、相手は貴族の娘だ。質素なものを選んでも文句は言わないだろうとは思ったけれど、預かった金も十分にあったので、似合いそうなものを選んだつもりだ。とりあえず、お気に召して貰えたようで良かった。
預かった金を戻そうとすると
「このままなら、次の村で宿泊でしょ?その時の支払いに必要だから預かってて。それから、この町を過ぎると森があるから、その森を抜けたら食事にしましょう」
そう言って、金を受け取ろうとしない。困惑していると
「あなた、ホント人がいいのね」
クスリと笑って娘は馬車を出すように言うと扉を閉めてしまった。
国外追放のはずなのに、殺されかかっているというのに、なんでもない様に過ごしている。
泣きわめくでもなく、落ち着き払って。
普通の町娘のような服が気に入ったと笑う。
パンの件で敵認定は外れているようだけれど、安心しすぎだろ、もっと、危機感を持って欲しい。
思わず、娘の心配をしている自分に気づき、ため息が出てしまった。
自分こそ、これからの事を考えなければならないというのに。
殺人者に仕立てられそうなこと。弟を巻き込まないようにしなければならない事。ただ、娘が言うように、馬車を走らせつづけ、隣国へ向かうことが出来れば、何か手立てが浮かぶかも知れない。
森を抜け、開けた場所に馬車を止め娘に声をかける。見張られている事を考えて、わざと見通しの良いところに馬車を停めておく。
着替えをして出てきた娘は、育ちの良さが滲み出してて、庶民の服だというのに、高級な服を着ているようだった。
「どうかしら」
「…」
「似合ってる?おかしい所はないかしら?」
「貴族は、どんな服を着てもお貴族様なんだな」
「似合ってない?」
「…かわいいですよ」
「ありがとう」
褒めると、ほんのりと頬を赤くする。最初の無表情などなりを潜めている。そこには年相応の娘がいた。
娘は、後ろを振り返ると「あら、頭は良かったのね」と、馬車を停めた場所のことに気づいたらしく、失礼なことを呟いている。
確かに、ここまでの言動では、そう思われても仕方がないかと反論するつもりもなかった。
平民なら、ほんの少し贅沢な食事だが、美味しいと言って食べてくれる。貴族なら、もっと美味しいものを食べてきだだろうに。
一体、今まで、どんな生活をしてきたというのか。
モグモグと、固いパンを口に運ぶ娘を見ながら、貴族も大変なんだなと思った。
「あなた、犯罪に手を出すような人には見えないけれど、何か脅されてるの?」
隠すこともないので、全てを話すと
「やっぱり、馬鹿なの?」
何度目かの馬鹿発言に、思わずムッとする。
「だって、馬鹿でしょ。貴方が犯罪に手を出したって知ったら。あなたが、それで死んだと知ったら、残された人はどう思うの?それも、たった一人の家族なんでしょ?」
何も言い返せない。しかし、それでも、この選択肢しかなかったのだ。あの時は。
「でも……嫌いじゃないわ」
ポツリと零された娘の囁きにドキリとした。その行動は馬鹿だと言いながら、嫌いじゃないと言う。何故か、胸の重しが軽くなったような気がした。
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