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ノードリック編
ハロルド(ハル) ー6.古の歌ー
しおりを挟む「こちらも一刻を争っていて、加勢できず申し訳なかった」
ライリーは、ヒョウキの親に向かってわびを言う。
「二人とも、クロ達と一緒に、彼女の所へ籠を運んでもらえないか」
女性からの怒りは、ライリーだけに向けられていて、ハロルド達には向けられていないことに気づいたので、自分が近づいても危害を受けることもないことも分かった。
それで、リカルドとシロ達と一緒に、籠を運んでいく。
すると、シロ達2頭は籠を置くなり、ヒョウキの親に服従の姿勢を取る。それは、シロとクロよりも、彼女が格上であることを示していた。
ヨロヨロと女性が籠に近づき、中をのぞき込むと、ようやく怒りが消え、そろそろと、籠の中の子供達に手を伸ばす。母の存在に気づいた2匹が起きて、籠から出ようとするのだが出れずに、コロン、コロンと籠の中で転がっている。
それで、寝ていた子も目が覚めたようだが、ヒョウキの子供達が遊んでいると思ったのか、楽しそうに声を上げる。
コロコロと転がるヒョウキの子供達を籠から出す力もないのか、女性は、二頭を撫でていると、リカルドが近づいて、ひょいっと一頭を抱きかかえて、籠の外に出すと、じゃれ始める。それを女性は止めることもせず、優しい顔で見つめ、そして、ハロルドの方へ目を向ける。
もう一匹も籠から出して欲しいのかと感じて、ハロルドはそっともう一匹を抱きかかえる。シロと違う甘い香りがする。ハロルドが地面に下ろすと、ヨチヨチと歩いてリカルドの方へ歩みだし、リカルドと二頭が遊び始めた。
籠の中に残された子は、急にヒョウキの気配がなくなり、ぐずり始めて、はじめて、女性は籠の中の子に気づき触れる。そして、クラリスがしている、銀色の魔石をみつけ、驚いた顔をする。
『・・・・・・』
何か、言葉を発したけれど、何を言ったのかは、ハロルドには聞き取れなかった。旧き文明の言葉な事は理解できたのだけれど。籠の中の子は、女性の手のぬくもりを感じて、また、嬉しそうに声を上げた。
「傷の手当てをしたいのだが、よろしいか」
様子を伺っていたライリーが声をかけると、女性は寂しげに首を横に振る。そして、何かをささやくと、リカルドとじゃれていた二頭が女性の元に転がるように駆けてくる。
女性は、ライリーを見て、籠の中の子を見る。
ライリーが「クラリスに用か」そう聞くと、女性はうなずく。ライリーが籠の中から、子供を抱きかかえ、女性の前に座らせる。
すると、二頭もクラリスの隣にそれぞれ座り込む。
『・・・二人とも、次代の・・・を守りなさい』女性は旧き文明の言葉で話したあと、
「二人にこの子らをお願いしてもよろしいか」とハロルドとリカルドを見てくる。
「はい」
ハロルドは女性を安心させようと答え、リカルドはうなずいていた。
それを聞いて安心したのか、女性はその場に崩れ落ち、残されたヒョウキの子供が、彼女にすり寄っていくが、女性の目は開くことはなかった。
ガサリ
草を踏みしめる音で、ハロルドが顔を上げると、森から、一人の老人がこちらにやってくるところだった。さらに、森には魔獣の目がこちらを見つめている。
シロもクロも、今も服従の姿勢を取っていて、特に警戒はしていない。
「一族の者が世話になった」
老人が声をかけてくる。
「いえ、助けることが出来ず申し訳ない」
ライリーは頭を下げる。
「今しばらく、お付き合いいただけるか」
と老人が問うとライリーが肯定を示す。
老人が女性に跪き、歌い出すと、森からも歌声が聞こえてくる。その歌は、礼拝堂で聞く詩の一つだった。あの詩には、こんな曲がついていたのかとハロルドは驚く。
そして、魔方陣が現れては消えていく。
あ~
う~
彼らの詩に会わせて、クラリスも歌い出す。透き通るような歌声だ。すると、青白い魔方陣が現れ、女性を包み込んでいく。まるで雪が降り積もっていくようだとハロルドは思った。
老人や森の魔獣達は一瞬歌うことを止めたが、すぐに詩を紡ぐ。
詩が終わると、シャラシャラと音を立てて、女性を包み込んでいた魔方陣が消え、そして、女性の姿も消えた。
老人がクラリスに近づき、頭を下げる。その目には涙が光っていた。
『旧き血筋の姫よ。一族を代表してお礼申し上げる』
「我が一族の者が世話になった。この子らは、すでにそなた達に託されている。どうか、友として側に置いて欲しい」
そう言うと、老人は女性がいたところから、2個の魔石を拾い、ハロルドとリカルドの手に握らせると、ユルユルとその姿が消えていき、同時に、森にいた魔獣達の気配も消えていた。
不思議なことに、リカルドとライリーの攻撃で出来た焼け跡も消え、そこには、沢山のシャタの白い花が咲き乱れていた。
ふ~
ライリーから、息が漏れ、つられてハロルドも大きく息を吐く。
「おばさま、あの・・・」
ハロルドの問いかけに、ライリーは、シロに抱かれるように眠ってしまった我が子と二匹の子ヒョウキ、リカルドを見ながら、考え込んでいたのち
「まさか、君たち二人に、あの子達が託されるとは思わなかったよ。本当は、君がもう少し大きくなったとき、兄上から話すことになっているんだけれど。
私から話しても構わないか。
古の森には、あの子達の一族は、森の民と呼ばれていてね、子どもの頃は魔物の姿をしているけれど、魔力の強い大人は人の姿になる一族なんだ」
「それじゃ、魔獣はみんな森の民なのですか?」
「違うね。なぜ同じ姿なのかは分からないけれど、魔獣は瘴気から生まれるだろう?森の民は、子供の姿は魔獣に似ているけれど、それ以外は私たちと同じだね」
「・・・二人のお母さんが、『次代の何かを守りなさい』って言っていましたけど、何を守るんでしょうか」
「旧き言葉を知っているのか。私も何なのか聞き取れなかったな。それは二人がいつか解決していけば良いだろう」
ライリーは、二匹の子ヒョウキを見つめる。
「あと、おじいさんが、クラリスに旧き血筋の姫って言ってましたが」
「クラリスついては、帰ってからで構わないだろうか?兄上達にも話さねばならないし」
「わかりました」
「二人は、シロと同じように、家族として接してくれれば問題ないだろう。老人も友としてと言っていたことだし。その魔石は肌身離さず持ち歩きなさい。君たちを守ってくれるからね」
「さあ、帰ろうか。姉上が心配して待っているだろうし・・・」
ライリーが上半身裸になっているリカルドを見て、大きくため息をつくのだった。
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