上 下
29 / 55
聖女じゃなくて嫁召喚?

聖女じゃなくて嫁召喚?ー2ー

しおりを挟む
騎士様、王様の命令じゃ断れないよね。騎士様くらいのイケメンだもの、モテないわけ無いだろうし。好きな人とか、既に婚約者とか居ないのかな?ホント迷惑かけてゴメン。申し訳なく感じて騎士様を見たけど、やっぱり無表情だった。

王子様と白ローブがユイちゃんの前にやって来て、ライアン王子が恭しくユイちゃんの左手をとり白ローブから腕輪を受け取るとユイちゃんの左手腕に付けた。
すると白ローブが何やら呪文を唱え出し、腕輪から黒いモヤが立ち上りそれがユイちゃんの体にまとわりついて行く。
ユイちゃん、それ、気持ち悪くないの?何だか、イヤーな感じがするんだけど。
驚いてユイちゃんを見たけど、ユイちゃんは、ライアン様を見つめたまま、何も感じていないようだった。
黒いモヤは、やがてユイちゃんの左腕にグルグルと巻き付きやがて金色の蔦の痣に変わった。
なんだろうなーそれ。

「面白いな。魔力無しなのに、コレは見えるのか」

突然、声をかけられてライアン様と目が合う。
ヤバい油断した。見えちゃダメなヤツだったんだ。ここも素知らぬ振りをする所だったのか。
どうやって、ごまかそうと悩んでいたら

「ま、見えただけじゃ、どうすることも出来ないだろうけどな」

ライアン様がフンと馬鹿にしたように笑った後、優しい笑顔でユイちゃんを見て魔法陣から出るように促す。よかった、余計な詮索をされないで済んだ。関心がないって素晴らしい。
ユイちゃんをエスコートする所作をみて、思わずため息が出てしまった。さすが王族。仕草が洗練されてるよ。うん。そんなふうにエスコートされたら胸きゅんかも。私も騎士様にお姫様のように大切にエスコートされたら、うっとりどころか鼻血でそう。
あ、、、真っ裸だから、エスコートは辞退しよう。騎士様の前で裸で歩くなんてあり得ないし。

ユイちゃんは、私のことは、すっかり忘れてしまったようでライアン様に手を引かれ魔法陣から出ていく。あの黒いモヤモヤが何か作用をしているんだろうなぁ。
次は私の番だ。
嫌だ、その腕輪は嫌だ。
怖い。
気持ち悪い。

抵抗しようにも、魔方陣が私をとらえているらしく、逃げることも出来ず、未だに床に座り込んでいる私の前に、レオンハルト様がやってくる。
白ローブが腕輪を差し出すとレオンハルト様は首を振り白ローブを下がらせた。
そして立て膝を付き、胸元から腕輪を2本取り出た。1本は自分につけ、私の右腕を取る。

怖い。
嫌。
取られた腕を夢中で振りほどこうとすると、レオンハルト様の顔が近づいてくる。
えっ?キスされる!と思って硬直すると、レオンハルト様がフッと笑って耳元で囁く。

「心配するな。悪いようにはしない」

あーバカ。恥ずかしい。勝手にキスの妄想なんかして。真っ裸の幼児になんか、大人の人が興味を持つわけがないじゃん。
自分の妄想が恥ずかしくてボッと顔が熱くなるのを感じているうちに、右腕に腕輪をはめられてしまった。
そして白ローブとは違う言葉がレオンハルト様の口から出てくる。

「我は御身の剣とならん。我の心は常に御身と共にあり、あらゆる災厄を退けん」

うわぁー。
婚約の誓いと言うより騎士の誓いをして貰っちゃったよ。
物凄く嬉しくて恥ずかしい。
ますます、顔が火照る。

レオンハルト様が言い終わると、私達の腕輪から淡く輝く光が溢れだし、レオンハルト様からの光は私の右腕に、私の腕輪からの光はレオンハルト様の左腕に伸びて絡まり、やがて白い蔓に変わっていく。
痛くも痒くもなく、嫌な感じもしない白い蔓がひゅるるる~んと私たちを包んでいく感じがした。
そしてレオンハルト様が私の腕輪に唇を落とすと蔓の動きが止まりスーッと掻き消えた。

「さすが騎士は違うね。自ら誓いをするんだ」

脇で見ていたライアン様が皮肉を込めて言ってくる。
そう言えばライアン様は自分では何も言わなかったね。白ローブが呪文を唱えていたし。
ライアン様の婚約の儀とレオンハルト様が行った婚約の儀は、全く別物らしい。
レオンハルト様が行った中世の騎士様のような誓いをみていなかったかのように、ユイちゃんはライアン王子をうっとりと見つめている。
なんだか、様子が変なような気もするけど、これだけのキラキラ王子と婚約したんだもの、舞い上がっちゃうよね。私も舞い上がってるけど。
とりあえず、ユイちゃんが、いいのなら、問題ないか。聖女っていう地位があれば、ある程度のわがままも許されるだろうし、彼らがユイちゃんに酷いことをするとも思えない。どちらかと言えば、私の方が立場的には危うい。ユイちゃんのことは、今の私にはどうすることも出来ないし、生活が慣れたら、ユイちゃんに会いに来てみよう。会えればの話だけれど。

それよりも、王の絶対命令で貧乏くじを引かされているレオンハルト様には本当に申し訳ない。いいのかな?幼児の私に誓いなんかしちゃって。
婚約って解消とか出来るのかな?
私、レオンハルト様のことは嫌いじゃないし、顔も声も好みだし、夢の中のお兄様と似ているから好きだし、これからの生活を考えてみても婚約することで、生活が保証されるのはありがたいから、婚約自体、全然構わない。でもレオンハルト様にしたら、騎士精神を発揮してか弱い子供を守る程度のことだと思うし、それ以上の感情はないだろう。

自分のことは何とも思っていないんだろうなと気づいたら、なんとなく悲しく感じてしまった。レオンハルト様と婚約だ~なんて、ちょっと、舞い上がっていた気持ちがスーっと冷えてしまう。
私がレオンハルト様の足かせになってしまうなんて、そんなの嫌だ。腕輪を外せばレオンハルト様は自由になれるのだろうか?そんな事を考えて、思わず腕輪を外そうとすると、レオンハルト様が黙ったまま私の手を取り首を振る。

ハッとした。レオンハルト様の好意を無にするところだった。私を守るために誓いをしてくれたレオンハルト様の気持ちを拒否するのでは無くて、感謝すべきだった。
ゆっくり話が出来るようになったらレオンハルト様に好きな人とか婚約者がいないのかとか確認をすることにしよう。もしいるのなら婚約は解消できるのかも確認しなきゃ。

「これで婚約の儀も終わったのぉ。めでたい。めでたい」

どこがめでたいんだよ!!って思って王をにらんでみたけど、敵ご一同様は、もう、私のことは厄介払いも出来て安心したのか、関心も無くなったようだ。ご機嫌な王様の後を、皆が付いて部屋を出ていってしまった。
部屋に残っているのはレオンハルト様と私だけだ。

「すまない。いつまでも、こんな格好で居させて」

ぎゃー忘れてたよ。
イケメンの前で、一応、婚約者の前で真っ裸。
なんの罰ゲームだよー。
今まで気にしないようにしてきた羞恥心が一気に吹き出してくる。

そんな事など気にもとめずレオンハルト様は、自分の上着を脱いで私を包むと抱き上げてくれる。普通の子供抱っこね。私は幼児だもんね。よかった、ライアン様のようなエスコートをされなくて。

「ごめんなさい」
「ん?」
「レオンハルト様はお好きな人とか、婚約者とかいらっしゃらないのですか」
「…。」
「そういう方がいらっしゃるのなら…」

私、レオンハルト様に好きな人がいるのかどうかが気になって仕方が無かったらしい。この世界での生活に慣れてから聞こうと思っていたのに、ポロリと言葉がこぼれ落ちた。
レオンハルト様の顔を覗き込むと、先程までの無表情は消えていて、困ったように眉尻を下げていた。

「……何かの拍子に耳に入ることもあるだろうし、噂で聞くよりは私が言った方が良いだろうから、正直に話します」

ああ、これは、いきなり失恋の流れだなぁ。まあ、レオンハルト様にとっては、幼児の私など感心なさ過ぎて、私が淡い恋心を抱いているなど思っても見ないだろうけど。もし、本当の年相応の姿だったら、そういう対象として見てもらえたんだろうか?

「子どもの頃、好きだった子が居たんだ」
「いた?」
「もう、この世界には居ない」
「ごめんなさい。悲しいことを思い出させちゃって」

あー。死んだ人を忘れられないのなら、どんなに頑張ってみても、振り返ってもらえなさそう。死んだ人は記憶とともに美化されていくものだものね。
しかも、子供の頃から、その子一筋って、適うわけがない。

「だから、私のことは心配する必要はいりません。ライアン様と聖女様の結婚式は一年後になると思いますが、私たちの結婚は、あなたが成人してからになりますので、もしそれまでにお好きな人が出来たら、いつでも腕輪を外していただいて構いません」
「……それは、レオンハルト様も同じですよ」
「そうですね。好きな人が出来たら、そうすると約束しましょう」

レオンハルト様は、誠実な方だ。こんな幼児の私にも大人と同じように接してくれる。私が子供だからと、ごまかすことだって出来たはずなのに。
一方的に召喚されたことは許せないけれど、これからの事を考えると、レオンハルト様と出会えたことは、私にとっては、とても幸運な事だった。
これから、この世界のこと、レオンハルト様の事を、知っていけば良いことだ。そして、この淡い恋心とも向き合わないと。
もしかすると、騎士様という存在に憧れているのかもしれないし、夢の中のお兄様に似ているから好きなのかもしれない。自分でもよくわからないけれど、どんな理由だったとしても、好きという気持ちは大切にしたいと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

魔力なしと虐げられた令嬢は孤高の騎士団総長に甘やかされる

橋本彩里(Ayari)
恋愛
五歳で魔力なしと判定され魔力があって当たり前の貴族社会では恥ずかしいことだと蔑まれ、使用人のように扱われ物置部屋で生活をしていた伯爵家長女ミザリア。 十六歳になり、魔力なしの役立たずは出て行けと屋敷から追い出された。 途中騎士に助けられ、成り行きで王都騎士団寮、しかも総長のいる黒狼寮での家政婦として雇われることになった。 それぞれ訳ありの二人、総長とミザリアは周囲の助けもあってじわじわ距離が近づいていく。 命を狙われたり互いの事情やそれにまつわる事件が重なり、気づけば総長に過保護なほど甘やかされ溺愛され……。 孤高で寡黙な総長のまっすぐな甘やかしに溺れないようにとミザリアは今日も家政婦業に励みます! ※R15については暴力や血の出る表現が少々含まれますので保険としてつけています。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
恋愛
 前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

侯爵令嬢は追放され、他国の王子様に溺愛されるようです

あめり
恋愛
 アーロン王国の侯爵令嬢に属しているジェーンは10歳の時に、隣国の王子であるミカエル・フォーマットに恋をした。知性に溢れる彼女は、当時から内政面での書類整理などを担っており、客人として呼ばれたミカエルとも親しい関係にあった。  それから7年の月日が流れ、相変わらず内政面を任せられている彼女は、我慢の限界に来ていた。 「民への重税……王族達いい加減な政治にはついて行けないわ」  彼女は現在の地位を捨てることを決意した。色々な計略を経て、王族との婚約を破断にさせ、国家追放の罪を被った。それも全て、彼女の計算の上だ。  ジェーンは隣国の王子のところへと向かい、寵愛を受けることになる。

幼馴染に冗談で冤罪を掛けられた。今更嘘だと言ってももう遅い。

ああああ
恋愛
幼馴染に冗談で冤罪を掛けられた。今更嘘だと言ってももう遅い。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

処理中です...