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聖女じゃなくて嫁召喚?(プロトタイプ)

女神のギフト−4−

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......

う、、、重い。苦しい。
モゾモゾと動いてみるものの、鍛えられた筋肉には適わなかった。
いつの間に、ご主人様の腕の中に?
どうにか隙間を作ったと思ったら、更にガッチリと抱き込まれてしまった。なんてことだ。

早く目を覚ましてくれないかな?と思っていたら、ご主人様は、あろう事か私の体を撫でだすではないか。

大きくて、暖かな手が気持ちいい。それにイケメンの香り。

「はぁ」
おもわず声が漏れる。

「気持ちいいのか?」
イケボが耳で炸裂する。そしてイケメンの吐息が耳をくすぐる。ゾクゾクと何かが全身を駆け巡る。

「あ...」


目を覚ますとご主人様はとうに起きていて隣にいなかった。
な、なんて言う夢を。
良かった。
隣にご主人様がいなくて。今は顔を見れないよ。き、きっとご主人様の筋肉を意識して寝たから、こんな夢を見たんだよ。


着替えをし終わって、化粧の事に気づく。
こっちの世界でも化粧品あるのかな?
ご主人様、そういうの分かるかな?
化粧をしないって、スースーする。顔も心も。


元々、薄化粧だから、すっぴんで居ても違和感はないはずだけど、薄くつけたファンデでも自分にとっては鎧のようなものだったのかと気づく。
どうせなら、カバンもこっちに持ってこれれば良かったのにな。

あー、お腹空いた。
昨日の夜から何も食べていないや。

そういえば、自己紹介していなかったっけ。
魔法がある世界だから、本名を名乗るのは危険なのかな?
女神様に婚活依頼するようなご主人様が名前で人を縛るとは思えないけど、ご主人様以外の人は分からないもんね。愛称の「アン」で通そう。

お腹すいたよー、ヨー、yoー
ベッドに腰掛けながら、頭の中は、どんどんと空腹に占領されていく。


コンコンとドアをノックしてご主人様がそっと中を覗いてきた。
私が起きているのを見て満面の笑みを浮かべる。
ぎゃー、朝っぱらからキラキラビームだよ。
しかも、その服、騎士服?似合いすぎてる。
ヤバい、私の薄っぺらなバリアーは、とうとう破壊されました。
敗北です。


ご主人様が、こちらをじっと見ているのに気づいて、慌ててベッドから立ち上がり挨拶をする。
この世界って、召使いはどういう風に挨拶したら良いのかな?
まずは、朝のあいつからだよね。姿勢とかはオイオイ教えてもらうことにして、とりあえず
「おはようございます。ご主人様」
と挨拶をしたら、ご主人様のキラキラビームが消えてしまった。なんで?


「レオンハルト・シュバリだ。レオと」


いきなり愛称ってハードルが高すぎなんだけど、さあ、呼べ、さぁさぁって期待に満ちた目を向けてくる。

「おはようございます。レオ様」

レオ様が思わず右手を口に当てた。
昨日もそんな仕草をした事あったな。
それってにやけてたのか。
へ~ 、心のメモ用紙に書いておこう。


レオ様が咳払いをして誤魔化した後、私の側まで近寄ってきた。
ち、近い、もうちょい離れてください。と、目で訴えてみたら、レオ様も何か言いたげに見ている。
ああ、そうだった。


「アン・タカナシです」
「アン、おはよう」


そう言いながら、レオ様の顔が近づいてきた。朝からすっごい色気なんだけど。
ど、どうしたらいいの?オドオドしていると、レオ様がフッと笑って、私の頬にチュッとした。

ぎゃー、朝っぱらからなんてことするんだ!!
あ、あれか?こっちの世界では、これが普通なのか?と、オロオロ、ドキドキ、ワタワタしていると

「ん?好きな子にしかしない」
と、サラリと言ってくる。

更に
「本当は口にしたかったけど、口はアンの許可がいるから」と、追い打ちをかけてきた。


言われている内容が恥ずかしすぎて、もう、死んだ。


「ホント、アンは可愛いな。でも、こんなことで死ななくていい」
「あ、心の声が漏れてましたか?」
「何となく?」


な、なんだそれ?
こっちの世界では、相手の心も読めるのか?


「相手の心の声なんか聞こえない」
「妖怪サトリですか!!」
「ヨウカイサトリがなんなのかは分からないが、悪い意味なのは分かった」


苦笑しながら、やっとレオ様が離れてくれた。
その瞬間、グゥーと盛大にお腹が鳴る。
ムギゃー恥ずかしい。


「呼びに来るのが遅くなってすまない。朝食の誘いに来たんだ」


朝食と聞いた途端、更に盛大に鳴るお腹。
空気読めよ、私のお腹、今、なる所じゃないでしょ!と抗議したら、更に抗議された。
腹の虫に完敗だ。


ほら、レオ様は、必死に笑いを堪えてるじゃないか。


「レオ様、ここは笑ってくれた方が楽です」と、お願いしてみたら、プッと吹き出してた。
それでも、声を殺してくれているのは、きっとレオ様の優しさなんだと思う。
思いたい。


「腹が減っているところ申し訳ないんだが」

レオ様が笑いながら言ってくれるけど、そこはスルーしましょうよ。
泣きたい。


「貴方のサイズに合いそうなのを探すのに手間取った。これに着替えてくれるか?」


素直に受け取ると、レオ様が外に出て行ってくれる。
さすが紳士だ。違った騎士だ。

渡された服は少年用?のような騎士服もどき。良かったヨ。
レオ様と同じような騎士服だったら似合わなすぎで恥ずかしい。
ホント、カッコイイよね。
騎士服ってさ、その人の良さを2割り増しにするよネ。しかもレオ様は元々イケメンだし。

きっと、女性が足を出す文化がなさそうだし、探してくれたんだろう。

凄いなレオ様。これ、サイズがピッタリだよ。どれくらいある中から選んできてくれたんだろう。

見ただけで女性のサイズが分かるって、実はチャラ男?んーイメージ違う。そもそもチャラくないし。

でも、婚活依頼を女神様にするって、よっぽど問題がある性格なのかな?そうは見えなかったけどな。よく分からない人だ。

着替えが終わったのを見計らうようにレオ様が入ってきて、また、右手を口に当ててる。
なんでだろ?男物の服を着ただけなのに、ニヤける要素はないはずだけど。


ググゥーーー
「限界って抗議してるな」


笑いながら、レオ様が食堂まで連れて行ってくれた。

食堂に着くまで、砦の事を教えて貰った。
シュバリ家は代々ベムの荒野を領地とする辺境伯なんだって。
地位もあるのに嫁のなり手がないのは迷宮が原因なんだって。
私がしつこく、女神のギフトの事をきいたから、シブシブ教えてくれた。

なんでも、迷宮から、魔獣が湧き出て来るらしく、シュバリ家は、迷宮攻略と、魔獣から周辺を護る事が主な仕事なんだって。
危険な仕事をしているんだね。

しかも10年前に魔獣が迷宮からわきでしてきて、物凄い被害があったそう。
その時、レオ様の御両親は亡くなったんだって。

今、砦に居るのは、騎士が30人らしい。
迷宮攻略をしている冒険者とかは近くの街を拠点に活動しているとか。

んー。
話を聞く限り、別段、レオ様が嫌われるような事はなさそうなんだけど。
よく分からないけど、これ以上詮索するのはダメだよね。



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