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艶やかな黒髪
涼やかな瞳
ふっくらとした赤い口
いい女だよな
是非とも知り合いに
そんな邪な思いを抱えているのは俺だけではない。
いつも、決まった時間にやってきて、本を読みながら紅茶を飲む彼女に声をかけたいと思っているのは、周りを見れば何人もいる。
しかし、彼女に近づくと、拒まれたように近づくことが出来ないのだ。だから、いつものこの時間、遠くから見ているだけだ。
ピクリと彼女の肩が揺れる。パタリを本を閉じ向かいのビルを見やるので、彼女の目線の先を見たが、特に変わったことも無い。
いったい、彼女は何に気をとめたのかと、彼女を見て驚く。見間違いかとガン見した。
今まで見たことがない笑みが浮かんでいた。赤い口が弧を描き妖艶に微笑んでいた。
笑みを消さないまま、手早く荷物をまとめると彼女が店を出る。
カッカッカッとヒールを鳴らし彼女が向かう先はビルだ。彼女の熱に当てられたように思わず後を追う。
彼女が見ているのは一点。ビルの壁だ。そこへスピードも落とさず突っ込んでいくので、慌てて彼女の腕を引いたが、彼女の勢いに負け、そのまま壁に激突!!
、、、しなかった。
思わず瞑った目を開けると、そこには、ビルはなく真っ青な空と真っ白な雲。遠くにそびえる屏風のような絶壁。
ザァーーーーと風が通り過ぎていく。むせかえるような草の匂い。
振り返ると、見慣れたビルと車、そして騒音。まず、聞き慣れた音が消え、そしてビルや車、通り過ぎていく人が霞のように掻き消え、見渡す限りの草原と化した。
「チッ」
舌打ちしたのは間違いなく彼女だ。鋭い眼差しで掴まれている腕を見る。
慌てて手を離し「あ、えっと、ここは」混乱した思考の中から、かろうじて声が出た。
「説明は後でする。何が起きても声は出すな。ここから動くな」
そう言うと彼女が印を切る。すると足元から魔法陣が現れ自分を包む。
「声を出したり、そこから出たら命の保証はない。そこにいれば安全だ」
そう言いながら、彼女が気にしているのは空だ。空を伺っている。自分も空を見上げるが、真っ青な空が広がっているだけだ。
ギ、、、ギグギャ!!
突然、聞いたことも無い鳴き声とともに、黒い塊が天から落ちてくる。いや、彼女を狙って急降下してきた。
ヒッ!!かろうじて、声を押し殺した。見たことも無い巨大なモンスターが、彼女を踏み潰すべく落ちてきた。
彼女はそれを長剣で薙ぎ払う。反撃されると思ってもいなかったのかモンスターの足からおびただしい血が吹き出る。
まるでゲームを見ているようだった。いや、夢を見ているのかもしれない。現実ではありえない光景が繰り広げられていた。
現実味がなく、怖いとも感じず、ただ、華麗に舞うようにモンスターを攻撃していく様子を見守っていた。
圧巻だった。
ドドドンと地響きを立ててモンスターが地に落ちた。
モンスターの体がキラキラと輝き出したかと思うと姿は消え、黒い石が残されていた。
マジ、ゲームかよ!
あまりにも現実味がなく、ただ、呆然と見ているしかない。
彼女は石を拾いカバンにしまうと、ようやくこちらを見ると、魔法陣が消えさる。
「ふーん。意外とキモが座ってるんだな」
「えっと、ここは」
「異世界だ」
「は?」
いや、異世界って、確かにそうだろうけど、普通は異世界じゃなくて、なんか、もっとこう大層な大陸の名前とかあるんじゃないの?
「突っ込むとこはそこか?」
「え?」
え??
何?
心読んでるの?
え?
もしかして、邪なこと考えてたこと、知られてる?
その、邪なことをイメージした途端、剣先を喉に突き立てられる。
「す、すんません」
「ほんと、変なやつ」
剣を消すと、カバンの中から白い石を出してきて渡してくる。
「飲め」
「いや、これって魔物の石ですよね?」
「ダダ漏れの考えを知られたくなかったら飲め」
「はあ」
飴よりも大きなものを飲み込むって、どうするよ?と思いつつ、素直に石を受け取り、口に含むと、トロリと溶けて、簡単に飲み込めた。
「ほんとに飲んだ!」
「え?飲んじゃダメだっんですか?」
「いや、飲んでもらわないと、うるさくてかなわないから.........普通、躊躇うだろ?」
「ああ、なんか知らんけど、そうすべきって感じたし、嘘を言っている気もしなかったし」
「ふーん。もしかして鑑定持ちか?」
「スキルあるんですか?ここ、ゲーム世界ですか?」
「現実の異世界」
「現実ってことは、モンスターと戦って殺されることも」
「ある」
「帰る方法は」
「ない」
「はーそうですか。そうですよね」
「ホント変なやつ。普通納得するか?」
「現実味がないというか?そんなとこ?」
「とりあえず1人でやって行けるようになるまで面倒見るけど」
「助かります!」
異世界だとか、そんなの作り話の世界だと思ってた。
実は、全然、実感がわかなかった。
まるで夢を見ている、そんな感じだったから、ゲーム感覚で彼女の世話になった。
楽しかった。
ギルドで彼女とパーティの申請をした。
話も合う。
このまま、この夢の世界で生きていくのも良いかもしれないと思うくらいに、異世界の生活を楽しんだ。
半年くらいたったある日
「もう、1人で平気だな」
彼女に言われて唖然とする。
「なぜ」
「1人でやって行けるようになるまでと最初に言ったはずだけど」
「いや、そうだけど。今まで上手くやってけたし。このまま」
「悪いな。私にはやることがある。」
何かやらかしたのか?
混乱しているうちに彼女は目の前からこつ然と消えた。
「置いてかないでくれ!」
その声で目が覚めた。
そこは自分の部屋だった。
あまりにもリアルな夢だった。
どうかしている。
いつものように仕事に出かけ
いつものように食べて寝て
変わらない生活をしているのに、現実味がない。
今も夢の異世界に旅立ちたいと思っている。
涼やかな瞳
ふっくらとした赤い口
いい女だよな
是非とも知り合いに
そんな邪な思いを抱えているのは俺だけではない。
いつも、決まった時間にやってきて、本を読みながら紅茶を飲む彼女に声をかけたいと思っているのは、周りを見れば何人もいる。
しかし、彼女に近づくと、拒まれたように近づくことが出来ないのだ。だから、いつものこの時間、遠くから見ているだけだ。
ピクリと彼女の肩が揺れる。パタリを本を閉じ向かいのビルを見やるので、彼女の目線の先を見たが、特に変わったことも無い。
いったい、彼女は何に気をとめたのかと、彼女を見て驚く。見間違いかとガン見した。
今まで見たことがない笑みが浮かんでいた。赤い口が弧を描き妖艶に微笑んでいた。
笑みを消さないまま、手早く荷物をまとめると彼女が店を出る。
カッカッカッとヒールを鳴らし彼女が向かう先はビルだ。彼女の熱に当てられたように思わず後を追う。
彼女が見ているのは一点。ビルの壁だ。そこへスピードも落とさず突っ込んでいくので、慌てて彼女の腕を引いたが、彼女の勢いに負け、そのまま壁に激突!!
、、、しなかった。
思わず瞑った目を開けると、そこには、ビルはなく真っ青な空と真っ白な雲。遠くにそびえる屏風のような絶壁。
ザァーーーーと風が通り過ぎていく。むせかえるような草の匂い。
振り返ると、見慣れたビルと車、そして騒音。まず、聞き慣れた音が消え、そしてビルや車、通り過ぎていく人が霞のように掻き消え、見渡す限りの草原と化した。
「チッ」
舌打ちしたのは間違いなく彼女だ。鋭い眼差しで掴まれている腕を見る。
慌てて手を離し「あ、えっと、ここは」混乱した思考の中から、かろうじて声が出た。
「説明は後でする。何が起きても声は出すな。ここから動くな」
そう言うと彼女が印を切る。すると足元から魔法陣が現れ自分を包む。
「声を出したり、そこから出たら命の保証はない。そこにいれば安全だ」
そう言いながら、彼女が気にしているのは空だ。空を伺っている。自分も空を見上げるが、真っ青な空が広がっているだけだ。
ギ、、、ギグギャ!!
突然、聞いたことも無い鳴き声とともに、黒い塊が天から落ちてくる。いや、彼女を狙って急降下してきた。
ヒッ!!かろうじて、声を押し殺した。見たことも無い巨大なモンスターが、彼女を踏み潰すべく落ちてきた。
彼女はそれを長剣で薙ぎ払う。反撃されると思ってもいなかったのかモンスターの足からおびただしい血が吹き出る。
まるでゲームを見ているようだった。いや、夢を見ているのかもしれない。現実ではありえない光景が繰り広げられていた。
現実味がなく、怖いとも感じず、ただ、華麗に舞うようにモンスターを攻撃していく様子を見守っていた。
圧巻だった。
ドドドンと地響きを立ててモンスターが地に落ちた。
モンスターの体がキラキラと輝き出したかと思うと姿は消え、黒い石が残されていた。
マジ、ゲームかよ!
あまりにも現実味がなく、ただ、呆然と見ているしかない。
彼女は石を拾いカバンにしまうと、ようやくこちらを見ると、魔法陣が消えさる。
「ふーん。意外とキモが座ってるんだな」
「えっと、ここは」
「異世界だ」
「は?」
いや、異世界って、確かにそうだろうけど、普通は異世界じゃなくて、なんか、もっとこう大層な大陸の名前とかあるんじゃないの?
「突っ込むとこはそこか?」
「え?」
え??
何?
心読んでるの?
え?
もしかして、邪なこと考えてたこと、知られてる?
その、邪なことをイメージした途端、剣先を喉に突き立てられる。
「す、すんません」
「ほんと、変なやつ」
剣を消すと、カバンの中から白い石を出してきて渡してくる。
「飲め」
「いや、これって魔物の石ですよね?」
「ダダ漏れの考えを知られたくなかったら飲め」
「はあ」
飴よりも大きなものを飲み込むって、どうするよ?と思いつつ、素直に石を受け取り、口に含むと、トロリと溶けて、簡単に飲み込めた。
「ほんとに飲んだ!」
「え?飲んじゃダメだっんですか?」
「いや、飲んでもらわないと、うるさくてかなわないから.........普通、躊躇うだろ?」
「ああ、なんか知らんけど、そうすべきって感じたし、嘘を言っている気もしなかったし」
「ふーん。もしかして鑑定持ちか?」
「スキルあるんですか?ここ、ゲーム世界ですか?」
「現実の異世界」
「現実ってことは、モンスターと戦って殺されることも」
「ある」
「帰る方法は」
「ない」
「はーそうですか。そうですよね」
「ホント変なやつ。普通納得するか?」
「現実味がないというか?そんなとこ?」
「とりあえず1人でやって行けるようになるまで面倒見るけど」
「助かります!」
異世界だとか、そんなの作り話の世界だと思ってた。
実は、全然、実感がわかなかった。
まるで夢を見ている、そんな感じだったから、ゲーム感覚で彼女の世話になった。
楽しかった。
ギルドで彼女とパーティの申請をした。
話も合う。
このまま、この夢の世界で生きていくのも良いかもしれないと思うくらいに、異世界の生活を楽しんだ。
半年くらいたったある日
「もう、1人で平気だな」
彼女に言われて唖然とする。
「なぜ」
「1人でやって行けるようになるまでと最初に言ったはずだけど」
「いや、そうだけど。今まで上手くやってけたし。このまま」
「悪いな。私にはやることがある。」
何かやらかしたのか?
混乱しているうちに彼女は目の前からこつ然と消えた。
「置いてかないでくれ!」
その声で目が覚めた。
そこは自分の部屋だった。
あまりにもリアルな夢だった。
どうかしている。
いつものように仕事に出かけ
いつものように食べて寝て
変わらない生活をしているのに、現実味がない。
今も夢の異世界に旅立ちたいと思っている。
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