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僕のクラスのさえずりくん
第5話/僕が知らないさえずりくん
しおりを挟む僕は詩雨ちゃんと肩を並べながら、勉強会を始めた。
「ねー、しょーくん」
「なぁに、何処か質問?」
「しょーくん、好きな人いるの?」
詩雨ちゃんは、行き詰まったり飽きたりすると、私語が多くなる。
「それ関係無い話だから、ナイショです」
詩雨ちゃんの問題が解き終わるまで、僕は帰れない。
詩雨ちゃんは頬を膨らませながら、ノートに落書きを始めてしまった。
僕は少し溜息を吐く
(答えないと問題を解かない気だな…)
そう思った僕はポツリと呟く。
「気になってる人ならいるよ」
詩雨ちゃんは、勢い良く僕の方を見る。
「だれ?!どんな人?!!」
想像以上の食い付きに僕は目を見開く。
「じゃあ、この問題を解いたら教えてあげる」
柔らかく微笑むと、詩雨ちゃんは先程まで落書きしていたノートに向かってペンを走らせたのだった。
(このやり方、使えるな)
僕は気になる人が脳裏に浮かんでは消えていった。
*****
「はぁ…」
早歩きをしながら腕時計を見遣る。
時刻は20時30分。
勉強会の後、僕は詩雨ちゃんの猛烈なお誘いで、夕食を御馳走になった。
ごねる詩雨ちゃんを宥めて、やっとあの家を出る。
(コッチの道を行けば確か近道だったな)
普段は余り使わない道を、僕は通った。
所謂、ホテル街というヤツらしく、昼間の錆びた風景が嘘の様に、鮮やかな色を放っていた。
(うわ…早く通り抜けよう)
学生服の僕は、この世界では異端の様な目で見られる。
周りの目を気にしない様にしながら、僕は駅へと向かう。
その時、ホテルから1人の見知る人物が出て来た様な気がして、僕の歩みは立ち止まる。
(アレって)
僕は思わず電柱の後ろに隠れる
普段と髪型が違うし、黒縁眼鏡もしていないけど、アレはー
(水稀くん?)
さえずりくんらしき人は、髪をサイドに上げ、ファー付きのジャケットを着こなしていた。
普段は前髪と黒縁眼鏡で隠している顔も曝け出して、如何にも悪い子みたいな装いをしている。
声を掛けようとした時、さえずりくんの後ろから1人の男性がやってきた。
その男性は、多分20代くらいで少し派手な格好をしている。
その男性とさえずりくんは、何やら話しをしていたが、僕の所からだと会話の内容が聞こえなかった。
派手めな男性は、さえずりくんの服のポケットにお金をねじ込んでおり、さえずりくんは少し嫌そうに振る舞っている様にも見えた。
男性はそんなさえずりくんに笑いながら
ー笑いながらキスをした。
あの日、さえずりくんにされたキスの感触が蘇る。
あの唇が、今は違う人と重なっている。
そう思うと僕の感情は乱れ、どす黒いナニカが芽生えた。
さえずりくんは「やめろ」と言う声と共に男性を軽く突き飛ばす。
そして自分の腕で唇を乱雑に拭った。
その時、僕とさえずりくんは目が合ってしまった。
僕はいつの間にか電柱の後ろから出ていたのだ。
さえずりくんの目が見る見る見開いていく。
「な、にしてるの?」
自分でも驚く程の低い声だった。
さえずりくんは、俯き加減で僕から目を逸らした。
〝僕を好きだ〟と言ったさえずりくんが、僕の目から逃れようとした。
僕はさえずりくんに近寄ると、右腕を掴む
「ーっ!」
「行くよ」
ギリっと強く掴み直すと僕は、さえずりくんを力任せに引っ張る。
男性の横を通り過ぎる際、僕はごく自然に睨み付けていた事だろう。
男性は「怖ぇヤツ」と苦笑いと共に空へ言葉を放っていた。
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