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第一章

1-6「提案の動かすものは」

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「ゴブリン、俺達がなんとかします」

 俺はオミドさんとリセさんにそう伝える。

 オミドさんたちに助けられた。それにこのまま見過ごしたら、きっと俺は後悔し続けるだろう。

「アオイ、俺は村の人を放っておくことはできない」

「ええ、アタシも同じ考えです」

 アオイは俺の言葉にうなずきそう言ってくれる。

「ですが、二人でゴブリンの巣に行くなんて無謀すぎます」

 リセさんがそう反対をする。だが、その言葉を遮ったのは意外な人物だった。

「……僕も行く」

 今まで黙って聞いていたシグが手を挙げて言葉を遮ったのだ。

 オミドさんがその発言にたまらず声を荒げて反応してしまう。

「シグ、なにお前馬鹿なことをっ!」

 シグは言葉を淡々と述べる。

「……僕なら、遠距離からナイフを飛ばせる。二人の役に立てるはず」

 あのとき、シグは的確にゴブリンの目へナイフを投げ刺していた。その腕は本物だろう。

「たしかに、ナイフの扱いに関しては俺も認める……。だけど、お前をそんな危ない場所に行かせるわけにはいかないだろ」

「……これは僕の恩返し。命を救ってくれた二人への」

 シグの瞳は決意が宿っている。きっとこの決断は誰に言われても覆らないと思わせるほどに強い瞳だ。

「でも、三人だけというのは危なすぎるっ!」

 その瞳を見てもなおオミドさんが再び声を荒げる。

「なら、もう一人居ればいいんですか?」

「ああ、いいとも」

 オミドさんの目は俺を睨みつけていた。

「だがこの村にまともに戦えるやつなんていないぞ」

 沈黙が訪れる。リセさんもアオイもこの場にいる誰もが口を閉ざす。

 オミドさんの言う通りだ。この村に俺たち以外に戦えるやつなんていない。

 ただ一人。

 その一人を除いては。

「いえ、もう一人いますよ」

 俺はオミドさんの言葉に対し、動じずと答える。あいつに疑念を抱いていないといえば嘘になるが、この村を救えるのなら手段を選んではいられない。

「だが、この村に戦える奴なんて……」

 オミドさんは先ほどとは一転、声を震わせ口にする。それは怒っているわけでも悲しんでいるわけでもない。ただ信じられない、そういった感情なのだろう。

「ということだ、道化師。お前を俺は仲間にする」

 俺は上を向きながら、この空間にいるはずもない存在に声をかける。

「おー! カズナリ本当ですか! やっぱりカズナリは約束を守ってくれましたね」

 すると道化師はどこからともなく煙とともにアオイの隣の椅子に現れる。

 どうせどこかで俺達のことを聞いていたに違いない。こいつのことがなんとなくわかってきてしまっているようでなんだか嫌だな。

「おっ、カズナリ。いま失礼なことを考えていましたね」

「そんなことはないぞ」

 そんな普通にやり取りをする俺達二人を見てオミドさんとリセさん、それにシグやアオイまで驚いた表情をしている。

「だが、旅をする以前にゴブリンの巣を叩くんだぞ。それでもいいのか?」

「ええ、私は構いません。戦闘、政治、パーティーの司会、仲間になるのならなんでもやってごらんになりましょう!」

 道化師の表情はいつものニコニコした顔のままだ。

 道化師はオミドさんとリセさんに帽子を胸に抱え頭を下げる。

「そして、たとえどんなことがあろうと、お二人の大事なお子さんをお守りすることを約束いたしましょう。ご両親方」

 沈黙が部屋を支配する。その沈黙を破ったのはリセさんだった。

「あなた、この人たちを信じましょう。シグがこうなってしまったら、私たちの言葉を聞かないのは最初から分かっているじゃありませんか」

「……うむ」

 オミドさんは苦虫を潰したような顔で答える。内心は子供を危ない目に合わせたくはないのだろう。

「シグは絶対に守ります」

 オミドさんの瞳に俺は訴えかけるように言う。

「……わかった、お前たちを信じる。しかし、危なくなったら絶対に無茶をするなよ」

 オミドさんは俺達にそういうと椅子に腰を下ろす。

「失礼するぞ……」

 すると扉の方から掠れえた男性の声が聞こえる。

「村長……」

 オミドさんは再び立ち上がりそう声を上げた、

 ひげを長く伸ばしたおじいさんが俺達のもとに歩いてくる。腰が少し曲がっているせいで少し身長が小さく感じる。シグと同じぐらいだろうか。

「ゴブリンを退治したという冒険者はお前たちか」

 村長と呼ばれた老人は、俺達三人を見る。

「宿にいた誰かが村長に知らせたのだろう。小さな村だ、こういったことはすぐに伝わる」

 オミドさんがそう口にする。

「ああ、そうだ」

 俺は村長の放つ威圧感を前に返事をするだけにとどめてしまった。

 村長がオミドさんの隣、俺達の前の席に座る。

「俺達がゴブリンの巣を破壊する」

 俺は威圧感に圧倒されながらも今決まった話を口にした。

 村長が三人を品定めするように見つめる。

「ゴブリンを退治したからと言ってもなにも報酬は出せないぞ……それでも行くというのか」

 村長はそう淡々と言う。

「構わない。俺達は報酬目当てでゴブリンを退治するんじゃない。この村の人たちが困っているのを見過ごせないだけだ」

 俺は思ったことをそのまま口にする。理由は報酬なんかではない。言ってしまえば俺の自己満足だ。だけど、それで村を救えるのなら……。

「……そうか」

 村長がそう口にして沈黙が続く。

「……」

「……そうか、そうか! そんなことを言ってくれる冒険者がいるとは! ありがたい、村一同できることはなんでもしよう!」

 あれ……? さっきと全然雰囲気違いませんか?

「……村長、毎回外部の人と初めて会うときは、その雰囲気で接しないと駄目なんですか」

「あたりまえじゃろ、初対面から馴れ馴れしく話を進めれば、相手になめられるに決まってるじゃないか」

 なるほど、村長として威厳のある雰囲気を出すためにやっていたのか。さっきまでの緊張を返してほしい……。

 村長は咳ばらいをしてから話を元に戻す。

「さて、話を戻そう。ゴブリンが住み着いたのは、一年ほど前じゃ。最初そこはゴブリンの好き放題にされておったが、今は住処である洞窟の入り口に罠を仕掛け、ゴブリンが出てくると同時に鐘が鳴るようになっておる」

 村長はゴブリンに関して説明をしてくれる。その鐘というのが俺達が聞いた鐘の音なわけか。

「そのおかげで、住民の命は少なからず守られた。じゃが、ゴブリンの恐怖に悩まされながら毎日を暮らしておる」

 説明をしてくれる村長の顔はさっきとは違い、暗いものになっている。

「本来であれば、ギルドへクエストとして発注するべきなんじゃが、この村は貧しい。巣の壊滅という大型クエストを発注するための手数料に報酬を支払う金がない」

「んー、巣の壊滅となるとモンスターボックスを破壊しないといけないですからね。そこら辺の冒険者捕まえて、いってこーい! なんてやるわけにいかないですし」

 話を聞いていた道化師が手を顎に当て考えるように言う。

「アオイ、モンスターボックスってなんだ?」

 俺は聞きなれない言葉が出てきたのでアオイに説明を求める。

「モンスターボックスというのは、モンスターが自分たちの巣の証に置いておく箱のことです。その箱さえ壊せばモンスターの巣が壊れたも同然で、そこにはもうモンスターは住み着かなくなります」

「だけど、そのモンスターボックスが洞窟とかの一番奥にあるからねー、どんな小物モンスターの巣だろうとある程度の実力がないと攻略は難しいわけよ。そのため大型クエストとしてギルドでは扱われることがほとんどなんだよー」

 道化師は手を広げながら補足をしてくれる。重い内容なのに道化師が話すと軽く聞こえてしまうのはこいつの話し方故だろう。

 その話を聞く限りだと、戦闘経験のほとんどない俺にとっては過酷なクエストになりそうだ。

 村長が心配そうな目でこちらを見ている。

「申し出はありがたいが、内容が内容だ。今からでも断ってもらっても構わない。君たちはまだ若い、こんなところで命を落とす危険に晒す必要はない」

 怖くないといえば嘘になる。だけど、このままこの村を立ち去れば後悔することはわかりきっている。俺達を救ってくれた村ならなおのことだ。

「いえ、これは俺達が決めたことです。やらせてください」

「そうか……であれば、巣の場所を記した地図を持ってこよう」

 そう言って、村長は腰を上げようとした。だが、それを制したのは意外にも道化師だった。

「その心配はいりません。すべて私にお任せください」

「なんじゃと……? おまえさん巣の場所がわかっておるのか」

「ええ、道化師ですから。すべて! お任せください」

 道化師は、村長やオミドさん、それにこの場にいた全員の顔を見渡して、そう言いのけたのだった
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