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第二章 アルテア大陸
魔人
しおりを挟む魔人、それは40年前の魔王が世界を脅かした時に魔王が従えていた種族。
その力は強大で、人類は全滅の手前までに追いやられるほど圧倒的だったと言われる。
後に現れた勇者によって魔王が倒されてからはその眷属であった魔族もなぜか忽然と姿を消したのだと文献に残っている。
魔人の姿はギガント種よりも大きく、4枚の翼を持ち、黒い肌をしていたと言われる。
鳥人であった兄と呼ばれた男は、最初の姿はベージュ色の髪と翼をしていたが、あの十字架を使用した後には体が肥大し、4メートルの大きさに、翼は4枚になり、体の色も黒く染まっている。
まるで文献にあった魔人の姿に瓜二つじゃないか…
先ほどの最上級暴風魔法により、自我が確実に崩壊したようで、今は全てを破壊する化け物と化した。
「グゥァアアアアアアアア!!!!」
3階に当たる右側の壁は吹き飛び、瓦礫が下に落ちていく。
どうやら再び雨が降ってきているらしくバラバラと塔の内部に降り注ぐ。
なんとか落ちずに済んだ私は、瓦礫の裏に隠れ様子を伺っていた。
あの十字架はいったいなんなんだ…
シェリアの母親が魔物にされたものとは少しデザインも違うように見えるが、人を人ざらなる者に変える力があるようだ…
あんなものが複数存在していたらまずい…
それこそ魔王がいる時代と同じになってしまうじゃないか。
ここは崩れてしまったが上の階はまだ無事なようだ、だが、このまま激しく戦っていたらこの塔だって崩れてしまう…
上では激しい戦闘音が聞こえる。
カインやアインも頑張ってるんだ、私も頑張らなくては…
ちらりと瓦礫の隙間から魔人を見ると、まだ私を探してるようであたりのものを大鎌で壊しまくっている所だった。
どうやらここにいるのがバレていないのか、知力が低下したことに影響があるのか、勝ち目はあるのかもしれない。
次元収納から槍を取り出し、後ろを向いている魔人に向けて投擲する。
勢いよく投げられた槍はまっすぐ飛んでいくが、危険を察知した魔人は大鎌でその槍を弾いてしまった。
ズガンという音とともに弾かれた槍は地面にそのまま突き刺さった。
場所がわかった魔人は羽ばたき、一直線にこちらに突っ込んでくる。
「くっ!!」
大鎌がさっきまで私がいた場所に突き刺さる。
転がることによって避け、反対側の場所まで急いで移動する。
すぐさま大鎌を引き抜いた魔人はまたも直線的に突っ込んで大鎌を振りかぶる。
「ぐぅっ!!」
避けきれなかったか!!
かろうじで避けはしたものの、足に切り傷を負ってしまった。
「まだだ!!」
チェーンアームを次元収納から取り出し、対角線上に向け放つ、大鎌の攻撃をなんとか搔い潜り、対角線側に飛ぶ。
すぐに追ってきた魔人の一撃を次元収納から盾を取り出し、受け流す。
大鎌はまたしても深く地面に突き刺さり、その隙に痛む足に鞭を打って反対側に走る。
「ギャォオオオオオオオ!!!」
先ほどから幾度も躱されたことに怒りを感じているのだろうか魔人は雄たけびを上げ、憤っている。
反対側にたどり着くと同時に中央に向け、すぐさま転がる。
直後、先ほどまでいた位置に荒い息をした魔人が攻撃を繰り出していて、その余波で地面が抉れていた。
アリアは落ちていた槍を拾い、迫る魔人の渾身の一撃を跳躍することによって再び躱す。
魔人の攻撃により、中央の地面が勢いよく崩壊した。
「!!??」
四隅に亀裂を作ることによって脆くなった地面は一気に崩壊し、瓦礫と共に魔人もバランスを崩し落ちる。
「これなら避けれないだろ!!」
空中で反転し、落ちている魔人の腹部めがけ、槍を投擲する。
「グゥォオオオオオオ!!」
勢いよく投げられた槍は見事に魔人の腹部に突き刺さる。
「これで、止めだぁああああ!!」
次元収納から大きめのハンマーを振りかぶった状態で取り出し、突き刺さった槍に向けて渾身の一撃を振り下ろす。
「ギャァアアアアアア!!!」
魔人の断末魔の叫びと共に、おびただしい黒い血を噴出させて、魔人は砂のように離散した。
瓦礫が次々に落ち、瓦礫に当たらないようにチェーンアームを使い2階へと降りる。
「はぁ… はぁ… 倒した…」
自我を失っていたおかげで怒りのままに行動してくれた。
もし、自我を失ってはおらず、魔法も使えていたとしたら勝機はなかっただろう…
「だいぶ落ちてきてしまったな」
上を見上げると遥か上に先ほどまでいた場所が見える。
塔は思ったよりも頑丈だったおかげで未だに崩壊せずに済んでいるが、所々に大きく破壊され、穴が開き、予断を許さない状況になっている。
「そうだ、カインとアインの加勢にいかなくては」
次元収納からチェーンアームを取り出そうとした時、大きな爆発と共に4階の建物自体が勢いよく崩壊し、崩れてくる。
「なっ!?」
ここにいては瓦礫の下敷きだ!
瓦礫の山を縫うように飛び越え、窓から身を投げ出した。
直後激しい音と共に塔が崩れ去っていく。
「うぉおおおおお!!」
飛び出した直後にチェーンアームで他の建物に飛び、なんとか崩壊には巻き込まれずには済んだが…
カインとアイン、それにガイアスさんは無事なのか!?
砂塵があたりを包み、その様子を探ろうとするが視界が悪く、まともに見えやしない。
雨は勢いを増し、体に当たるたび傷口に染みる。
「っつ…」
まさか、あの崩落に巻き込まれて…
「カイン!!アイン!!いるなら返事をしてくれ!!」
声は雨音にかき消され、崩落した塔はガラガラと音を立てているのみだ。
そんな… 何も救えなかったというのか…
「おいおい、あまり叫ぶなよ、敵が寄ってきたらどうするんだ」
慌てて上を見上げるとアインがガイアスを持ち上げ、カインがゆっくり降りてくる。
足場などないというのにまるでそこに足場があるように。
「い、生きていたのか!」
それになんだか、アインもカインも傷だらけであるが、姿が少し違う。
より、獣の姿に近いというか、それに淡い青色の魔力を全身に漲らせている。
この姿はいったい…
「ああ、苦戦しちまったけどやってやったぜ」
「こうしてガイアスさんもつれて戻ることができましたからね」
ガイアスさんは気絶してはいるものの無事なようだ。
「よくやったな!そしてさっきから気になってたんだが、その姿は一体何なんだ?」
「ええ、古来獣人に伝わる秘儀『幻獣化』です」
地面に二人がたどり着くと、煙が渦巻くように元の姿に戻っていった。
「『幻獣化』!?」
「あまり長時間この姿になることはできないんですけど、この力のおかげで倒すことができましたよ」
「説明は後だろ、今の崩壊の音を聞きつけて多くの兵たちも戻ってくるぞ、どこかに隠れるのが先だろ」
「そ、そうだな、行こう」
大きな音をたてて塔は崩れたのだ、必ずガルディアの兵は戻ってくるはずだ、私は何を浮かれていたんだ…
まだ終わったわけではないというのに…
ひとまず一旦民家に隠れることにした私達は、崩壊した塔を背に雨が降りしきる中走り始めた。
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