魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

side カルマン ~移動~

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 太陽もだいぶ傾き始めた頃には、広場にはこの村に住む多くの人が荷物を持ち集まっていた。


「みんな、さっきも言ったが、これからこの村を捨てて新たな村へ移動する」


 キールが前に立ち詳しい説明を始める。
 騎士団の第7部隊隊長としてここをキールは長い事任されていた、さすがの人脈といった所か…


「まず目指すは、ここから東の港町だ」


 俺達が目指すのはこの大陸から離れる事、この大陸にいることで必ず戦火はこちらに向く、それならば他の大陸に移り、援助してもらったほうがいいとトリシア団長は言っていた。

 なんでも隣の大陸、リーゼア大陸はトリシア団長の古い友人がいるらしく、話も分かる方だそうだ。

 ひとまずそこに避難し、リーゼア大陸首都ゼアルに赴き、交流を図るのが狙いだ。


「そして道中の警護の依頼を受けてくれたのは、ここにいる心強い冒険者達だ」


 そして道中は危険が付き物だ。
 俺ら元騎士団の連中だけじゃさすがにカバーできないこともある。

 そんなとき緊急の依頼として冒険者にこういった護衛の依頼を頼んだりする。


「安心してほしい、彼らはAランクに当たる【ワード】のメンバー達だ」


 紹介されて前に出るのはこの依頼を受けてくれた冒険者グループ【ワード】、顎髭を蓄えた厳つい顔のギガント族の男、華奢な恰好で軽装備の女エルフ、優しそうな見た目のローブを羽織った男ヒューマン、気弱そうな眼鏡をかけた女ヒューマン、真面目な顔つきの若いギガントの男の5人で構成されているそれなりにこの大陸では名の知れてる冒険者グループだ。

 代表がこいつなんだろう、顎髭を蓄えたギガントの男が話し出す。


「今しがた紹介された【ワード】のリーダーを務めるドルドだ。依頼を受けたからにはしっかりと任務は果たすので皆さん安心してください」


 さすがAランクだけあってこういうことには慣れているもんだな。

 周囲からも期待の声が上がる。

 そして【ワード】のメンバーの自己紹介的なものが始まる。

 まぁわかったのは、リーダーは顎髭のギガントのドルド、華奢なエルフの女はシェリー、ローブ羽織った男ヒューマンがスティ、眼鏡女ヒューマンがソフィア、若いギガントの男がトストンって事か。

 あとは、ドルドが斧を、シェリーが弓を、スティが杖を、ソフィアが本を、トストンが剣と盾を使うって事をまぁ長々と説明してたわけだが。

 キールに耳打ちで話しかける。


「おい、あまり時間がねぇんだぞ、わかってんのか?」

「わかってる、まったく冒険者は活躍の場を得られたことで話したくてしょうがないんだろう」

「気持ちはわからなくもねぇが、そういうのは終わってからにしてもらいたいもんだぜ…」


 思わず頭を抱えてしまう。

 かれこれ1時間もやれあの時の冒険はすごかったと余計な話をしていて一向に話が終わらないのだ。

 村の人たちは楽しそうに、また憧れの目で彼らを見ている。


「仕方ない、俺が止めさせてすぐに移動させよう」

「ああ、頼む」


 キールはこれまでの話を面白おかしく話すドルドとトストンの間に割って入る。


「すまないが、時間がないからそろそろ移動したい、その話は目的地に着いたときに聞くよ」

「これからがいいって時に… わーったよ、皆移動するぞ」

「はーい」


 どこか不満げな冒険者達であったが、了承してくれたおかげでようやく皆の移動が開始された。


 俺らは案内役なので一番先頭を務める、【ワード】の冒険者達は一番後ろの後方を護衛してもらう流れだ。

 あらかじめ荷物は台車に多く積んであり、それを運びながらの行軍というわけだ。


「隊長、所定位置に付きました、このまま冒険者達と共に護衛に当たります」

「ああ、周囲には気をつけろよ」

「はい」


 第7部隊のキールの部下が行軍の中央の方へ戻って行く。


「何事もなければいいが…」

「おいおい、そんなこと言ってると本当に嫌なことは起こるぞ」


 キールは深いため息を吐きながら台車を引いていく。

 日はだいぶ傾きかけ、魔物が活発化する夜になっていく。

 本来なら行軍は明るい日中に行うのが望ましい、視野も広くとれ、魔物も比較的弱いものしか出てこない、だが、夜はその姿をがらりと変え、夜目が利かなければ辺りを見渡すのもままならず、魔物も強いものが出てきやすくなる。


 もう少し早く出ていればよかったんだがな…


 台車を引きながらそんなことを考えているとふと後ろのほうで、魔法が炸裂する音や金属のぶつかる音が聞こえる。


 魔物が出始めたか。


 ちらりと後ろを見ると、後方で【ワード】の冒険者達が魔物相手に戦っている姿が見えた。

 言ってもAランク冒険者達だ、ここら辺の夜の魔物相手に苦戦することなどないか。

 しばらくすると魔物を倒したようで、辺りから歓声の声があがる。


「暢気なものだな…」

「仕方ない、みんなわけがわからず行軍してるんだ、一種の気晴らしも必要だろう」


 目指す目的地の東の港町は一日歩けば着けるほどの比較的近い場所にある。

 行軍はいたって順調に進んでいた。

 あれから何度か魔物が出てきたが、冒険者達の活躍により、大事にはいたらなくてすんでいる。


「思ったより戦えてるな冒険者達は」

「ああ、魔物を専門に倒しているだけあって急所や無駄のない連携がちゃんと取れてる」

「噂は伊達じゃないってことか」

「そうなるな、キール、ちゃんと報酬は弾ませとけよ、文句が出ると今後困るからな」

「わかっている、貰っていた資金があるから問題ない」


 冒険者を雇うにも金はかかる、それもAランクともなれば普通の料金ではなくかなりの額になるはずだ。


「さすが郊外任務受けてる奴は給料が違うわけだ」

「それは関係ないだろ」


 キールは呆れた顔でこちらを見やる。


 何度か休憩を挟みつつ、夜が明け、港町まであと少しというところで異変は起きた。


 後方から派手な爆発音が響き、慌てて後方に赴くとかなり焦った顔をしている冒険者達、それと対峙する見知らぬ魔物が一匹… いや一人か? こちらを伺うように佇んでいた。


「初めましてになるわね、なるかしら? 私の名前はヘンリエッタ、絶望を届けに来たわよ」


 にやりと不気味な笑みを浮かべる少女もとい、魔物はこちらをその赤い目で見る。

 金髪の髪、幼い顔立ちで赤い目、竜の翼、蜘蛛の足、絶望を運ぶ化け物が俺達の前に現れた。

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