星の子ども

秋野 木星

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第四章 胃瘻造設・胃の噴門部結索 手術

7/3 受難が続く

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術後、第一日目の夜はリノもネムルーも眠れなかったようです。

リノは痛みでずっと起きていて、ネムルーも看護師さんが何度も来室するので2時間ほど眠ったかなぁという状態だったようです。


ラクーはネムルーが14時にシャワーに行く時の交代要員として、今日、病院へ行きました。
ネムルーはお昼の弁当も買いたいでしょうし、シャワーの予約を入れる作業もあります。そのため、ちょっと早めの10時半頃には着くように行ったのです。

ネムルーは、夜中の騒動をラクーに聞いてもらいたかったらしく、待っていたかのように次々と大変だったエピソードを話してくれました。

夜の10時に痛み止めを入れてもらい、それから4時間後にはまたリノが痛そうな顔をして心拍を200以上に上げたそうです。
夜勤の看護師さんには「薬の間隔はできたら6時間は開けたほうがいいので、もうちょっと様子を看ましょう」と言われたそうです。

やっと6時間が経って痛み止めを持ってきてくれた時には、リノの手足は腫れあがっていて、点滴が漏れているのがわかったそうです。(;´Д`)
もう一人の看護師さんもやってきて、挙句の果てには若いお医者さんも呼ばれて、三人がかりでの点滴針の刺し直しになったらしいです。

夜勤の若いお医者さんというのは、大抵はまだオーベンについて学んでいる最中のお医者さんの卵ですよね。
ネムルーもマンガなんかでそのことはよく承知していましたし、看護師さん二人も「あの注射がうまいH先生が10回以上刺しても入れられなかったらしいよ。先生、大丈夫?」と応援なんだかどうなんだか、わからない言葉をかけて、若い医師を励ましたんだって。(笑)

ところが、その先生は落ち着いていて、なんと一発で入れたんだってさ!

「「「おおおーーーーーっ!!!」」」

母親と看護師二人、三人の女性のその先生への尊敬度は、一気にマックスまで上がったと思われます。

明け方の4時頃から、やっと眠れると二人でウトウトし始めたら、あっという間に朝の看護師さんの交代や様子チェックの時間になったそうな。


その話を聞いて、ラクーはネムルーに、ソファに横になるように言いました。

ばあばがリノの守りをしていた時、11時のチェックに主任さんがやってきました。この看護師さんは、2月の退院の時にもうちに来てくれて、主治医の先生に「何も問題ないから、早く家に帰らせてあげたら?」と意見してくださった人です。
そのためラクーは、最大限に信頼を寄せていました。

静かに入ってきて「おばあちゃん、そのままベッドに腰かけていてもいいですよ~」と小さい声で言ってくれ、胃残や点滴のチェックをして、静かに帰っていきました。

このことを書いたのは、次にやって来た新人看護師とのあまりの違いに驚き呆れたからです。

新人看護師は、デンジャラスでした。
うちの家族でなければ、クレームを入れられていたでしょうね。
仮に名前をデンジャラスのDさんとしましょうか。

ラクーの推測では、このD看護師はこの春から二年目です。
時たま主任さんが付いて、術後のケアが難しい患者の仕事も勉強させようとしているようでした。

しかし本人には、自分がまだ仕事に慣れない新人だという意識がこれっぽっちもありません。

口先だけの声掛けをして、自分の仕事を済ませることに精一杯で、患者の顔は見ていないし、母親が気が付いたことを話しているのに全く聞いていなくて、返事もしません。
たぶん手順を間違えないように、頭の中はいっぱいいっぱいだったんでしょうね。

そのあたりはネムルーもラクーも、諦めていました。こういう新人さんは長い目で育てなければいけないので、黙っていたのです。

けれど不安なら、何度も操作手順を確認しながらゆっくりやればいいし、先輩にチェックしてもらえばいいのです。

しかし何度も言いますが本人には、自分がまだ仕事に慣れない新人だという意識がこれっぽっちもなかったのです。

機械を壊しそうなぐらい雑に扱って、早く仕事をこなすことがカッコイイことかのように勘違いしていました。
ちょっと要注意人物だなとは思っていましたが、一応、国家試験に受かった看護師さんなので、ある程度は信用していました。

ネムルーは不安に思ったのか「術後の最初のミルクの時間に、自分がここにいることができるように、シャワーの時間をちょっと早めにする」と言って出ていきました。

ラクーだけがいる時に、D看護師が「ミルクはここでどのくらい飲んでました? 滴下ですか、それとも持続ポンプですか?」と聞きに来ました。この人は担当する患者のことをちっとも予習していないなとは思いましたが、看護師さんも忙しい仕事なので、ラクーもそんなことぐらいは答えられます。
「病院にきてすぐに絶食になったので、まだここでは飲んでいません。家では持続ポンプを使っています」とそう素直に返事をしたのです。

そこにネムルーがシャワーから帰って来ました。
ラクーはホッとしましたね。

D看護師は「持っている持続ポンプをだしてください。それにミルク缶を渡してください」と言うのです。
入院前の説明では、ミルクは病院から出しますと言われていたので、ネムルーも驚きました。
ミルク缶は持ってきていなかったのです。

「今日はこちらで出しますが、明日から持ってきて下さらないと、食事費がかかります」と偉そうに言われました。
そうネムルーにミルクの説明をした5分後には、「一定量のミルクが入れられるようになるまでは、治療の一環としての注入になるようです。そのためそちらで作るようになるまで、ミルク缶はいりません」とすぐに説明が変わっていきました。

ま、こんな行き違いや覚え間違いは、病院ではよくあることです。
ここまでは、まだそう受けとめていました。


リノにとっては術後の最初のミルク、NICUで逆流性食道炎が疑われる前に胃に入れられたのが最後で、ほぼ半年以上、リノの小さな胃はミルクを消化したことがありません。
胃の噴門部の手術で、さらに胃の大きさは小さくなっていることでしょう。
ラクーもネムルーも、ここを一番心配していました。

そんなメインイベントに、あのD看護師がやってきたのです。
……できたら、主任さんに来てもらいたかった。(~_~;)

最初に、D看護師は胃のチューブの検査をする時に、1mlほど入れればいい空気を5ml以上「ブオッ!」と入れたのです。
すやすや寝ていたリノは、そのショックで目を覚ましました。

びっくりするよね。
お腹もまだ痛いのにね。

たちまち心拍が200以上になりましたが、D看護師は全然そんなところを見ていません。
ラクーとネムルーが「痛いよね。びっくりしたね」「心拍が200超えたよ」と言っても、聞いちゃあいません。
持続ポンプを操るすべを急遽覚えてきたのでしょう。自分の手順を進めることに集中しています。

でもね、こんなに空気が入るの?とびっくりするぐらいミルクチューブの中には空気が入っていました。たぶん雑に、ミルクをザバッと放り込んだんだろうね。

「いつものスピードで入れますね」
「……は……い」

いつものスピードでいいの??
でもお医者さんの指示なのかなぁ……
ラクーとネムルーは不安にかられて、D看護師の手元を見ていました。

そこに主任さんがやってきたのです。
主任さぁん!
ラクーとネムルーの心の中は助けを求める気持ちでいっぱいでした。

主任さんは持続ポンプの滴下設定を見て、すぐに「術後で最初のミルクだから、もっとゆっくり入れようね~」と、時間調整をしてくれました。
ラクーもネムルーもホッとしましたよ。
主任さんの後ろに後光が見えました。
来てくれて良かったぁ~ (´;ω;`)ウゥゥ

「NICUの時から胃にミルクが入ったことがないんですよ」
「消化できるか心配なんです」
私たちの話を主任さんはちゃんと聞いてくれました。
「そっか、お母さん、それはとてもいい情報をくれましたねぇ。じゃあ、もっと遅く一時間ぐらいで入れましょうか」
そう言って、時間をもっと伸ばしてくれました。

地獄に仏とは、こんな時のことを言うんですね、きっと。

しかしリノには、更なる受難が待っていたのです。

※ 長くなったので、それは次の話にします。
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