星の子ども

秋野 木星

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第一章 NICU

生後5日目 動いた?!

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 孫のリノの低体温治療が終わって、二日目になります。
ラクーばあばは、一日中「動いて~!」と祈り続けていました。
きのこさんちのムスメちゃんは、生後6日で動き始めて、意識も戻りミルクを飲み始めています。
うちのリノはどうなのでしょう。
生きていける力が彼女の中にあるのか? 大いなる自然は、リノをどうするつもりなんだろう?
まさかこのまま、動かずに……?

不安と信じたい気持ちの中を、行ったり来たりしていました。

朝、庭のコスモスの手入れをしている時です。いつもの年なら「もうコスモスも終わったな」と引っこ抜いてしまうのですが、それができませんでした。
小さなよれよれの花がたった一輪咲いているのが愛おしくて、命のかけらを摘み取ることができなかったのです。

登ってきた朝日に、祈りました。
リノ、頑張れ! 息をして!


朝、ラクーは実家に行って、これまでの経緯を説明してきました。
ひいばあばのママンもひいじいじのパパンも、孫のネムルーとひい孫のリノのことをあんじて、涙ぐんでいました。
特にママンの憔悴しょうすいは激しく、夜も眠れないようで、一気に歳を取っていました。

家の近所にいる水頭症の子どものことを、ママンはずっと気にしていました。
「本当にああなったら大変だ。家族は可愛がっているけど、しょっちゅう救急車が来るんよ」
その子はママンにとって初孫である、ラクーの長女のノンビリーが産んだハシルンと同い年だったので、ひいばぁとしては、気になって仕方がなかったのでしょう。実家に帰る度に、この水頭症の子のことを話してくれていました。ノンビリーにも「感謝して子育てをせんといけんよ」といつも言っていたのです。

人ごとであった障がい者の生活が、今回、可愛い孫のもとへ現実のものとしてやってきたのです。
その上、気の毒がっていた水頭症の子よりも、リノの症状は重いのです。

人間、どこにどんな運命がやってくるかわかりません。
「いずれは、我が身」
昔の人はよく言ったものです。

ママンはベショベショに濡れたしわくちゃの顔から、タオルで涙をぬぐい取りながら「栄養のあるお乳が出るように、ネムルーにあげて」と、蜜のある林檎をたんまりと持たせてくれました。


ラクーは実家からの帰りがけに、病院へ寄りました。
この林檎が、ネムルーたちの力になればいいなと願っていました。

病室に入ると、ネムルーは手術後の麻酔の影響で、座れないぐらいの頭痛にさいなまれていました。
そしてお乳が張って、痛くてたまらないようです。
ダブルパンチだね。

昨日の病状説明のショックが大きかったのか、話をしていてもすぐに涙ぐみます。
ただ昨夜からお乳が出始めたらしく、初乳を看護師さんに渡せたそうです。

ほら、一ついいことがあったじゃない。
これで一歩前進です。

お乳が出て良かったね、ネムルーお母さん。


ラクーがネムルーと話していた時に、ムコーが病室に帰って来ました。
リノの顔を見に、NICUに行ってきたそうです。
「リノは大ウンチをしてたよ!」と、楽しそうに話してくれました。
薬に頼らずに自力でウンチができるということは、朗報です。そう、ウンチやオシッコを出すために、薬に頼ってる子もいるのです。

それに看護師さんから提案があって、ネムルーの調子がよくなったら、これから手足や髪の毛を二人で洗ってやれるかもしれないと言うのです。

まぁ、それはいいニュースです。

お腹から出たままの状態で低体温治療に入ったため、髪の毛に粘液がついたまま、かぴかぴに乾いてしまっているのが気になるとネムルーも言っていたのです。
リノが身体を拭いてもらってさっぱりしたことで、少しでも生きる力が湧けばいいな。
そう思いながら、ラクーは家に帰りました。

帰ってから夕食の支度をして、しばらくネットできのこさんのブログを読んでいました。最新のものまで読み終わった時に、ムコーが服などを取りに帰って来ました。

「お母さん、お医者さんがリノが動いているようだと言ってました。」

………………

「やったーーーーーーーー!! ほんと?! ほんとの本当?!」

興奮です!
皆さん、リノが『動いた』んですよ!

こんなに興奮したことはかつてありません。

良かった良かった。
後は自発呼吸を待つだけです。

リノ、今日の仕事は終わったよ。
よくできました!
後は呼吸だよ、息を自分でするの。

頑張れ! ばあばは応援してるよ! ☆彡


しかしこの日、お医者さん達はリノの血液の中の感染症と戦っていました。
CRP 2 炎症反応が出ていたのです。
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