78 / 107
第二章 結婚生活
誕生日
しおりを挟む
窓の外は今日も土砂降りの雨だ。
まだ雷の音も聞こえるが、だいぶ小さな音になったので遠くへ行ったのかもしれない。
セリカたちは小人の村から帰って来て、また馬車に乗り、ホルコット子爵領にあるコスモの街までやって来た。
その日の夜は旅館で、ホースラディッシュを添えたやわらかいローストビーフを堪能した。
お昼ご飯が残念なスープだったので、みんなすごい食欲だった。
ダニエルとコールは赤ワインを飲み過ぎて、早々に潰れてしまったので、セリカは女中のキム、護衛のタンジェントやシータとたっぷりと話を楽しんだ。
ずっとセリカたちを悩ませてきたコルマ関連の話も出た。
この宿に着いてからダニエルにかかってきた念話で、新しい情報が入って来たとタンジェントが言っていた。
ケリー達を誘拐したスミスと前回セリカを誘拐しようとしたコルマは、2人とも行政執行大臣の部下だったらしく、昨日、警備局が重い腰をあげて王宮のガサ入れをしたようだ。
そこで思っても見なかったことに、行政執行大臣とオエンド国との癒着が発覚したらしい。
…あの人は、権力欲が強そうだったもんね。
ダニエルと行政執行大臣が言い合いになった会議のことを思い出す。
その件でイモづる式に逮捕された人が何人か出たようで、王宮は大騒ぎになっていると聞いた。
そんなきな臭い話だけではなく、タンジェントやシータの母国であるオディエ国の話もした。
食べ物の話を聞くだけでも、日本によく似ていると奏子が言っていた。
一度行ってみたいものである。
話をしている途中に気づいたのだが、タンジェントがシータを見る目がやわらかくなったような気がする。
指摘はしなかったが、セリカとしては望み通りの展開だ。
あの2人は何かのきっかけ次第なのよね~。
次の日は馬車に乗って観光に行く予定だったが、朝起きると雨が降っていたので、出発を断念した。
それから雨は一日中降り続き、2日目の今日は雷を伴うほどの土砂降りだ。
「ついてないなぁ~。」
― でもたまにはゆっくりできていいじゃない。
一日中、馬車に揺られるのも疲れるでしょ。
奏子、今日は何の日か知ってる?
― 7月3日
あら、そう言えば誕生日だったわね。
「昼食か?」
椅子に座って雑誌を読んでいたダニエルが、ノックの音に気づいて顔を上げた。
「侯爵閣下、奥様、お食事の準備ができました。」
キムの声に、セリカも応える。
「はーい。すぐに行きます。」
「シータと先に行ってくれ。ちょっとコールに渡すものを寝室に取りに行ってくるから…。」
そう言われて、セリカが先に食事室に向かっていたら、すぐにダニエルが追い付いてきた。
「あったの?」
「ん、何が?」
「コールに渡す物よ。」
「ああ…バッチリ持って来たよ。」
そのわりには、ダニエルは手ぶらだ。
それにどこか挙動不審にも見える。
昼食はメインがナスとベーコンを使ったトマトソース味のパスタだった。
セリカが好きな具材の組合わせなので、とても嬉しい。
雨に足止めされている憂鬱も晴れていくようだ。
最後に出てきたデザートが豪華だった。
5種類のケーキがあって、どれを何個とってもいいらしい。
セリカはチョコレートケーキとピーチパイを選んだ。
ホクホクとした心持ちで、ケーキを食べようとしたら、ダニエルが咳ばらいをして話しかけてきた。
「セリカ…その…。」
「何?」
「…誕生日おめでとう。」
「え? 知ってたの?!」
朝、何も言われなかったから、セリカの誕生日を知る人はいないのだと思っていた。
「これを。気に入るといいんだが…。」
ダニエルがポケットから出して渡してくれたのは、長四角の箱だった。
開けてみると、宝石が散りばめられた豪華なネックレスが入っていた。
「まぁ………………。」
こんなネックレス、見たことない。
― お姫様がドレスアップした時につけるようなものね。
重たい。
これ、本物の宝石みたい。
銀細工もみごとなのだが、星屑を散りばめたようなダイヤモンドのきらめきに意識が引き込まれてしまう。
これ、ダレーナの町長さんの奥さんがつけていたダイヤの何個分あるんだろう。
ちょっと怖いね。
「…気に入らないのか?」
ダニエルが心配そうに聞いて来る。
「とんでもない! ありがとう、ダニエル! とても素敵ね。…私には恐れ多くて驚いてたの。」
セリカが笑顔でお礼を言うと、ダニエルはホッと安堵したようだった。
これ、ダニエルは旅行中ずっと持ってきてくれてたのかな?
― どうもそのようね。
コールに渡すものだなんて…ごまかし方が可愛いわね。
なんだかほっこりして心がじんわりと温かくなる。
ありがとう、ダニエル。
宝石よりもそんなダニエルの心遣いが嬉しいよ。
◇◇◇
昼過ぎに雨が上がったので、コスモの街の名所である、隕石の落下場所を皆で観に行くことになった。
宿屋からほど近い公園の中に、その跡はあった。
進入禁止の縄が張られた向こうを覗いてみると、黒々とすり鉢状に大きな穴が空いている。
「すごいね。こんなに深いとは思わなかった。」
「その日は、星が次々と降って来たらしい。」
「雨よりも星が降る方がロマンチックだけど、こうやって本当に星が降ってきたら大変だね。」
「ハハ、確かにな。」
「セリカ様! 虹が出てます!」
キムの叫び声に空を見上げると、長い雨が上がったことを祝福するかのように、くっきりとした虹がかかっていた。
「うわぁ~。綺麗ねぇ。」
「吉兆だな。何かいいことがありそうだ。」
ダニエルと腕を組んで、歓迎のアーチのようにもみえる大きな虹をセリカはウキウキとしながら眺めていた。
まだ雷の音も聞こえるが、だいぶ小さな音になったので遠くへ行ったのかもしれない。
セリカたちは小人の村から帰って来て、また馬車に乗り、ホルコット子爵領にあるコスモの街までやって来た。
その日の夜は旅館で、ホースラディッシュを添えたやわらかいローストビーフを堪能した。
お昼ご飯が残念なスープだったので、みんなすごい食欲だった。
ダニエルとコールは赤ワインを飲み過ぎて、早々に潰れてしまったので、セリカは女中のキム、護衛のタンジェントやシータとたっぷりと話を楽しんだ。
ずっとセリカたちを悩ませてきたコルマ関連の話も出た。
この宿に着いてからダニエルにかかってきた念話で、新しい情報が入って来たとタンジェントが言っていた。
ケリー達を誘拐したスミスと前回セリカを誘拐しようとしたコルマは、2人とも行政執行大臣の部下だったらしく、昨日、警備局が重い腰をあげて王宮のガサ入れをしたようだ。
そこで思っても見なかったことに、行政執行大臣とオエンド国との癒着が発覚したらしい。
…あの人は、権力欲が強そうだったもんね。
ダニエルと行政執行大臣が言い合いになった会議のことを思い出す。
その件でイモづる式に逮捕された人が何人か出たようで、王宮は大騒ぎになっていると聞いた。
そんなきな臭い話だけではなく、タンジェントやシータの母国であるオディエ国の話もした。
食べ物の話を聞くだけでも、日本によく似ていると奏子が言っていた。
一度行ってみたいものである。
話をしている途中に気づいたのだが、タンジェントがシータを見る目がやわらかくなったような気がする。
指摘はしなかったが、セリカとしては望み通りの展開だ。
あの2人は何かのきっかけ次第なのよね~。
次の日は馬車に乗って観光に行く予定だったが、朝起きると雨が降っていたので、出発を断念した。
それから雨は一日中降り続き、2日目の今日は雷を伴うほどの土砂降りだ。
「ついてないなぁ~。」
― でもたまにはゆっくりできていいじゃない。
一日中、馬車に揺られるのも疲れるでしょ。
奏子、今日は何の日か知ってる?
― 7月3日
あら、そう言えば誕生日だったわね。
「昼食か?」
椅子に座って雑誌を読んでいたダニエルが、ノックの音に気づいて顔を上げた。
「侯爵閣下、奥様、お食事の準備ができました。」
キムの声に、セリカも応える。
「はーい。すぐに行きます。」
「シータと先に行ってくれ。ちょっとコールに渡すものを寝室に取りに行ってくるから…。」
そう言われて、セリカが先に食事室に向かっていたら、すぐにダニエルが追い付いてきた。
「あったの?」
「ん、何が?」
「コールに渡す物よ。」
「ああ…バッチリ持って来たよ。」
そのわりには、ダニエルは手ぶらだ。
それにどこか挙動不審にも見える。
昼食はメインがナスとベーコンを使ったトマトソース味のパスタだった。
セリカが好きな具材の組合わせなので、とても嬉しい。
雨に足止めされている憂鬱も晴れていくようだ。
最後に出てきたデザートが豪華だった。
5種類のケーキがあって、どれを何個とってもいいらしい。
セリカはチョコレートケーキとピーチパイを選んだ。
ホクホクとした心持ちで、ケーキを食べようとしたら、ダニエルが咳ばらいをして話しかけてきた。
「セリカ…その…。」
「何?」
「…誕生日おめでとう。」
「え? 知ってたの?!」
朝、何も言われなかったから、セリカの誕生日を知る人はいないのだと思っていた。
「これを。気に入るといいんだが…。」
ダニエルがポケットから出して渡してくれたのは、長四角の箱だった。
開けてみると、宝石が散りばめられた豪華なネックレスが入っていた。
「まぁ………………。」
こんなネックレス、見たことない。
― お姫様がドレスアップした時につけるようなものね。
重たい。
これ、本物の宝石みたい。
銀細工もみごとなのだが、星屑を散りばめたようなダイヤモンドのきらめきに意識が引き込まれてしまう。
これ、ダレーナの町長さんの奥さんがつけていたダイヤの何個分あるんだろう。
ちょっと怖いね。
「…気に入らないのか?」
ダニエルが心配そうに聞いて来る。
「とんでもない! ありがとう、ダニエル! とても素敵ね。…私には恐れ多くて驚いてたの。」
セリカが笑顔でお礼を言うと、ダニエルはホッと安堵したようだった。
これ、ダニエルは旅行中ずっと持ってきてくれてたのかな?
― どうもそのようね。
コールに渡すものだなんて…ごまかし方が可愛いわね。
なんだかほっこりして心がじんわりと温かくなる。
ありがとう、ダニエル。
宝石よりもそんなダニエルの心遣いが嬉しいよ。
◇◇◇
昼過ぎに雨が上がったので、コスモの街の名所である、隕石の落下場所を皆で観に行くことになった。
宿屋からほど近い公園の中に、その跡はあった。
進入禁止の縄が張られた向こうを覗いてみると、黒々とすり鉢状に大きな穴が空いている。
「すごいね。こんなに深いとは思わなかった。」
「その日は、星が次々と降って来たらしい。」
「雨よりも星が降る方がロマンチックだけど、こうやって本当に星が降ってきたら大変だね。」
「ハハ、確かにな。」
「セリカ様! 虹が出てます!」
キムの叫び声に空を見上げると、長い雨が上がったことを祝福するかのように、くっきりとした虹がかかっていた。
「うわぁ~。綺麗ねぇ。」
「吉兆だな。何かいいことがありそうだ。」
ダニエルと腕を組んで、歓迎のアーチのようにもみえる大きな虹をセリカはウキウキとしながら眺めていた。
32
お気に入りに追加
2,358
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
僕は弟を救うため、無自覚最強の幼馴染み達と旅に出た。奇跡の実を求めて。そして……
久遠 れんり
ファンタジー
五歳を過ぎたあたりから、体調を壊し始めた弟。
お医者さんに診断を受けると、自家性魔力中毒症と診断される。
「大体、二十までは生きられないでしょう」
「ふざけるな。何か治療をする方法はないのか?」
その日は、なにも言わず。
ただ首を振って帰った医者だが、数日後にやって来る。
『精霊種の住まう森にフォビドゥンフルーツなるものが存在する。これすなわち万病を癒やす霊薬なり』
こんな事を書いた書物があったようだ。
だが、親を含めて、大人達はそれを信じない。
「あての無い旅など無謀だ」
そう言って。
「でも僕は、フィラデルを救ってみせる」
そして僕は、それを求めて旅に出る。
村を出るときに付いてきた幼馴染み達。
アシュアスと、友人達。
今五人の冒険が始まった。
全くシリアスではありません。
五人は全員、村の外に出るとチートです。ご注意ください。
この物語は、演出として、飲酒や喫煙、禁止薬物の使用、暴力行為等書かれていますが、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。またこの物語はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは関係ありません。
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜
ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました
誠に申し訳ございません。
—————————————————
前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。
名前は山梨 花。
他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。
動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、
転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、
休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。
それは物心ついた時から生涯を終えるまで。
このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。
—————————————————
最後まで読んでくださりありがとうございました!!
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。
138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」
お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。
賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。
誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。
そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。
諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
あいつに無理矢理連れてこられた異世界生活
mio
ファンタジー
なんやかんや、無理矢理あいつに異世界へと連れていかれました。
こうなったら仕方ない。とにかく、平和に楽しく暮らしていこう。
なぜ、少女は異世界へと連れてこられたのか。
自分の中に眠る力とは何なのか。
その答えを知った時少女は、ある決断をする。
長い間更新をさぼってしまってすいませんでした!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる