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第二章 結婚生活
ステンドグラス
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アメリアが作ってくれていた、ダニエルが好物だというミートローフは美味しかった。
中にうずら卵が入っていて、切り分けられた一切れがとても綺麗だった。
上にかかっている茶色のグレービーソースにコクがあって、なにか工夫していることがうかがえる。
食事の後でアメリアに聞いてみたが、秘密ですと言って笑うばかりで、教えてもらえなかった。
アメリアは背筋がシュッと伸びた背の高い女性なので、顔も身体も丸い旦那さんのルーディが隣に立っていると、日本の「10」という数字に見える。
セリカが夜、そのことをダニエルに話すと、声を殺して笑っていた。
こんなダニエルの笑顔って、滅多に見られないね。
― そうだね、貴重な一瞬だよ。
普段は眉間にシワをよせて難しい顔をしていることが多いダニエルだが、セリカと一緒にいる時には表情が和らいでいるし、こんな風に笑ってくれることもある。
幸せって、こういうことなのかなぁ。
― 結婚って、こんなゆったりした気持ちになれるからするんだろうね。
◇◇◇
翌朝、セリカが廊下に出ると、そこには夢のような光のプリズムの世界が広がっていた。
青、黄、緑、ピンク、赤、紫…ありとあらゆる色が、外から射し込む陽光を屈折させて踊っている。
「わぁー、綺麗…。」
セリカは目を輝かせて、光が遊ぶさまを見た。
「すごい手間ですよね。アメリアさんの趣味らしいですよ。南側の廊下の窓は、ずっとこんな感じです。部屋のテーマに沿って絵が描かれてるようで、主寝室はラザフォード侯爵家の紋章にもなっている湖と三本杉です。」
キムに言われて、寝室の前の絵を振り返って見ると、いつも朝食室の窓から見ている湖の形が描かれていた。
「まぁ、アメリアは料理が上手いだけじゃなくて、芸術家でもあるのね。」
「北の別邸のセシルさんはパッチワークを嗜まれるそうです。別邸の執事の奥方になろうと思ったら、なにか継ぎはぎ細工ができないとダメなようですね。」
キムのあっけらかんとした妻談義に、セリカはクスクスと笑いだしてしまった。
まさか北のトーラスという執事は、ルーディに対抗して四角い顔をしてるんじゃないわよね?
光あふれる廊下を歩きながら、セリカはキムに聞いてみた。
「キムはコールとはどうなの? 従者の妻になるんだったら、そんな手工芸の腕は必要ないんじゃない?」
「…セリカ様。」
キムはソバカスまで真っ赤になって、目があちこちに泳いでいる。
「ランドリーさんから、2人のことを聞いたんだけど…。」
「ランドリーさんが?!」
これにはキムも驚いたようだ。
女中頭や執事の目をごまかそうと思っても、なかなかそうは問屋が卸さない。
従業員のことを把握しておくのも、仕事の一部だからだ。
「あの…付き合ってくれとは言われました。けれどそんな…結婚なんてまだ考えていません。コールさんはもう成人されてますが、私は来年にならないと15歳になりませんし…。」
「そっか。最近は結婚のことを考えずに恋愛だけする人も多いもんね。私もダニエルと出会わなかったら、こんなに早く結婚するつもりはなかったし。」
「え? セリカ様は独身主義者だったんですか? 」
「うーん、独身主義者っていうよりも仕事をするのが好きだったっていうか…。」
「ああ、似たもの夫婦なんですね。侯爵閣下とセリカ様は、似てないようで似ていらっしゃるんですねぇ。」
ゲッ、そうなのかな?
― 言われてみれば、キムの言うことにも一理あるかも。
あんなにワーカーホリックじゃなかったよね、私。
― そうねぇ。
セリカは家族の時間を大事にしてたところは違うわね。
今はダニエルも家族の時間を大切にしてくれてるから…似てきちゃったということか。
― 夫婦というものは似てくるものよ。
まだ新婚なのに…。
◇◇◇
朝食の後、ダニエルが書斎に仕事をしにいったので、セリカはアメリアに教えてもらって、ステンドグラスを使ったランプを作ることにした。
色付き硝子を専用のカッターナイフで切るのは怖かったが、意外とパキンと簡単に切れたので面白くなって、型紙に沿ってどんどん切っていった。
硝子の切れ端をきれいに磨いて怪我をしないようにしてから、はんだ付けをして絵を組み上げていった。
「まぁ、綺麗にできましたね。セリカ様はステンドグラスを作るセンスがありますよ。」
「ありがとう。アメリアに褒められるとそんな気になっちゃうよ。」
セリカが作ったのは湖と三本杉の紋章の柄だ。
ここからの作業工程は日にちがかかるというので、仕上げはアメリアにお任せした。
旅行の帰りにここに寄った時に、完成していればいいな。
このランプは、店の飾りにするつもりだ。
侯爵家の店ということがわかって、いい看板になるんじゃないだろうか。
中にうずら卵が入っていて、切り分けられた一切れがとても綺麗だった。
上にかかっている茶色のグレービーソースにコクがあって、なにか工夫していることがうかがえる。
食事の後でアメリアに聞いてみたが、秘密ですと言って笑うばかりで、教えてもらえなかった。
アメリアは背筋がシュッと伸びた背の高い女性なので、顔も身体も丸い旦那さんのルーディが隣に立っていると、日本の「10」という数字に見える。
セリカが夜、そのことをダニエルに話すと、声を殺して笑っていた。
こんなダニエルの笑顔って、滅多に見られないね。
― そうだね、貴重な一瞬だよ。
普段は眉間にシワをよせて難しい顔をしていることが多いダニエルだが、セリカと一緒にいる時には表情が和らいでいるし、こんな風に笑ってくれることもある。
幸せって、こういうことなのかなぁ。
― 結婚って、こんなゆったりした気持ちになれるからするんだろうね。
◇◇◇
翌朝、セリカが廊下に出ると、そこには夢のような光のプリズムの世界が広がっていた。
青、黄、緑、ピンク、赤、紫…ありとあらゆる色が、外から射し込む陽光を屈折させて踊っている。
「わぁー、綺麗…。」
セリカは目を輝かせて、光が遊ぶさまを見た。
「すごい手間ですよね。アメリアさんの趣味らしいですよ。南側の廊下の窓は、ずっとこんな感じです。部屋のテーマに沿って絵が描かれてるようで、主寝室はラザフォード侯爵家の紋章にもなっている湖と三本杉です。」
キムに言われて、寝室の前の絵を振り返って見ると、いつも朝食室の窓から見ている湖の形が描かれていた。
「まぁ、アメリアは料理が上手いだけじゃなくて、芸術家でもあるのね。」
「北の別邸のセシルさんはパッチワークを嗜まれるそうです。別邸の執事の奥方になろうと思ったら、なにか継ぎはぎ細工ができないとダメなようですね。」
キムのあっけらかんとした妻談義に、セリカはクスクスと笑いだしてしまった。
まさか北のトーラスという執事は、ルーディに対抗して四角い顔をしてるんじゃないわよね?
光あふれる廊下を歩きながら、セリカはキムに聞いてみた。
「キムはコールとはどうなの? 従者の妻になるんだったら、そんな手工芸の腕は必要ないんじゃない?」
「…セリカ様。」
キムはソバカスまで真っ赤になって、目があちこちに泳いでいる。
「ランドリーさんから、2人のことを聞いたんだけど…。」
「ランドリーさんが?!」
これにはキムも驚いたようだ。
女中頭や執事の目をごまかそうと思っても、なかなかそうは問屋が卸さない。
従業員のことを把握しておくのも、仕事の一部だからだ。
「あの…付き合ってくれとは言われました。けれどそんな…結婚なんてまだ考えていません。コールさんはもう成人されてますが、私は来年にならないと15歳になりませんし…。」
「そっか。最近は結婚のことを考えずに恋愛だけする人も多いもんね。私もダニエルと出会わなかったら、こんなに早く結婚するつもりはなかったし。」
「え? セリカ様は独身主義者だったんですか? 」
「うーん、独身主義者っていうよりも仕事をするのが好きだったっていうか…。」
「ああ、似たもの夫婦なんですね。侯爵閣下とセリカ様は、似てないようで似ていらっしゃるんですねぇ。」
ゲッ、そうなのかな?
― 言われてみれば、キムの言うことにも一理あるかも。
あんなにワーカーホリックじゃなかったよね、私。
― そうねぇ。
セリカは家族の時間を大事にしてたところは違うわね。
今はダニエルも家族の時間を大切にしてくれてるから…似てきちゃったということか。
― 夫婦というものは似てくるものよ。
まだ新婚なのに…。
◇◇◇
朝食の後、ダニエルが書斎に仕事をしにいったので、セリカはアメリアに教えてもらって、ステンドグラスを使ったランプを作ることにした。
色付き硝子を専用のカッターナイフで切るのは怖かったが、意外とパキンと簡単に切れたので面白くなって、型紙に沿ってどんどん切っていった。
硝子の切れ端をきれいに磨いて怪我をしないようにしてから、はんだ付けをして絵を組み上げていった。
「まぁ、綺麗にできましたね。セリカ様はステンドグラスを作るセンスがありますよ。」
「ありがとう。アメリアに褒められるとそんな気になっちゃうよ。」
セリカが作ったのは湖と三本杉の紋章の柄だ。
ここからの作業工程は日にちがかかるというので、仕上げはアメリアにお任せした。
旅行の帰りにここに寄った時に、完成していればいいな。
このランプは、店の飾りにするつもりだ。
侯爵家の店ということがわかって、いい看板になるんじゃないだろうか。
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