上 下
75 / 107
第二章 結婚生活

ステンドグラス

しおりを挟む
 アメリアが作ってくれていた、ダニエルが好物だというミートローフは美味しかった。

中にうずら卵が入っていて、切り分けられた一切れがとても綺麗だった。

上にかかっている茶色のグレービーソースにコクがあって、なにか工夫していることがうかがえる。

食事の後でアメリアに聞いてみたが、秘密ですと言って笑うばかりで、教えてもらえなかった。


アメリアは背筋がシュッと伸びた背の高い女性なので、顔も身体も丸い旦那さんのルーディが隣に立っていると、日本の「10」という数字に見える。

セリカが夜、そのことをダニエルに話すと、声を殺して笑っていた。

こんなダニエルの笑顔って、滅多に見られないね。

― そうだね、貴重な一瞬だよ。


普段は眉間にシワをよせて難しい顔をしていることが多いダニエルだが、セリカと一緒にいる時には表情がやわらいでいるし、こんな風に笑ってくれることもある。

幸せって、こういうことなのかなぁ。

― 結婚って、こんなゆったりした気持ちになれるからするんだろうね。



◇◇◇



 翌朝、セリカが廊下に出ると、そこには夢のような光のプリズムの世界が広がっていた。

青、黄、緑、ピンク、赤、紫…ありとあらゆる色が、外から射し込む陽光を屈折させて踊っている。

「わぁー、綺麗…。」

セリカは目を輝かせて、光が遊ぶさまを見た。

「すごい手間ですよね。アメリアさんの趣味らしいですよ。南側の廊下の窓は、ずっとこんな感じです。部屋のテーマに沿って絵が描かれてるようで、主寝室はラザフォード侯爵家の紋章にもなっている湖と三本杉です。」

キムに言われて、寝室の前の絵を振り返って見ると、いつも朝食室の窓から見ている湖の形が描かれていた。

「まぁ、アメリアは料理が上手いだけじゃなくて、芸術家でもあるのね。」


「北の別邸のセシルさんはパッチワークをたしなまれるそうです。別邸の執事の奥方になろうと思ったら、なにか継ぎはぎ細工ができないとダメなようですね。」

キムのあっけらかんとした妻談義に、セリカはクスクスと笑いだしてしまった。

まさか北のトーラスという執事は、ルーディに対抗して四角い顔をしてるんじゃないわよね?


光あふれる廊下を歩きながら、セリカはキムに聞いてみた。

「キムはコールとはどうなの? 従者の妻になるんだったら、そんな手工芸の腕は必要ないんじゃない?」

「…セリカ様。」

キムはソバカスまで真っ赤になって、目があちこちに泳いでいる。


「ランドリーさんから、2人のことを聞いたんだけど…。」

「ランドリーさんが?!」

これにはキムも驚いたようだ。

女中頭や執事の目をごまかそうと思っても、なかなかそうは問屋が卸さない。
従業員のことを把握しておくのも、仕事の一部だからだ。


「あの…付き合ってくれとは言われました。けれどそんな…結婚なんてまだ考えていません。コールさんはもう成人されてますが、私は来年にならないと15歳になりませんし…。」

「そっか。最近は結婚のことを考えずに恋愛だけする人も多いもんね。私もダニエルと出会わなかったら、こんなに早く結婚するつもりはなかったし。」

「え? セリカ様は独身主義者だったんですか? 」

「うーん、独身主義者っていうよりも仕事をするのが好きだったっていうか…。」

「ああ、似たもの夫婦なんですね。侯爵閣下とセリカ様は、似てないようで似ていらっしゃるんですねぇ。」


ゲッ、そうなのかな?

― 言われてみれば、キムの言うことにも一理あるかも。

あんなにワーカーホリックじゃなかったよね、私。

― そうねぇ。
  セリカは家族の時間を大事にしてたところは違うわね。

今はダニエルも家族の時間を大切にしてくれてるから…似てきちゃったということか。

― 夫婦というものは似てくるものよ。
  
まだ新婚なのに…。



◇◇◇



 朝食の後、ダニエルが書斎に仕事をしにいったので、セリカはアメリアに教えてもらって、ステンドグラスを使ったランプを作ることにした。

色付き硝子を専用のカッターナイフで切るのは怖かったが、意外とパキンと簡単に切れたので面白くなって、型紙に沿ってどんどん切っていった。

硝子の切れ端をきれいに磨いて怪我をしないようにしてから、はんだ付けをして絵を組み上げていった。


「まぁ、綺麗にできましたね。セリカ様はステンドグラスを作るセンスがありますよ。」

「ありがとう。アメリアに褒められるとそんな気になっちゃうよ。」

セリカが作ったのは湖と三本杉の紋章の柄だ。

ここからの作業工程は日にちがかかるというので、仕上げはアメリアにお任せした。


旅行の帰りにここに寄った時に、完成していればいいな。

このランプは、店の飾りにするつもりだ。

侯爵家の店ということがわかって、いい看板になるんじゃないだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

僕は弟を救うため、無自覚最強の幼馴染み達と旅に出た。奇跡の実を求めて。そして……

久遠 れんり
ファンタジー
五歳を過ぎたあたりから、体調を壊し始めた弟。 お医者さんに診断を受けると、自家性魔力中毒症と診断される。 「大体、二十までは生きられないでしょう」 「ふざけるな。何か治療をする方法はないのか?」 その日は、なにも言わず。 ただ首を振って帰った医者だが、数日後にやって来る。 『精霊種の住まう森にフォビドゥンフルーツなるものが存在する。これすなわち万病を癒やす霊薬なり』 こんな事を書いた書物があったようだ。 だが、親を含めて、大人達はそれを信じない。 「あての無い旅など無謀だ」 そう言って。 「でも僕は、フィラデルを救ってみせる」 そして僕は、それを求めて旅に出る。 村を出るときに付いてきた幼馴染み達。 アシュアスと、友人達。 今五人の冒険が始まった。 全くシリアスではありません。 五人は全員、村の外に出るとチートです。ご注意ください。 この物語は、演出として、飲酒や喫煙、禁止薬物の使用、暴力行為等書かれていますが、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません。またこの物語はフィクションです。実在の人物や団体、事件などとは関係ありません。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

めんどくさがり屋の異世界転生〜自由に生きる〜

ゆずゆ
ファンタジー
※ 話の前半を間違えて消してしまいました 誠に申し訳ございません。 —————————————————   前世100歳にして幸せに生涯を遂げた女性がいた。 名前は山梨 花。 他人に話したことはなかったが、もし亡くなったら剣と魔法の世界に転生したいなと夢見ていた。もちろん前世の記憶持ちのままで。 動くがめんどくさい時は、魔法で移動したいなとか、 転移魔法とか使えたらもっと寝れるのに、 休みの前の日に時間止めたいなと考えていた。 それは物心ついた時から生涯を終えるまで。 このお話はめんどくさがり屋で夢見がちな女性が夢の異世界転生をして生きていくお話。 ————————————————— 最後まで読んでくださりありがとうございました!!  

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

処理中です...