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第二章 結婚生活

新婚旅行

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 旅行に連れていく人員について、セリカはひとつ策略を巡らせた。

付き人のエレナには家族と一緒に休暇を取ってほしいと言って屋敷に残ってもらい、独身のキムを付き添いとして連れていくことにした。
コールが頭の怪我をした時にキムが看病して以来、2人の仲が良くなっているとランドリーさんに聞いていたからだ。

コールもキムもお年頃なので、この旅行をきっかけにして、上手くいけばいいなと思っている。


ダニエルの方は、この新婚旅行のついでに小人の村へ行って、ラザフォード侯爵家専属の郵便配達人を調達しようとしている。

宮殿にはセキュリティの関係で専属の郵便配達人がいるらしい。

しかし普通の貴族の家ではなかなか独自の配達人を持つことは叶わない。
ダニエルは手広く事業をしているので、以前から専属の郵便配達人が欲しかったそうだ。
先日あった事件の記憶が新しいうちに雇い入れたら、他の貴族たちも許容できるだろうし、納得させられるだろうと言っていた。

本当にピンチをチャンスに変える人だね、ダニエルは。



◇◇◇



 待ちに待った旅行の日の朝、夏の青い空には入道雲が湧き上がっていた。

眩しい陽射しに、セリカの心も浮き立ってくる。

玄関で執事のバトラーに見送られて馬車に乗り込むと、ひんやりとした空気が身体を包んだ。

「え? どうして馬車の中が涼しいの?」

「これは新しく売り出す改良型馬車なんだ。奏子のアイデアでクーラーが効いてるし、護衛がいる人や家族が多い人向けに馬車の横幅が広くなってる。ゆったりと旅行できるよ。」

ダニエルの自慢げな声に促されて座ってみると、横に三人並んで座っても窮屈じゃない。

「うわぁ、これは快適だね!」

セリカは隣に座っているシータやキムと顔を見合わせて、笑みを交わし合った。


今回は長期の旅行で荷物が多いので、後ろから一台荷馬車がついて来ることになっている。
帰りにはお土産をたっぷり買えそうだ。


 ラザフォード侯爵領で一番大きいランデスの街を馬車が走って行く。

魔法科学研究所の周りにはダニエルが興したいろんな企業がひしめいている。
魔電灯、魔電力、魔導車、念話器、それに最近加わったセキュリティ機器の会社もある。

そのメインストリートを抜けると、貴族が行く基礎学校がある。
ここでエレナの息子さんのチャドが教師として働いているらしい。

貴族や裕福な商人が住む区域を過ぎると、下町の賑やかな通りに出る。

この辺りに来ると、セリカは馴染み深い空気を感じてホッとする。
できたら下町に近い所で店の候補地を探してほしいと、領地管理人のヒップスに頼んでいる。

どの辺りに店が構えられるのか、それを考えると楽しみでたまらない。
旅行から帰ったら、店の選定に入る予定だ。


ランデスの街を出ると、しばらく田園地帯が続く。
ここの農業特区がランデスの街に食材を提供している。

セリカは畑に植えてある作物や放牧されている牛などを、興味深く眺めていった。
以前、中央帯のレイトの街へ行く時に通った時には、綺麗な田園地帯だなとしか思わなかったが、自分がこれからここでできた食材を買うと思えば、風景の見方も変わるような気がする。

隣町のザクトに入った時に、馬車は休憩するために宿屋に入った。

「ダニエル、ザクトの街の特産品は何?」

「ここはいい粘土が採れるから陶芸が盛んなんだ。」

「へぇ~、そうしたら店のお皿なんかをここで買ったらいいわね。できたらラザフォード侯爵領のすべての街の特産品を上手く使いたいと思ってるの。」

「…さすがだな、君は。じゃあ窯元に行ってみるかい?」
「うん。」


ダニエルとセリカが窯元の出店に入って行くと、奥から店の主人が慌てて出てきた。

「これは侯爵閣下、奥様。いらっしゃいませ。今日は何をお求めでしょうか?」

「飯屋で使うような、丈夫で安めの食器を見たいんだけど…。」

セリカの言葉に、ふくよかな店の主人は「は?」と一瞬驚いたが、さすがに商売人だけあってすぐに気持ちを切り替えて、案内してくれた。

ここは陶器をそれぞれの用途に合わせて、コーナーごとに分けて置いてあるので探しやすい。


セリカはトレントの店で使っていたような食器を一通り選んだ。
そして次に今、屋敷で使っているような食器も見せてもらった。

「こちらのセットをラザフォード侯爵邸に納めさせていただいています。」

確かに見たことのある食器だ。

― ねぇ、カレー皿がいるんじゃない?

そうだね。


「この深めのサラダボールを横に長くした食器って作れるかしら?」

「はい。できます。」

セリカは大きさを言って、試作品を作ってもらうことにした。

料理人と相談したいので、気になった食器を一通り侯爵邸に運んでもらって、数の方は改めて発注することになった。

大きな商談になりそうな雰囲気を感じて、店主は始終ニコニコしていた。


「なんだかトレントの店でのセリカが戻ってきたみたいだな。」

ダニエルがいやに嬉しそうだ。

「そう? それって、どんな感じなの?」

「有能で怖いものなしって感じだ。貴族にも堂々と対峙している君を見て、感心したんだ。あの頃からちょっと気になってたんだろうな。」

「え?! 全然そんな風に見えなかったけど…。」

「セリカは私のことをどう思った?」

「偉そうで大きな男の人って思ってた。」

「…………。」

「うそうそ、男前だと思ってたよ、もちろん。」

ちょっとがっかりしているダニエルを、セリカはすかさずフォローする。


貴族だったもん、あの頃は恋愛対象で見てないよ。

― セリカは特に鈍かったし。

うーん、私が鈍いのもあるかもしれないけど、あの頃のダニエルの態度って、めちゃくちゃそっけなくなかった?
いかにも女嫌いの独身貴族って感じだったよねぇ。

― 確かに。
  夢もロマンもなかったよね。

それが毎日一緒に食事をしたり、新婚旅行に連れて行ってくれるほどになったんだもんね。
すごい変わりようだよ。


ザクトの街で昼ご飯を食べることになったのだが、ここの細めの麺で作られた冷たいサラダスパゲティは美味しかった。
新鮮なトマトとキュウリの歯ごたえが良くて、それが酸味の効いたコクのあるソースによく合っていた。

涼しい風が馬車から出て来るようになっていたそうだが、馭者と一緒にずっと馭者台に座っていたタンジェントには、特に嬉しい昼食だったらしい。
珍しくお代わりをして食べていた。


ザクトの街を出るのが遅くなったので、今日は次のフォクスの街に泊まることになった。
このフォクスの街で、セリカは新しい出会いをすることになる。
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