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第一章 出会い
妻同士
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昼食の後、セリカが部屋の窓の側にあるソファに座って、なだらかに広がる草原やその向こうに見える山の新緑を楽しんでいると、マリアンヌ様が訪ねて来てくれた。
「おかあさま? ぼくもはいっていいの?」
可愛らしい声が聞こえると思ったら、2歳だという息子のティム君が一緒に来ていた。
マリアンヌ様と同じブロンドの髪のハンサムくんだ。
「セリカさん、ティムも一緒でもいいかしら? 最近、お昼寝をしなくなっちゃって。」
「いいですよ~。どうぞ。」
ティム君は最初はお母さんの隣にチョコンと座って大人しくしていたけど、すぐに大人の話に飽きて応接間を走り回り始めた。
「まぁ、部屋の外へ出たほうがいいみたい。」
「男の子ですものね。」
「セリカさん、今日は私がダレニアン邸の案内をさせていただますわ。」
部屋を出て、マリアンヌ様と話をしながら3階への階段を登って行く。
屋敷の右奥の階段が、勉強部屋へのアクセスに良いそうだ。
「セリカさんは子どもに慣れていらっしゃるみたいね。」
「ええ。店に来るお客さんで家族連れの方は多いですし、近所の知り合いの子ども達なんかは、地域みんなで一緒に子育てしてましたからね。」
「そうなの。そういうのは少し羨ましいわ。ティムもアルマが大きくなるまでは一人っ子みたいなものでしょ。男の子のお友達がいたらいいんだけど…。」
マリアンヌ様は赤ちゃんのアルマちゃんにあまりわだかまりは持っていらっしゃらないみたいだ。
夫を他の女性と共有するという感覚が、セリカにはどうもよくわからない。
こういう貴族生活にセリカも慣れることが出来るのだろうか?。
そんなことを想像していたら、マリアンヌ様が最初に案内してくれたのはペネロピ様のお部屋だった。
3階の右側の棟をクリストフ様の家族が使われているらしい。
ノックをするとすぐに中にいたお付きの人がドアを開けてくれた。
マリアンヌ様が来たことがわかったので、ペネロピ様がガウンを羽織ってベッドから出ようとしている。
落ち着いた茶色に近い赤毛の色の白い人だ。
マリアンヌ様は綺麗なお嬢様系の美人だが、ペネロピ様は落ち着いた知的な人に見える。
でもセリカと同じ16歳なので、やはり若い感じがする。
「こんにちは。休んでいるところをごめんなさいね。新しい家族をあなたに一番に紹介しておこうと思って。」
「ありがとうございます、マリアンヌ様。こんな格好ですみません。お会いしたかったですわ、セリカさん。同じ歳でもありますし、これからよろしくお願いします。」
「セリカです。よろしくお願いします、ペネロピ様。」
「まぁ、様ではなくて、呼び捨てでいいですよ。あなたがお姉さんになるそうですし。私は秋の9月生まれなんです。セリカさんは7月生まれなんでしょ?」
「あらペネロピ。私のことはいまだに様付けで呼んでるくせに。私のことも、2人ともさん付けにしてくださいな。」
マリアンヌ様がそう言って、ペネロピ様を睨みつける。
ペネロピ様は真っ赤になってモジモジし出した。
「マリアンヌ様は伯爵家の出ですし。私は子爵家の人間ですから…。」
「まぁ! 出自はもう関係ないわ。子どもも出来て私たちも家族になったんでしょ。」
「はい…………マリアンヌさん。」
「ふふ、よろしい。セリカもそうしてね。」
「わかりました、マリアンヌさん。では失礼して、ペネロピ。私のことも呼び捨てでセリカと呼んでね。」
「え?! ……わかったわ、セリカ。」
なんだか呼び方が変わるだけで、二人のことが身近に感じられてきた。
この調子ならここでも何とかやっていけるかもしれない。
3人で、セリカとマリアンヌさんが先日行った服屋での買い物の話をしていると、ペネロピのお付きの人が声を上げた。
「ペネロピ様、またアルマ様が浮き上がってますっ。」
「あらまた?」
ペネロピが赤ちゃんに向かって魔法を使うと、アルマは小さな声で泣きながらベッドに降りてきた。
「おしっこが出たんじゃない? ティムもオムツが汚れると気持ち悪いらしくて、すぐに浮き上がるの。」
マリアンヌさんがそう言ったので、お付きの人がすぐにオムツを変える。
言った通りに汚れていたようだ。
「クリスは浮遊魔法が強いから、子どもも似るのよ。」
「ああ、それで。アルマが浮き上がるばかりするからどこか悪いんじゃないかと思ってたんです。ありがとうございます。安心しましたわ。」
思わぬところで同じ旦那様を持つ子どもの、母親同士の結束が強くなっているようだ。
「もう少し大きくなったら『ビューン、ポイポイ』を始めるわよ。」
「何ですか?それ。」
「何でもかんでも魔法を使って、ゴミかごに投げ入れるの。」
マリアンヌさんがその話をするとすぐに、セリカたちのお付きをしている3人が叫び声をあげた。
「「「あーー、坊ちゃま!!!」」」
ティムが魔法を使って飾り棚の飾りを黙って全部、ゴミかごに投げ込んでいたらしい。
子どもが大人しくしてると思ってたら、とんでもないことになるね。
…でもなんか奥様同士って、こんな感じなんだ。
セリカとしてはまだ戸惑いがあるが、2人の仲が良さそうで何よりである。
「おかあさま? ぼくもはいっていいの?」
可愛らしい声が聞こえると思ったら、2歳だという息子のティム君が一緒に来ていた。
マリアンヌ様と同じブロンドの髪のハンサムくんだ。
「セリカさん、ティムも一緒でもいいかしら? 最近、お昼寝をしなくなっちゃって。」
「いいですよ~。どうぞ。」
ティム君は最初はお母さんの隣にチョコンと座って大人しくしていたけど、すぐに大人の話に飽きて応接間を走り回り始めた。
「まぁ、部屋の外へ出たほうがいいみたい。」
「男の子ですものね。」
「セリカさん、今日は私がダレニアン邸の案内をさせていただますわ。」
部屋を出て、マリアンヌ様と話をしながら3階への階段を登って行く。
屋敷の右奥の階段が、勉強部屋へのアクセスに良いそうだ。
「セリカさんは子どもに慣れていらっしゃるみたいね。」
「ええ。店に来るお客さんで家族連れの方は多いですし、近所の知り合いの子ども達なんかは、地域みんなで一緒に子育てしてましたからね。」
「そうなの。そういうのは少し羨ましいわ。ティムもアルマが大きくなるまでは一人っ子みたいなものでしょ。男の子のお友達がいたらいいんだけど…。」
マリアンヌ様は赤ちゃんのアルマちゃんにあまりわだかまりは持っていらっしゃらないみたいだ。
夫を他の女性と共有するという感覚が、セリカにはどうもよくわからない。
こういう貴族生活にセリカも慣れることが出来るのだろうか?。
そんなことを想像していたら、マリアンヌ様が最初に案内してくれたのはペネロピ様のお部屋だった。
3階の右側の棟をクリストフ様の家族が使われているらしい。
ノックをするとすぐに中にいたお付きの人がドアを開けてくれた。
マリアンヌ様が来たことがわかったので、ペネロピ様がガウンを羽織ってベッドから出ようとしている。
落ち着いた茶色に近い赤毛の色の白い人だ。
マリアンヌ様は綺麗なお嬢様系の美人だが、ペネロピ様は落ち着いた知的な人に見える。
でもセリカと同じ16歳なので、やはり若い感じがする。
「こんにちは。休んでいるところをごめんなさいね。新しい家族をあなたに一番に紹介しておこうと思って。」
「ありがとうございます、マリアンヌ様。こんな格好ですみません。お会いしたかったですわ、セリカさん。同じ歳でもありますし、これからよろしくお願いします。」
「セリカです。よろしくお願いします、ペネロピ様。」
「まぁ、様ではなくて、呼び捨てでいいですよ。あなたがお姉さんになるそうですし。私は秋の9月生まれなんです。セリカさんは7月生まれなんでしょ?」
「あらペネロピ。私のことはいまだに様付けで呼んでるくせに。私のことも、2人ともさん付けにしてくださいな。」
マリアンヌ様がそう言って、ペネロピ様を睨みつける。
ペネロピ様は真っ赤になってモジモジし出した。
「マリアンヌ様は伯爵家の出ですし。私は子爵家の人間ですから…。」
「まぁ! 出自はもう関係ないわ。子どもも出来て私たちも家族になったんでしょ。」
「はい…………マリアンヌさん。」
「ふふ、よろしい。セリカもそうしてね。」
「わかりました、マリアンヌさん。では失礼して、ペネロピ。私のことも呼び捨てでセリカと呼んでね。」
「え?! ……わかったわ、セリカ。」
なんだか呼び方が変わるだけで、二人のことが身近に感じられてきた。
この調子ならここでも何とかやっていけるかもしれない。
3人で、セリカとマリアンヌさんが先日行った服屋での買い物の話をしていると、ペネロピのお付きの人が声を上げた。
「ペネロピ様、またアルマ様が浮き上がってますっ。」
「あらまた?」
ペネロピが赤ちゃんに向かって魔法を使うと、アルマは小さな声で泣きながらベッドに降りてきた。
「おしっこが出たんじゃない? ティムもオムツが汚れると気持ち悪いらしくて、すぐに浮き上がるの。」
マリアンヌさんがそう言ったので、お付きの人がすぐにオムツを変える。
言った通りに汚れていたようだ。
「クリスは浮遊魔法が強いから、子どもも似るのよ。」
「ああ、それで。アルマが浮き上がるばかりするからどこか悪いんじゃないかと思ってたんです。ありがとうございます。安心しましたわ。」
思わぬところで同じ旦那様を持つ子どもの、母親同士の結束が強くなっているようだ。
「もう少し大きくなったら『ビューン、ポイポイ』を始めるわよ。」
「何ですか?それ。」
「何でもかんでも魔法を使って、ゴミかごに投げ入れるの。」
マリアンヌさんがその話をするとすぐに、セリカたちのお付きをしている3人が叫び声をあげた。
「「「あーー、坊ちゃま!!!」」」
ティムが魔法を使って飾り棚の飾りを黙って全部、ゴミかごに投げ込んでいたらしい。
子どもが大人しくしてると思ってたら、とんでもないことになるね。
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