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第二章 オタクの綾香の場合

保健室に恋の予感

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 綾香先生は困っていた。

これは、あれよね。
淡い初恋…つうやつだよね。

どうしよう、私完璧にお邪魔虫なんですけど…。
かと言ってベッドもあるから、私がここを離れている間に変な関係になってもらっても困るし。

これって私が聞いててもいい話なんでしょうね。
盛り上がっている二人には悪いけれど、どこかよそで盛り上がって頂きたい。


先程、貧血で倒れて保健室のベッドで休んでいた女の子のところに、同じ学年の男の子がやって来た。

そこで、突然倒れて心配しただの、本当は以前から気になっていただのから始まって…なんちゃらかんちゃら。
そしてお互いの思いが同じだったらしく、ちょっと不必要なほどに会話が盛り上がりを見せて来た。

ここはちょっと私がいることを思い出してもらわないと。
水を差すのは本意ではないけれどしょうがない。

綾香は、小さく咳払いをして椅子をギギッと軋ませる。

ハッとしたように会話が止まった。
やっぱり私がいるのを忘れてたのね。


 そこへ空気を読まない男がやって来た。

「綾香先生ー。うちの大野が倒れたってぇ? 世話になってすまんねぇ。」

「木下先生のクラスだったのね。もうだいぶ良くなったとは思うけど。どう? 大野さん、教室に帰れそう?」

「…はい。」

「あれ? なんで三組の小川がいるんだ? お前五時間目体育だろう。みんな移動してたぞ。」
「いけねっ。」

木下先生に言われて、男の子は慌てて走って出て行った。

「じゃあ、大野も帰れそうなら教室に帰っとけ。今度しんどくなったら早めに言えよ。お家に電話して迎えに来てもらうからな。」

「はぁい。」


木下先生は大野さんと一緒に廊下に出ると、歩いて行く彼女の後姿をしばらく見てから大丈夫だと判断したのだろう、もう一度保健室に入ってきた。

「それで、彼女何だったんですか?」
「んーたぶん睡眠不足と…女の子の事情。」

「…んぁっ、そうか。じゃあ取りたてて保護者に連絡しなくても大丈夫ですかね。」
「そうね。いまのところ様子見でいいと思う。」

そう言って綾香は机に向き直って書類を書く。

しばらく書類を書いていても、木下先生が出ていく気配がしない。

どうしたんだろうと顔を上げてみたら、真剣な顔をしてこっちをじっと見ていた。

「どうかしたんですか?」

「綾香先生、…いや綾香さん。」

「…はい。」

「街コンに行ったって聞いたけど。」

「あら、聞こえてました? そーなんですよ。もう私も29歳でしょ。いくらのんびりしてるからっていっても、そろそろ動かないとやばい感じなんですよ。」

「それは、結婚相手を探してるってことですよね。」

「あからさまですが…そういうことになりますね。」

「じゃあ、僕と結婚してください。」

……………………。

「はあっ?!!」


ナニイッテンノコノヒト。

少女漫画でよく「頭、真っ白」という表現があるが、この時、綾香はこの言葉の意味を真に理解した。
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