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『エレナに頼みたいことがあるから、授業が終わったら東の塔の実験室まで来るように』

 アヴィディータにそう呼び出された私はどうせいつもの小間使いだろうと、ほいほいと実験室を訪れた。
 東の塔の実験室は今は誰にも使われていなくて、アヴィディータが策略をめぐらす時の御用達の場所だ。

 そしてそこで待っていたのが、私の裏切りに気がつき怒りに燃えるアヴィディータと、私を犯すためにアヴィディータに雇われた大男だったというわけだ。

(エグい……! やり口がエグいって……っ! 絶対に私が犯されてるとこ記録に残して脅しに使うつもりだったじゃん……!)

 逃げなきゃ。何としてでも男とアヴィディータから逃げなきゃ。
 淫紋魔法の効力が消えるまで、誰も居ない場所でやり過ごさなきゃ。

(どこかどこかどこか! 誰も居ない、しかもアヴィディータが来ない場所……っっ!)

 そんな追い詰められた私の脳裏に走馬灯のように浮かぶ、ある光景スチル
 図書室の奥に隠された、秘密の部屋。

 ヒロインセシルがフラグ条件を満たすまで、あの部屋には誰も現れないはずだ。

(セシルが王太子とのエンディングが確定したってことは、隠しキャラのあの人・・・は出現しないはずっ!)

 だからあの部屋で淫紋魔法に堪えれば、私が生き残る道はきっとある――――!

(お願い、開いて……っ!)

 図書室の中で唯一、リンドブルム王家の紋章が刻まれた本棚。記憶通りに中の王室史の順番を入れ替え力を込めて押すと、重いはずのそれが音もなく動いた。
 本棚の後ろに現れたスペースへと身体を滑り込ませ、閉じる。隠し部屋へ続く通路が闇に包まれるとホッとして力が抜けた。

「ダメ、まだここで倒れちゃ、ダメ……っ」

 だんだん、淫紋の効力が強くなってきている。
 お腹が熱い。身体の奥が疼いて仕方ない。

「もしこの状態で見つかったらさすがにもう逃げられない……!」

 アヴィディータより魔力の弱い私が逃げられたのは、強い光魔法でアヴィディータと男の目を眩ませ隙をついたからだ。こんな子供騙しの魔法、二度目は通用しない。

「っ、さすが闇魔法と毒のエキスパート、アヴィディータ。ガンガン淫紋の効果が身体に回ってくるのを感じるわぁっ」

 まるでテキーラを連続で飲んだ時のような酩酊感。
 頭がフワフワして思考もまとまらなくなってきている。足に、力が入らない。

「着いた……!」

 最後の力を振り絞って。
 隠し部屋の扉を開ける。

「……………え?」

 倒れ込むように部屋へと入った私の視界に映ったもの。

 それは、居るはずのない彼――隠しキャラのつま先だった。

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