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 私が、自分の暮らす『この世界が乙女ゲームの世界だ』と気がついたのは今から1年前。17歳の時のこと。
 王族と貴族ばかりが通う私達の魔法学園に、セシルという庶民の女の子が転入して来た日のことだ。

 王立リンドブルム魔法学園。
 全寮制のこの学園には魔法の才能を持った15歳から18歳の生徒が通っているけれど、生徒は王族と貴族しかいない。

 何故なら、この世界では魔法の才能を持っているのは貴族以上の人間しかいないから。
 だから魔力のコントロールを学ぶこの学園の生徒は、必然的に貴族と王族だけだった。

 では何故、王族と貴族しか魔力を持っていないのか。
 それは魔力に応じて爵位が与えられ、魔力の強い者がこの国の中枢を担っているからだ。

 そしてリンドブルム王国の始祖である王族は当然、誰よりも強い魔力を持っていて憧れの的だった。

 中でもアヴィディータは、学園に通う同学年の王太子に強く心酔し傾倒していた。
 自分は彼と結婚し王太子妃になるのだと、常々とりまき達に宣言し牽制していたほどである。

 当然、彼女に逆らえない下級貴族たちはアヴィディータを持て囃し、王太子妃に相応しいのは貴女しかいないと媚びへつらっていた。

 けれど1年前。庶民の女の子が魔力を発動させリンドブルム魔法学園に転入してくるという、学園を揺るがす大事件が起こる。

 緊張で頬を紅潮させ、それでも前を真っ直ぐ見て自己紹介をするボブヘアの女の子。彼女はストロベリーブロンドを揺らしながらセシルと名乗った。

 その、セシルの希望に満ちた緑の瞳を見た瞬間。

(あ。このスチル、オープニングで見たことある)

 私の脳裏に前世の記憶が蘇った。

 私達が通うリンドブルム魔法学園を舞台にした乙女ゲーム『フォルトゥナのつるぎ』。

 このゲームは、貴族たちの学園にただ一人の庶民として通うことになったセシルが、悪役令嬢に嫌がらせを受けつつも魔法の才能を開花させ攻略対象イケメンたちと絆を深め恋に落ちるゲームだ。

 悪役令嬢とはもちろんアヴィディータのこと。
 そしてアヴィディータの想い人である王太子はメインヒーローだった。

 どのルートでも庶民を見下しているアヴィディータはセシルに嫌がらせをして学園生活を邪魔してくるのだけど、王太子ルートに入った時のアヴィディータの苛烈さはフォルトゥナの剣ファンの間では伝説で。

 特にバッドエンドになった時など『途中からホラーゲームにジャンルが変わったのかと思った』と言われるほどの悪役っぷりを披露していた。
 私も、王太子ルートのバッドエンドでアヴィディータにナイフを持って追い掛け回された挙句、井戸に突き落とされた時はしばらく立ち直れなかった。

 そんな悪役令嬢アヴィディータ=ダクネスの登場シーンでは、常に3人のとりまきが一緒に現れる。

 とりまき達はアヴィディータほどの凶行には及ばないけれど、アヴィディータがセシルに嫌味を言えば追随し、セシルに水をかけたり足を引っ掛けて転ばせるなどのくだらない嫌がらせをするポジションだ。

 そしてその、アヴィディータのとりまきの一人こそ。
 私が転生したエレナ=シフルマン伯爵令嬢だった。

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