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「俺も、花音のことが好きだから。そんな、泣きそうな声出さないで」
力強く抱き締めてくる逞しい腕。嗅ぎ慣れたシトラスの香り。
けれど。その体温はいつもより、ずっと高い。
「ゆうま、くん」
「大丈夫。大丈夫だから。俺がお前を泣かせるなんて、あり得ないから。俺も、花音が好きだから」
「悠真くん……!」
悠真の広い背中に腕を回し、花音も彼に負けない強さで抱き締め返す。
今、彼はなんて言った? 自分を好きだと。彼も自分を好きだと言ってくれた?
このまま二人の体がピッタリくっついて、離れなくなれば良いのに。
「悠真くん、ごめんね。勝手に家に入って来てこんなことして、ごめんね」
「だから謝るなって。ほら、涙が拭いてやるから。……って、ティッシュどこだ。ちょっとライトつけるぞ」
そう言って、ヘッドボードのライトを付けた悠真の動きが止まった。
「悠真くん……?」
何故、彼はこんなに顔を真っ赤にしてこちらを見つめているのだろう?
そう首を傾げる花音はすっかり自分の格好を忘れていて、その破壊力に気づいていない。
フロントのリボンで胸元が結ばれた白いベビードール。
生地は繊細なレースのシースルーで、普段なら隠されているところがほぼ隠れていない。
ソングは辛うじて透けない生地だが、その面積の少なさは穿いている意味があるのかと問いたいほど。
ミルク色の豊かな胸の中心では、淡いピンクの粒が色づき、レースから透けている。
大きなバストとは対照的に、キュッとくびれた腰は抱き締めたら折れてしまいそうなくらいに細かった。
花音を見つめる悠真の喉仏がゴクリと上下した。
「花音、その格好、俺のためにしてくれたの?」
「へっ? ……っきゃぁぁ?!」
その指摘に自分の格好を思い出し、慌てて腕で自身を隠す。
(なんてこと、なんてこと、なんてことー?! 改めて指摘されると、私なんて格好してるのー?!)
入りたい。穴が有ったら入りたい。
顔から火が出てるかと思うくらい頬が熱い。
「せっかく良い眺めなんだから隠さないでよ」
「やだやだやだ! 悠真くん、なんでそんなニヤニヤして嬉しそうなの?!」
「そりゃ嬉しいよ。そんなに色っぽい花音の格好、18年一緒にいて初めて見たもん。……ねぇ教えて。俺のために、着てくれたの?」
そう。そうだけど。
この大胆な格好は悠真のためで間違いないけれど。
「かーのーん?」
「……今日、悠真くんに告白したくて。でも、正攻法じゃ無理だと思って。だから、悠真くんが私にその気になってくれたら良いなと思って、えっちな下着で検索したの……」
こんなことを言って引かれないだろうか。
上目遣いで恐る恐る悠真を伺えば、何故か彼は右手で自分の顔を覆い天を仰いでいた。
「ヤバい。超嬉しい。めっちゃ嬉しい。花音が俺のために、えっちな下着で検索したの? 本当に?」
「う、うん……」
「あーヤバいヤバい落ち着け俺。このままじゃ暴走する。落ち着け」
「あ! あとね!」
「あと?」
「ちゃんと避妊薬飲んできたから、落ち着かなくても大丈夫だよ?」
言った瞬間。
噛みつくようなキスをされベッドに押し付けられた。
「んっ、ん、はっん」
「息、鼻でして。ベロ、俺のベロと絡めて。……そう、上手」
「ぁ、は、ん……!」
「ここ、気持ちいい? 口の中にも性感帯は有るから、ゆっくり覚えていこうな」
何が悠真に火をつけたのか。
スイッチが切り替わったように、彼は強引な仕草で花音を翻弄していく。
大きな手のひらがレース越しに花音の胸を揉み、長い指がその中心を摘まむ。親指と人差し指で擦られるたびに、甘い電流で腰が跳ねた。
触られているのは胸なのに、お腹が熱くなるなんて。
未知の感覚が全身を支配して、花音を高みへと押し上げる。
「きゃぁ……!」
ベビードールを纏ったままの胸の頂を口に含まれ、舌で転がされ、軽く歯を立てられる。
薄い布の下からぷっくりと存在を主張する自分の乳首を悠真が吸う様に目眩がしそうだ。
恥ずかしいほどに勃ち上がった紅い粒を、同じくらい紅い悠真の舌がチロチロとねぶる。
(悠真くんが、私のおっぱい吸ってる。ちゅうちゅうって、赤ちゃんみたいに吸ってる……!)
視覚からの刺激と実際に胸に与えられる刺激。その両方に翻弄され、花音は身体をくねらせ悶えた。
その姿に煽られ、悠真の指と舌がますます執拗になっていく。
「……花音、ココも舐めさせて」
直接触られる前から既に蜜液にあふれていた乙女の花園。
そこを守っていた薄い布はしとどに濡れ張り付き、ふっくらとした合わせ目も、硬くしこった花芯の形もハッキリと見えていた。
悠真は躊躇なくそこに口づけ、ジュルジュルと音を立て啜る。更には舌と一緒に人差し指を挿し込み、無垢な隘路を開く。
「あ、あっあっ、ぁあ――――!」
快楽の源である敏感な秘粒を吸われ、蕩けた粘膜と疼く最奥を擦られる。花壁が収縮し、悠真の指を締め付けるのが自分でもわかった。
その後も悠真は長い時間をかけて花音に女としての悦びを教え、花開かせた。
もう大丈夫だから。痛くても我慢するから。
そう訴えても、完全に花音の身体が蕩けるまでは何度も花音を頂点へと連れていった。
やがて何もかもがぐちゃぐちゃになって、悠真から与えられる快楽以外に何も考えられなくなった頃。
ついに花音の一番柔らかい場所に、燃えるような屹立が押しつけられた。
熟した桃の果肉の中心を割るように。
ゆっくりと、確実に。
悠真の太く熱い男根が花音の中に入ってくる。
痛みは、ない。
けれど内側から押し上げられる圧迫感と、今までの自分を全てに作り替えられていくような不思議な衝動に、自然と涙が溢れた。
花音の表情を気遣いながら悠真が腰を動かすたびに、違和感が快楽へと変わっていく。
吐息が艶を帯び、下腹部に熱が溜まっていく。
「あっ、ゆぅまくん、ぁ……! や、怖い。や、ぁ! くる、ぁあ……!」
「っ、花音、すごい締まる。中、うねうねして俺を離したくないって言ってる。ここ? ここだよな。ここを俺ので突くたびに、ぎゅって締まる」
「ぁ、ん! ぁ、あ、あっ! ダメ、そこ、何度も、ダメぇ! おかしく、なっちゃう。あ! あ! ゆうまくん、ゆうまくん――!」
「花音……っ!」
打ち付けられる律動が激しさを増し、たまらず汗ばんだ悠真の背に縋る。
「ゆうまくん、好き。好き、好き……!」
だから私をもう離さないで。
最奥に熱い飛沫を感じ、花音もまた、白い場所へと舞い上がった。
◆
――あぁ。やっと花音が自分のものになった。
腕の中で眠るあどけない花音の頬を撫で、悠真はその存在を何度も確かめる。
「無理させちゃったよな。お前に触れられるのが嬉しくて、歯止めがきかなかった。初めてだったのにごめんな」
そう謝罪の言葉を口にしながら。
しかし、シーツに残る純潔の証である血の跡をなぞる悠真の瞳は喜びで満ちていた。
「花音、俺ちょっと用が有ってリビングに行くけど、いい子で寝ててな?」
すやすやと寝息を立てる花音の額に唇を落とし、静かにベッドから抜け出す。その際に彼女の白い肌に自分がつけた所有の証が見えて、また胸が満たされる。
脱ぎ捨てたズボンを拾い身につけた悠真は、宣言通り階下へと向かった。
暗いリビングの中、明かりをつけないまま足を組んでソファに腰かける。深く息を吸い、瞼を閉じた悠真は自分の忠実な従者を呼びつけた。
「――――ラビ」
『ハイ。マスター』
悠真の声に反応し、すぐに機械の重力を感じさせない動きで執事服の黒い兎が側に現れる。
リビングの天井……花音が眠っている自分の部屋の辺りを見上げるが、特に動きはない。あの娘は一度寝てしまうと眠りが深いから、きっと朝まで起きないだろう。
「ラビ。『司東悠真』の名前で命じる。エストのシステムを展開して」
『エストヘノ干渉の命令ヲ受付ケマシタ。パスコードヲ入力シテクダサイ』
「司東。俺はエストを支配するもの。従え俺の命に。従え俺の言葉に。――この世界を動かすのは、俺だ」
『マスター、司東悠真サマヲ確認。ロックヲ解除シマス』
ラビの歯車の瞳の奥が青く光り、学園都市エストに関する資料の画面がいくつも空中に浮かび上がる。
ソファで足を組んだまま、膨大な文字列のそれを眺め唇の端を歪める悠真の表情は正に支配者のそれだった。きっと花音が見たら自分の幼なじみに知らない顔が有ったのかと驚くだろう。
「エストのループ設定を停止。今後は二度と時間を繰り返さないように、ループに関するシステムを凍結しろ」
『ハイ、マスター。ループノ停止、及ビ、システムノ凍結ヲ実行シマス』
ラビの言葉と共に、今まで花音を何度も4月7日へとループさせていたエストのシステムが停止していく。
その画面を見ながら、悠真は込み上げてくる愉悦を抑えられなかった。
「やっと、やっと! 花音が俺に想いを告げてくれた。ついに、俺のプログラムがエストの強制力に勝ったんだ……! もう二度と、この世界に俺たちの邪魔をさせるものか……!」
この世界の支配者は自分だ。
そう笑う主の姿を、兎は歯車の瞳で静かに見つめていた。
◆ ◇ ◆
季節は巡って、再びの春。
エストを卒業した花音の隣には、今も変わらず黒髪の青年の姿があった。
穏やかな日差しの中、甘い花の香りを胸いっぱいに吸い込んだ花音は青年の榛色の瞳を見上げる。この瞳は、いつでも自分を優しく見つめてくれる。彼の瞳の中に今も自分が映っていることが本当に嬉しかった。
「どうした? そんなにジッと見て。今さら俺の顔なんて珍しくないだろ」
「ふふっ。私の旦那様、かっこいいなぁって見てたの」
「俺の奥さんも、可愛くて綺麗で、俺を見る瞳が色っぽくて今すぐにでも食べちゃいたいくらいだよ」
「もぅ!」
笑いながら彼の腕の中に飛び込んで、啄むようなキスを繰り返す。
「……今日は、早めにベッドに入ろうな?」
こっそりと囁かれた声の低音に、花音は頬を染めながら頷いた。
fin
力強く抱き締めてくる逞しい腕。嗅ぎ慣れたシトラスの香り。
けれど。その体温はいつもより、ずっと高い。
「ゆうま、くん」
「大丈夫。大丈夫だから。俺がお前を泣かせるなんて、あり得ないから。俺も、花音が好きだから」
「悠真くん……!」
悠真の広い背中に腕を回し、花音も彼に負けない強さで抱き締め返す。
今、彼はなんて言った? 自分を好きだと。彼も自分を好きだと言ってくれた?
このまま二人の体がピッタリくっついて、離れなくなれば良いのに。
「悠真くん、ごめんね。勝手に家に入って来てこんなことして、ごめんね」
「だから謝るなって。ほら、涙が拭いてやるから。……って、ティッシュどこだ。ちょっとライトつけるぞ」
そう言って、ヘッドボードのライトを付けた悠真の動きが止まった。
「悠真くん……?」
何故、彼はこんなに顔を真っ赤にしてこちらを見つめているのだろう?
そう首を傾げる花音はすっかり自分の格好を忘れていて、その破壊力に気づいていない。
フロントのリボンで胸元が結ばれた白いベビードール。
生地は繊細なレースのシースルーで、普段なら隠されているところがほぼ隠れていない。
ソングは辛うじて透けない生地だが、その面積の少なさは穿いている意味があるのかと問いたいほど。
ミルク色の豊かな胸の中心では、淡いピンクの粒が色づき、レースから透けている。
大きなバストとは対照的に、キュッとくびれた腰は抱き締めたら折れてしまいそうなくらいに細かった。
花音を見つめる悠真の喉仏がゴクリと上下した。
「花音、その格好、俺のためにしてくれたの?」
「へっ? ……っきゃぁぁ?!」
その指摘に自分の格好を思い出し、慌てて腕で自身を隠す。
(なんてこと、なんてこと、なんてことー?! 改めて指摘されると、私なんて格好してるのー?!)
入りたい。穴が有ったら入りたい。
顔から火が出てるかと思うくらい頬が熱い。
「せっかく良い眺めなんだから隠さないでよ」
「やだやだやだ! 悠真くん、なんでそんなニヤニヤして嬉しそうなの?!」
「そりゃ嬉しいよ。そんなに色っぽい花音の格好、18年一緒にいて初めて見たもん。……ねぇ教えて。俺のために、着てくれたの?」
そう。そうだけど。
この大胆な格好は悠真のためで間違いないけれど。
「かーのーん?」
「……今日、悠真くんに告白したくて。でも、正攻法じゃ無理だと思って。だから、悠真くんが私にその気になってくれたら良いなと思って、えっちな下着で検索したの……」
こんなことを言って引かれないだろうか。
上目遣いで恐る恐る悠真を伺えば、何故か彼は右手で自分の顔を覆い天を仰いでいた。
「ヤバい。超嬉しい。めっちゃ嬉しい。花音が俺のために、えっちな下着で検索したの? 本当に?」
「う、うん……」
「あーヤバいヤバい落ち着け俺。このままじゃ暴走する。落ち着け」
「あ! あとね!」
「あと?」
「ちゃんと避妊薬飲んできたから、落ち着かなくても大丈夫だよ?」
言った瞬間。
噛みつくようなキスをされベッドに押し付けられた。
「んっ、ん、はっん」
「息、鼻でして。ベロ、俺のベロと絡めて。……そう、上手」
「ぁ、は、ん……!」
「ここ、気持ちいい? 口の中にも性感帯は有るから、ゆっくり覚えていこうな」
何が悠真に火をつけたのか。
スイッチが切り替わったように、彼は強引な仕草で花音を翻弄していく。
大きな手のひらがレース越しに花音の胸を揉み、長い指がその中心を摘まむ。親指と人差し指で擦られるたびに、甘い電流で腰が跳ねた。
触られているのは胸なのに、お腹が熱くなるなんて。
未知の感覚が全身を支配して、花音を高みへと押し上げる。
「きゃぁ……!」
ベビードールを纏ったままの胸の頂を口に含まれ、舌で転がされ、軽く歯を立てられる。
薄い布の下からぷっくりと存在を主張する自分の乳首を悠真が吸う様に目眩がしそうだ。
恥ずかしいほどに勃ち上がった紅い粒を、同じくらい紅い悠真の舌がチロチロとねぶる。
(悠真くんが、私のおっぱい吸ってる。ちゅうちゅうって、赤ちゃんみたいに吸ってる……!)
視覚からの刺激と実際に胸に与えられる刺激。その両方に翻弄され、花音は身体をくねらせ悶えた。
その姿に煽られ、悠真の指と舌がますます執拗になっていく。
「……花音、ココも舐めさせて」
直接触られる前から既に蜜液にあふれていた乙女の花園。
そこを守っていた薄い布はしとどに濡れ張り付き、ふっくらとした合わせ目も、硬くしこった花芯の形もハッキリと見えていた。
悠真は躊躇なくそこに口づけ、ジュルジュルと音を立て啜る。更には舌と一緒に人差し指を挿し込み、無垢な隘路を開く。
「あ、あっあっ、ぁあ――――!」
快楽の源である敏感な秘粒を吸われ、蕩けた粘膜と疼く最奥を擦られる。花壁が収縮し、悠真の指を締め付けるのが自分でもわかった。
その後も悠真は長い時間をかけて花音に女としての悦びを教え、花開かせた。
もう大丈夫だから。痛くても我慢するから。
そう訴えても、完全に花音の身体が蕩けるまでは何度も花音を頂点へと連れていった。
やがて何もかもがぐちゃぐちゃになって、悠真から与えられる快楽以外に何も考えられなくなった頃。
ついに花音の一番柔らかい場所に、燃えるような屹立が押しつけられた。
熟した桃の果肉の中心を割るように。
ゆっくりと、確実に。
悠真の太く熱い男根が花音の中に入ってくる。
痛みは、ない。
けれど内側から押し上げられる圧迫感と、今までの自分を全てに作り替えられていくような不思議な衝動に、自然と涙が溢れた。
花音の表情を気遣いながら悠真が腰を動かすたびに、違和感が快楽へと変わっていく。
吐息が艶を帯び、下腹部に熱が溜まっていく。
「あっ、ゆぅまくん、ぁ……! や、怖い。や、ぁ! くる、ぁあ……!」
「っ、花音、すごい締まる。中、うねうねして俺を離したくないって言ってる。ここ? ここだよな。ここを俺ので突くたびに、ぎゅって締まる」
「ぁ、ん! ぁ、あ、あっ! ダメ、そこ、何度も、ダメぇ! おかしく、なっちゃう。あ! あ! ゆうまくん、ゆうまくん――!」
「花音……っ!」
打ち付けられる律動が激しさを増し、たまらず汗ばんだ悠真の背に縋る。
「ゆうまくん、好き。好き、好き……!」
だから私をもう離さないで。
最奥に熱い飛沫を感じ、花音もまた、白い場所へと舞い上がった。
◆
――あぁ。やっと花音が自分のものになった。
腕の中で眠るあどけない花音の頬を撫で、悠真はその存在を何度も確かめる。
「無理させちゃったよな。お前に触れられるのが嬉しくて、歯止めがきかなかった。初めてだったのにごめんな」
そう謝罪の言葉を口にしながら。
しかし、シーツに残る純潔の証である血の跡をなぞる悠真の瞳は喜びで満ちていた。
「花音、俺ちょっと用が有ってリビングに行くけど、いい子で寝ててな?」
すやすやと寝息を立てる花音の額に唇を落とし、静かにベッドから抜け出す。その際に彼女の白い肌に自分がつけた所有の証が見えて、また胸が満たされる。
脱ぎ捨てたズボンを拾い身につけた悠真は、宣言通り階下へと向かった。
暗いリビングの中、明かりをつけないまま足を組んでソファに腰かける。深く息を吸い、瞼を閉じた悠真は自分の忠実な従者を呼びつけた。
「――――ラビ」
『ハイ。マスター』
悠真の声に反応し、すぐに機械の重力を感じさせない動きで執事服の黒い兎が側に現れる。
リビングの天井……花音が眠っている自分の部屋の辺りを見上げるが、特に動きはない。あの娘は一度寝てしまうと眠りが深いから、きっと朝まで起きないだろう。
「ラビ。『司東悠真』の名前で命じる。エストのシステムを展開して」
『エストヘノ干渉の命令ヲ受付ケマシタ。パスコードヲ入力シテクダサイ』
「司東。俺はエストを支配するもの。従え俺の命に。従え俺の言葉に。――この世界を動かすのは、俺だ」
『マスター、司東悠真サマヲ確認。ロックヲ解除シマス』
ラビの歯車の瞳の奥が青く光り、学園都市エストに関する資料の画面がいくつも空中に浮かび上がる。
ソファで足を組んだまま、膨大な文字列のそれを眺め唇の端を歪める悠真の表情は正に支配者のそれだった。きっと花音が見たら自分の幼なじみに知らない顔が有ったのかと驚くだろう。
「エストのループ設定を停止。今後は二度と時間を繰り返さないように、ループに関するシステムを凍結しろ」
『ハイ、マスター。ループノ停止、及ビ、システムノ凍結ヲ実行シマス』
ラビの言葉と共に、今まで花音を何度も4月7日へとループさせていたエストのシステムが停止していく。
その画面を見ながら、悠真は込み上げてくる愉悦を抑えられなかった。
「やっと、やっと! 花音が俺に想いを告げてくれた。ついに、俺のプログラムがエストの強制力に勝ったんだ……! もう二度と、この世界に俺たちの邪魔をさせるものか……!」
この世界の支配者は自分だ。
そう笑う主の姿を、兎は歯車の瞳で静かに見つめていた。
◆ ◇ ◆
季節は巡って、再びの春。
エストを卒業した花音の隣には、今も変わらず黒髪の青年の姿があった。
穏やかな日差しの中、甘い花の香りを胸いっぱいに吸い込んだ花音は青年の榛色の瞳を見上げる。この瞳は、いつでも自分を優しく見つめてくれる。彼の瞳の中に今も自分が映っていることが本当に嬉しかった。
「どうした? そんなにジッと見て。今さら俺の顔なんて珍しくないだろ」
「ふふっ。私の旦那様、かっこいいなぁって見てたの」
「俺の奥さんも、可愛くて綺麗で、俺を見る瞳が色っぽくて今すぐにでも食べちゃいたいくらいだよ」
「もぅ!」
笑いながら彼の腕の中に飛び込んで、啄むようなキスを繰り返す。
「……今日は、早めにベッドに入ろうな?」
こっそりと囁かれた声の低音に、花音は頬を染めながら頷いた。
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