16 / 16
閉ざされた扉
しおりを挟む
「ここがアシュレイ王子の住んでる離宮かぁ」
青々とした……を通り越し、鬱蒼とした緑の中。
王宮から離れた場所に、木々に囲まれて建つ白亜の宮殿。
そこがこの国の第一王子、アシュレイ=ウィンセントが暮らしている離宮だった。
「映画で見たお城みたいって言うか、美術館みたいって言うか」
フェオードルに召喚された当日こそ神殿の中にいたが、その後すぐに追い出され、使用人たちの暮らす区域に狭い部屋を与えられた絵麻にとっては、目の前の建物は人が住んでいる場所というより何かの公共施設と言われた方がしっくり来る。
それほどまでに大きく広いこの城の中には衛兵も執事もメイドもいない。アシュレイが自分の魔力の暴走を恐れ、巻き込まないように人を遠ざけているからだ。
「ウィンセント王国って魔法のバリアか何かでずっと春みたいな気候に保たれてるんだよね? なのに人がいないと寒く感じる……。空気が冷えてるみたい」
シンっとした廊下は豪華な調度品が飾られているが、どこか寂しげで薄暗い雰囲気を漂わせている。
「――そしてアシュレイ王子の私室に到着っと。あなたたち案内してくれてありがとう。エメリアーノ様にもありがとうって伝えてね」
光の粒を振り撒きながら飛ぶ七色の蝶。
その幻視の蝶は、絵麻を案内するためにエメリアーノが呼び出した魔法の蝶だ。
まるで絵麻の言葉に応えるかのようにひらひらと舞い、王宮の方へと帰って行く。
「すみませーんアシュレイさーん! 私、絵麻って言いますー! つい先日まで、地球の日本って国で女子高生やってましたー! アシュレイさんは二十歳なんですよね? 私18歳だから歳も近いし、話が合うんじゃないかなーって。もし良かったらお話ししませんかー? 日本の、私の住んでた国の健康法ならアシュレイさんの体質に合うのもあるかもしれないし! 私、動画でバズるのが趣味だったから、JKのわりに授業で教わる以外のジャンルにも詳しいんですよ~。あ、卒業したから正確にはもうJKではないんですけど!」
蔦に似た模様の彫られた重厚な扉をノックし、そう声をかけるが、中からは何の反応もない。
「もしもーし! あ、もしかして寝ちゃってたり? じゃあまた後でもう一回来ますねー!」
アシュレイはあまりに強すぎる魔力に肉体がついていかず、寝込みがちだという。もしかしたら陽の高いうちでも、眠ってしまっているのかもしれない。
「畑のお世話とカーサさんのお手伝いしてからまた来ようっと」
――しかし。カーサの手伝いが終わった後でもその後でも。更には翌日の朝でも昼でも夜でも。
扉の向こうのアシュレイから反応が返ってくることはなかった。
「アシュレイさーん! おはようございます、を通り越してこんにちはー!」
「カーサさんに教わってケーキ焼いてみたんですけど食べてみませんかー?」
「あ、今すごい綺麗な鳥が飛んでた!」
「おーい、お母さん心配してましたよー!」
「少しでも良いから開けてくれませんかーっ?」
「雪だるまを作る雪はないけどドアを開けてー?!」
あの手この手で。
扉の向こうにいるはずのアシュレイの反応を引き出そうとするが、扉が開くどころかアシュレイの声を聞くことすらできない。
そして三日目。元来、気の長い方でない絵麻はキレた。
青々とした……を通り越し、鬱蒼とした緑の中。
王宮から離れた場所に、木々に囲まれて建つ白亜の宮殿。
そこがこの国の第一王子、アシュレイ=ウィンセントが暮らしている離宮だった。
「映画で見たお城みたいって言うか、美術館みたいって言うか」
フェオードルに召喚された当日こそ神殿の中にいたが、その後すぐに追い出され、使用人たちの暮らす区域に狭い部屋を与えられた絵麻にとっては、目の前の建物は人が住んでいる場所というより何かの公共施設と言われた方がしっくり来る。
それほどまでに大きく広いこの城の中には衛兵も執事もメイドもいない。アシュレイが自分の魔力の暴走を恐れ、巻き込まないように人を遠ざけているからだ。
「ウィンセント王国って魔法のバリアか何かでずっと春みたいな気候に保たれてるんだよね? なのに人がいないと寒く感じる……。空気が冷えてるみたい」
シンっとした廊下は豪華な調度品が飾られているが、どこか寂しげで薄暗い雰囲気を漂わせている。
「――そしてアシュレイ王子の私室に到着っと。あなたたち案内してくれてありがとう。エメリアーノ様にもありがとうって伝えてね」
光の粒を振り撒きながら飛ぶ七色の蝶。
その幻視の蝶は、絵麻を案内するためにエメリアーノが呼び出した魔法の蝶だ。
まるで絵麻の言葉に応えるかのようにひらひらと舞い、王宮の方へと帰って行く。
「すみませーんアシュレイさーん! 私、絵麻って言いますー! つい先日まで、地球の日本って国で女子高生やってましたー! アシュレイさんは二十歳なんですよね? 私18歳だから歳も近いし、話が合うんじゃないかなーって。もし良かったらお話ししませんかー? 日本の、私の住んでた国の健康法ならアシュレイさんの体質に合うのもあるかもしれないし! 私、動画でバズるのが趣味だったから、JKのわりに授業で教わる以外のジャンルにも詳しいんですよ~。あ、卒業したから正確にはもうJKではないんですけど!」
蔦に似た模様の彫られた重厚な扉をノックし、そう声をかけるが、中からは何の反応もない。
「もしもーし! あ、もしかして寝ちゃってたり? じゃあまた後でもう一回来ますねー!」
アシュレイはあまりに強すぎる魔力に肉体がついていかず、寝込みがちだという。もしかしたら陽の高いうちでも、眠ってしまっているのかもしれない。
「畑のお世話とカーサさんのお手伝いしてからまた来ようっと」
――しかし。カーサの手伝いが終わった後でもその後でも。更には翌日の朝でも昼でも夜でも。
扉の向こうのアシュレイから反応が返ってくることはなかった。
「アシュレイさーん! おはようございます、を通り越してこんにちはー!」
「カーサさんに教わってケーキ焼いてみたんですけど食べてみませんかー?」
「あ、今すごい綺麗な鳥が飛んでた!」
「おーい、お母さん心配してましたよー!」
「少しでも良いから開けてくれませんかーっ?」
「雪だるまを作る雪はないけどドアを開けてー?!」
あの手この手で。
扉の向こうにいるはずのアシュレイの反応を引き出そうとするが、扉が開くどころかアシュレイの声を聞くことすらできない。
そして三日目。元来、気の長い方でない絵麻はキレた。
0
お気に入りに追加
263
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中

私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

番から逃げる事にしました
みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。
前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。
彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。
❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。
❋独自設定有りです。
❋他視点の話もあります。
❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
とても面白く一気読みしてしまいました!
更新楽しみにしております♡