異世界聖女の王子改造作戦〜陰キャが立派になりまして〜

重なる

「昔はね、アシュレイとフェオードルは仲の良い兄弟だったのよ。アシュレイが熱を出してベッドから起きられない時は、フェオードルがいつも側にいて離れなかった。けれど、7年前に体調を崩したアシュレイの魔力が暴走してしまって……」

「暴走」

「それ以来、フェオードルは魔法を扱えない人間を憎むようになったし、アシュレイは自分の部屋から出て来なくなってしまったの」

「部屋から……って、えぇ?!　7年も?!」

「えぇ。最近はもう、何年も魔法具の鏡越しにしか会話できていないの。鏡の中のあの子、どんどんやつれていってしまって……。二人があんな風になってしまったのも、アシュレイを強く産んであげられなかった私の責任ね」

「エメリアーノ様」

　涙声で話すエメリアーノの震える指に思わず手を重ねる。潤んだペリドットの瞳からは、今にも雫がこぼれ落ちそうだった。

「突然こんな話を聞かせてしまって、ごめんなさいね。私も幼い頃から聖女様の伝説を聞いて育ったものだから、つい貴女に懺悔したくなってしまったの。貴女はフェオードルと同じくらいの歳の女の子なのに。本来なら王妃でもある私が貴女を庇護するべき立場よね。貴女をこの世界に呼んでしまったことを謝りたくてお茶に招待したはずなのに、ごめんなさい」

　しかしそう言って我が子のことを想い涙を浮かべるエメリアーノ表情は、王妃と言うより母親のものだった。

　強すぎる魔力に肉体がついていかず、魔法を暴走させて部屋に閉じ籠ってしまったアシュレイ。優秀な弟と比べられ、揶揄される日々はどんなに彼を苦しめたことだろう。

（私も、比べられるの辛かったなぁ……）

　会ったことのないアシュレイと、家にいた頃の自分の姿が重なる。

　もしかしたらエメリアーノもアシュレイのことがあるために、王妃という立場でありながら、魔法の使えない絵麻に親切にしてくれたのかもしれない。

「あの、エメリアーノ様っ！　私、動画のネタのためにおばーちゃんに色んな健康法とか民間療法とか聞いてたんです！　オリジナルの青汁とかも作ったことあるんですよ！　もしかしたら、アシュレイさんの体質を改善するきっかけになるかも！　私をアシュレイさんと会わせてくれませんか?!」