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庭園

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「王妃様が私に話したいこと? えっと、大丈夫ですけど……」

「良かった。カーサだったかしら、悪いけれどエマを借りるわね」

 あの傲慢で嫌みなフェオードルの母親とは思えぬ朗らかさで。王妃エメリアーノはカーサに微笑みかけ、エマを連れていくことを詫びる。
 王妃の前で粗相をしないようにと気を張り巡らせていたカーサは、今度は自分の名前を覚えられていた感動で卒倒しそうになっていた。

「行きましょう。私のお気に入りの花園にお茶を用意してもらってあるの」

 たおやかな動作でエメリアーノが腕を振ると、先ほど服を乾かしてくれたのと同じ光の粒子と暖かい風がエマの周りでゆるやかに渦巻く。

 もしかしたら王妃は風の魔法が得意なのかもしれない。
 そう感心しながら輝く空気を観察し、瞬きした次の瞬間には、そこはもう菜園でなく色とりどりの花が咲き乱れる庭園のガゼボの中だった。

 ガゼボの白い大理石の柱とドーム型の天井には優美な細工が施され、穏やかな陽の光が差し込んでいる。中央に置かれたテーブルと椅子にも緻密な模様が彫られていて、芸術品のように美しい。
 小鳥の囀ずりと甘い花の香り。そこに混ざる紅茶の芳香。エメリアーノの言った通り、テーブルの上には既にティーポットとカップが用意してあった。

「お砂糖とミルクはいるかしら?」
「あ、はい、甘いのが好きなので……っていやいや! 王妃様にやらせるわけにはいかないんで座っててください! 私が注ぎます!」
「エメリアーノでよくてよ。それに私がお誘いしたのだから気にしないで。貴女はお客様。座ってらして?」
「ぅ、えっと、ありがとうございます。お言葉に甘えて座ってます」
「ええ」

 儚げに見えてもそこはやはり王妃という立場にいる女性。
 優しく、けれども凛として断られてしまい、浮かせた腰を再び椅子に戻す。

 白磁のティーポットから注がれる琥珀色の液体。これはこの世界でも紅茶と呼ばれているお茶だった。
 不思議なことに、ウィンセント王国では料理や植物などに、日本と共通点のあるものが多く存在していた。

(もしかして、伝説の聖女様が広めたものだったりするのかな)

「どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」

 差し出されたティーカップに角砂糖を二つとミルクを混ぜる。さすが王妃がお茶を入れる茶器なだけあって、どれもが繊細で凝った装飾がしてある。もしこれが日本の喫茶店での女子会だったら何枚も写真を撮っていただろう。

「……それで、エメリアーノ様が私に用ってなんなんですか?」

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