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「ルミティア。ここに段差があるみたいだから、俺の手に掴まって」
「ありがとうございますアルバ様」

 さすが、聖騎士であるアルバはどんな時も紳士だ。
 そう思いながら聖女ルミティアは彼の大きな手のひらに自分の手を重ねる。

 どんなに素早い魔獣でも、どんなに数の多い魔物の群れでも。まるで踊るように、けれど瞬く間に敵を斬り伏せる剣技の持ち主アルバ。この国の聖騎士団の団長を務める彼は、剣聖とも呼ばれている。

 圧倒的な強さを誇るだけでなく、長身で容姿端麗な彼は国中の乙女たちの憧れの的で。ルミティアが聖女として彼と共に魔族討伐の旅へ行くことが決まった時には、神殿の神子たちの嫉妬と羨望の視線が全身に突き刺さった。

(でも! どれだけ神子同僚たちに羨ましがられたって、アルバ様と旅をする権利は絶対に譲れなかったわ……! だって、私にとってもアルバ様は憧れの騎士様だもの……!)

 サラサラの金の髪に慈愛に満ちた蒼玉サファイアの瞳。スッと通った鼻梁に薄い唇。屈強な男たちを束ねる騎士団長という役職に就いていても、彼はいつも涼やかな空気をまとっていてニキビなどとは無縁の肌は陶器のよう。

 スラリとした長身で繊細な美貌のアルバは、武器を握るよりも楽器を奏でる方が似合っているのではないかとさえ思ってしまう。体臭だって、汗の臭いよりも石鹸やミントの香りがしそうだ。

 けれど、彼がいるのといないのとでは国の防衛力は何倍も違うだろう。彼は優美な外見に反して恐ろしく強い。更には王太子と幼なじみで、この国でかなりの影響力も持っているらしい。

 そのうえ21歳で独身。彼に近づきたいと願っている女性はいくらでもいて。
 アルバと長期間一緒に寝食を共にし旅をする仲間に選抜されたルミティアが羨ましがられるのも当然だった。

(でも、私、選ばれるために血の滲むような努力をしたもの……!)

 魔族討伐の一行に参加する神子――聖女に求められる能力は決して低くない。
 瞬時に怪我や状態異常を回復させる治癒魔法、呪いのアイテムや解呪に関する知識、様々な薬の調合法。過酷な長旅に耐えられるだけの体力と気力。
 それらを身につけるため、神子時代のルミティアは本当にありとあらゆる訓練を試みた。

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