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収穫祭

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 ウィルドの視線の先――シスカのおでこには無数の吹き出物が有ったことを思い出したからだ。
 母には前髪で覆わず清潔にした方が早く治ると言われているが、どうしても素顔を出すのが怖かった。

「私の条件はこうです。化粧品の使用前と使用後の効果がわかりやすい方。使用感や改善点などを表現する語彙力を持った方。完成した後は王家御用達の品として販売することも考えているので、香りや容器についても助言をくださる女性の方。……いずれは男性向けのものも開発するかもしれませんが、今回の依頼主は女性なので」

 だからシスカさんに協力して欲しいのです。

 今度こそ、真っ直ぐに瞳の方を見たウィルドと、前髪のカーテン越しに視線がぶつかる。
 そこには揶揄や欺きの色は無く、彼が真剣なことが伝わってきた。

「えっと……」

「もちろん、謝礼はお支払いしますし、私に拘束された時間ぶんの給金もお支払いします。商品化した後のシスカさんの権利についても相談させてください。……卑怯な言い方ですが、モネーダ家から援助を打ち切られた後の助けになるはずです」

「その、あの」

「そしてもう一つ、貴女にはお願いがあります」

「お願い?」

「はい。2ヶ月後に秋の収穫祭が行われるのはご存知ですよね? 自然の恵みに感謝し、今後の豊穣を願う」

 秋の収穫祭。
 それは年に一度、野菜や果物、花など秋に収穫された恵みを祝う祭りだ。

 街のいたるところに並ぶ屋台には採れたての作物が並び、若い娘たちは秋の花を頭に飾る。祭りのため噴水広場に1日だけ造られた舞台の上では演奏や歌などが披露され、とても賑やかな雰囲気になる。
 幼い頃、シスカはこの収穫祭が大好きだった。

(懐かしいな……)

 鮮やかに舞う紙吹雪に、収穫された果実を使ったパイの甘い匂い。賑やかな笑い声、奏でられる旋律。輪になって軽やかにステップを踏む人々。

『意中の相手に花飾りを渡し、受け取ってもらえた娘は一生幸せに暮らす』
 祭りに伝わる言い伝えは幼いシスカの憧れだった。

 もう何年も行っていない祭りの、幸せだった少女の頃の記憶が一気によみがえる。

 しかしシスカのそんな感傷はウィルドの信じられない言葉で霧散した。

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