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二度もミスるって、そんなのある?
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やっほーぃ! 死んだ!
さらば、現世。
さらば、ブラック薄給社畜生活。
さらば、モラハラ上司&お局様。
さらば、地味なモブ人生。
そして、こんにちは悪役令嬢転生ライフ!
そうガッツポーズを決めながら全身を目が開けていられない程の真っ白な光に包まれて。
私は意気揚々と次の人生へと踏み出すはずだった。
そう、はずだった。
白い光に包まれながらトロトロと温かいお湯……まるで羊水に浮かぶような心地好さに身を任せまぶたを閉じた私の耳に、焦りを滲ませた『神様』の声が届く。
『あ、ヤバイ。間違えた』
と─────
* * * * *
ドン! という衝撃は一瞬だったと思う。
突然、信号無視のトラックが目の前に現れて。
咄嗟に目をつぶって、次に開けた時にはもう、目の前に真っ白な『神様』がいた。
白い髪に白い肌。白い着物に白い履き物。
周りに何もない、ただただ白い空間で『神様』は周りに溶けちゃうんじゃないかと心配になるくらい白かった。
頭の中に直接響くのは若そうな青年の声なのに、どんなに目を凝らしても私には彼の口元までしか見えない。彼(おそらく、たぶん)の瞳を私の脳は認識できない。
顔の見えない青年──自称・神様はあっけらかんとした口調で私にこう告げた。
「ごめん。間違えて君の人生を終わらせてしまった」
例えるならキュウリとズッキーニを間違えて買ってきちゃいましたくらいのノリの軽さ。
いや、私は今の人生にそこまで未練がなかったから良いけれど、他の人だったら大問題なのでは? クレーム通り越して訴訟問題にならない?
そんな神様を従者であろう少女が呆れたように見上げる。
ストレートの黒髪に赤い着物の日本人形みたいな小学生くらいの女の子。彼女の隣にいる神様の顔は見えないのに、その子の黒い瞳はちゃんと見えた。
一体、どんな仕掛けになっているんだろう。
「──主様、もう少し誠意というものを見せてください」
「お? そうか? ちゃんと悪いと思っているのだがな」
「全然そうは見えません」
「はは、手厳しいな」
と、被害者である私を置いて2人は仲むつまじく言い合い(ってほどでもないけど)を始める。主従のわりにはフランクだ。
「えーと、楽しそうなところ申し訳ないんですが、つまり、私は信号待ちの交差点でたまたま隣にいた『今日、交通事故に遭って寿命が終わるはずだった、まったく知らない赤の他人』の運命と間違えられて死んでしまったという解釈でよろしいですか?」
「おぉっ、そうだ。飲み込みが早くて助かるな! それでな──」
そこからの神様の話をまとめると、こうだ。
・肉体と完全に切り離されてしまった私の魂を今世に戻す術は神様でも持っていない。
・なので諦めて次の人生に行くしかない。
・しかし私が今日死んでしまったのは100%神様によるミスなので、どんな来世に生まれ変わりたいか選ばせてくれる。
その説明を聞き終わった私は無意識に震え、無意識に呟いていた。
「よっしゃあああぁぁぁっっ! 異世界転生キタコレ!!」
……訂正。無意識に全力で叫んでいた。
いやー、私さ、実は乙女ゲームとweb小説のヘビーユーザーでさぁ! 常々、推しゲーの中に転生して別の人生を謳歌してみたいと思ってたんだよねぇ!
あーっ! 間違えられて死んじゃって、良かったぁ! 私、ラッキーじゃね? 超ラッキーじゃねっ?
興奮した私は唖然とする神様と女の子を無視して私の最推し乙女ゲームがいかに素晴らしいか、どれほど私がそのゲームを愛し、どれだけの時間と給料をつぎ込んで来たかを熱く語った。語りまくった。
最後の方は2人が虚無の表情になっていた気がするけど無視して語り続けた。
そして口元だけでもゲッソリしていることがわかる神様は、私の希望通りに私を最推し乙女ゲームの世界に転生させてくれると約束してくれた。
──なのに。
なのに。なのに。なのに!
神様、また間違えやがった……!
……思わず言葉づかいが荒くなってしまったこと、許していただきたい。
さらば、現世。
さらば、ブラック薄給社畜生活。
さらば、モラハラ上司&お局様。
さらば、地味なモブ人生。
そして、こんにちは悪役令嬢転生ライフ!
そうガッツポーズを決めながら全身を目が開けていられない程の真っ白な光に包まれて。
私は意気揚々と次の人生へと踏み出すはずだった。
そう、はずだった。
白い光に包まれながらトロトロと温かいお湯……まるで羊水に浮かぶような心地好さに身を任せまぶたを閉じた私の耳に、焦りを滲ませた『神様』の声が届く。
『あ、ヤバイ。間違えた』
と─────
* * * * *
ドン! という衝撃は一瞬だったと思う。
突然、信号無視のトラックが目の前に現れて。
咄嗟に目をつぶって、次に開けた時にはもう、目の前に真っ白な『神様』がいた。
白い髪に白い肌。白い着物に白い履き物。
周りに何もない、ただただ白い空間で『神様』は周りに溶けちゃうんじゃないかと心配になるくらい白かった。
頭の中に直接響くのは若そうな青年の声なのに、どんなに目を凝らしても私には彼の口元までしか見えない。彼(おそらく、たぶん)の瞳を私の脳は認識できない。
顔の見えない青年──自称・神様はあっけらかんとした口調で私にこう告げた。
「ごめん。間違えて君の人生を終わらせてしまった」
例えるならキュウリとズッキーニを間違えて買ってきちゃいましたくらいのノリの軽さ。
いや、私は今の人生にそこまで未練がなかったから良いけれど、他の人だったら大問題なのでは? クレーム通り越して訴訟問題にならない?
そんな神様を従者であろう少女が呆れたように見上げる。
ストレートの黒髪に赤い着物の日本人形みたいな小学生くらいの女の子。彼女の隣にいる神様の顔は見えないのに、その子の黒い瞳はちゃんと見えた。
一体、どんな仕掛けになっているんだろう。
「──主様、もう少し誠意というものを見せてください」
「お? そうか? ちゃんと悪いと思っているのだがな」
「全然そうは見えません」
「はは、手厳しいな」
と、被害者である私を置いて2人は仲むつまじく言い合い(ってほどでもないけど)を始める。主従のわりにはフランクだ。
「えーと、楽しそうなところ申し訳ないんですが、つまり、私は信号待ちの交差点でたまたま隣にいた『今日、交通事故に遭って寿命が終わるはずだった、まったく知らない赤の他人』の運命と間違えられて死んでしまったという解釈でよろしいですか?」
「おぉっ、そうだ。飲み込みが早くて助かるな! それでな──」
そこからの神様の話をまとめると、こうだ。
・肉体と完全に切り離されてしまった私の魂を今世に戻す術は神様でも持っていない。
・なので諦めて次の人生に行くしかない。
・しかし私が今日死んでしまったのは100%神様によるミスなので、どんな来世に生まれ変わりたいか選ばせてくれる。
その説明を聞き終わった私は無意識に震え、無意識に呟いていた。
「よっしゃあああぁぁぁっっ! 異世界転生キタコレ!!」
……訂正。無意識に全力で叫んでいた。
いやー、私さ、実は乙女ゲームとweb小説のヘビーユーザーでさぁ! 常々、推しゲーの中に転生して別の人生を謳歌してみたいと思ってたんだよねぇ!
あーっ! 間違えられて死んじゃって、良かったぁ! 私、ラッキーじゃね? 超ラッキーじゃねっ?
興奮した私は唖然とする神様と女の子を無視して私の最推し乙女ゲームがいかに素晴らしいか、どれほど私がそのゲームを愛し、どれだけの時間と給料をつぎ込んで来たかを熱く語った。語りまくった。
最後の方は2人が虚無の表情になっていた気がするけど無視して語り続けた。
そして口元だけでもゲッソリしていることがわかる神様は、私の希望通りに私を最推し乙女ゲームの世界に転生させてくれると約束してくれた。
──なのに。
なのに。なのに。なのに!
神様、また間違えやがった……!
……思わず言葉づかいが荒くなってしまったこと、許していただきたい。
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