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「……納得してくれた? 俺が、ずっと好きなのは来栖だよ。入学式の日から、ずっと来栖が好きなんだ」
「入学式の日から?」
「そう。正確には、入学式の朝に、駅のホームで来栖に会った日から。覚えてない? 情けないけど俺、なれない満員電車に酔って、駅のベンチに座り込んでたんだよ。そこに来栖が水とハンカチを渡してくれた」
「あ、あーっ?! あの時のー?!」
入学式の朝。人が行き交う賑やかなホームのベンチに項垂れて座っていた、ミルクティー色の髪をした男の子。
私は確かにその子にお水とハンカチを渡したことがある。
「来栖、俺が自分の名前を言う前にパッて走って言っちゃってさ」
「ごめん、あの時は入学式に遅れないように焦ってて」
「その後に学園で会っても俺のこと覚えてないし」
「ごめん……」
普段だったら、こんなイケメンの男の子に声をかけたことなど、そう簡単に忘れないだろう。
けれどあの入学式の日は、学園に着いた途端に前世の記憶を思い出してそれどころじゃなかった。
(私が、来栖くんと出会ってたなんて! それも、記憶を思い出す前に――!)
しかも樹莉の恋の相手も九堂くんじゃなくて相川くんだったなんて。
なんだか、いろんなことにホッとして頭がグチャグチャになって。涙が出てきそうだ。
「好きだよ来栖。残りの夏休みも、その後も。来栖の恋人として過ごしたいんだ」
「……っ、私も、好き……! 九堂くんが、好き……!」
シルバーフレームのレンズの奥。榛色の瞳に泣きそうな顔の私が映る。
彼のその瞳を独占できたら良いのにと、何度願ったことだろう。
「来栖、キスさせて。触れたいんだ。来栖のいろんなとこ、触れさせて」
ずっと好きだった人の甘い懇願。
その言葉はまるで魔法で。
ここが夜の保健室だとか、今は肝試しの最中だとか。
そんなことはもう、止まる理由にはならなくて。
顔を傾けて九堂くんの唇が触れるのを待った。
「入学式の日から?」
「そう。正確には、入学式の朝に、駅のホームで来栖に会った日から。覚えてない? 情けないけど俺、なれない満員電車に酔って、駅のベンチに座り込んでたんだよ。そこに来栖が水とハンカチを渡してくれた」
「あ、あーっ?! あの時のー?!」
入学式の朝。人が行き交う賑やかなホームのベンチに項垂れて座っていた、ミルクティー色の髪をした男の子。
私は確かにその子にお水とハンカチを渡したことがある。
「来栖、俺が自分の名前を言う前にパッて走って言っちゃってさ」
「ごめん、あの時は入学式に遅れないように焦ってて」
「その後に学園で会っても俺のこと覚えてないし」
「ごめん……」
普段だったら、こんなイケメンの男の子に声をかけたことなど、そう簡単に忘れないだろう。
けれどあの入学式の日は、学園に着いた途端に前世の記憶を思い出してそれどころじゃなかった。
(私が、来栖くんと出会ってたなんて! それも、記憶を思い出す前に――!)
しかも樹莉の恋の相手も九堂くんじゃなくて相川くんだったなんて。
なんだか、いろんなことにホッとして頭がグチャグチャになって。涙が出てきそうだ。
「好きだよ来栖。残りの夏休みも、その後も。来栖の恋人として過ごしたいんだ」
「……っ、私も、好き……! 九堂くんが、好き……!」
シルバーフレームのレンズの奥。榛色の瞳に泣きそうな顔の私が映る。
彼のその瞳を独占できたら良いのにと、何度願ったことだろう。
「来栖、キスさせて。触れたいんだ。来栖のいろんなとこ、触れさせて」
ずっと好きだった人の甘い懇願。
その言葉はまるで魔法で。
ここが夜の保健室だとか、今は肝試しの最中だとか。
そんなことはもう、止まる理由にはならなくて。
顔を傾けて九堂くんの唇が触れるのを待った。
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