上 下
22 / 25

【22】

しおりを挟む
「……納得してくれた? 俺が、ずっと好きなのは来栖だよ。入学式の日から、ずっと来栖が好きなんだ」

「入学式の日から?」

「そう。正確には、入学式の朝に、駅のホームで来栖に会った日から。覚えてない? 情けないけど俺、なれない満員電車に酔って、駅のベンチに座り込んでたんだよ。そこに来栖が水とハンカチを渡してくれた」

「あ、あーっ?! あの時のー?!」

 入学式の朝。人が行き交う賑やかなホームのベンチに項垂れて座っていた、ミルクティー色の髪をした男の子。
 私は確かにその子にお水とハンカチを渡したことがある。

「来栖、俺が自分の名前を言う前にパッて走って言っちゃってさ」

「ごめん、あの時は入学式に遅れないように焦ってて」

「その後に学園で会っても俺のこと覚えてないし」

「ごめん……」

 普段だったら、こんなイケメンの男の子に声をかけたことなど、そう簡単に忘れないだろう。
 けれどあの入学式の日は、学園に着いた途端に前世の記憶を思い出してそれどころじゃなかった。

(私が、来栖くんと出会ってたなんて! それも、記憶を思い出す前に――!)

 しかも樹莉の恋の相手も九堂くんじゃなくて相川くんだったなんて。

 なんだか、いろんなことにホッとして頭がグチャグチャになって。涙が出てきそうだ。

「好きだよ来栖。残りの夏休みも、その後も。来栖の恋人として過ごしたいんだ」

「……っ、私も、好き……! 九堂くんが、好き……!」

 シルバーフレームのレンズの奥。榛色の瞳に泣きそうな顔の私が映る。
 彼のその瞳を独占できたら良いのにと、何度願ったことだろう。

「来栖、キスさせて。触れたいんだ。来栖のいろんなとこ、触れさせて」

 ずっと好きだった人の甘い懇願。
 その言葉はまるで魔法で。
 ここが夜の保健室だとか、今は肝試しの最中だとか。
 そんなことはもう、止まる理由にはならなくて。

 顔を傾けて九堂くんの唇が触れるのを待った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

悪代官に恋をして ~優しい顔には裏がある~

国樹田 樹
恋愛
主人公、葵には恋い焦がれる人がいる。 その名は螢沢玄尚。葵より一回り以上年嵩の時代劇俳優であり、悪代官(役)の男性である。 悪役ながらも素顔は穏やかで優しい紳士の螢沢は、殺陣技が未熟な葵にもいつも優しい。 それは自分を気遣い「練習に付き合う」とまで言ってくれるほどで。 けれどその練習途中、突然螢沢が妖しい微笑を浮かべて―――? 気持ちが駄々漏れの女忍者は、知らず手中に堕とされる…… ※他投稿サイトにも掲載しています。

大嫌いな歯科医は変態ドS眼鏡!

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
……歯が痛い。 でも、歯医者は嫌いで痛み止めを飲んで我慢してた。 けれど虫歯は歯医者に行かなきゃ治らない。 同僚の勧めで痛みの少ない治療をすると評判の歯科医に行ったけれど……。 そこにいたのは変態ドS眼鏡の歯科医だった!?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?

石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。 ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。 ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。 「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。 扉絵は汐の音さまに描いていただきました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...