そして夜は華散らす

緑谷

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伍章

閑話――微睡む獣

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* * *

「――ふや、しろ」
「……自分の名前言ってみろ」
「腕が、ない。やつがれの腕はどこにある……?」
「……、斬り飛ばされたよ。覚えてるな?」
「ふふ、ああ、そうだ。楽しかった。とても。生きている感じがした。あんなに高ぶったのは久しぶりだったよ。とても楽しかったんだ」
「チッ、よくしゃべりやがる。……義手はもう無理だぞ。高ぇんだからよ」

「なあ不夜城」
「何だよ」
やつがれはやはり、血を見ないと生きてはゆけぬよ。ほかの人間も同じだって……思ってたのにな……」
「……、何馬鹿なこと言ってんだ。今更だし当たり前だろ」
「そうだな。ああ、そう、だったな……」

「義足もあとで調律するぞ。七年放置しやがって。馬鹿野郎」
「すまぬ、不夜城。……でも、どうしても帰れなかったのだ」
「うるせぇよ、言い訳すんじゃねえ。勝手にいなくなりやがって。クソったれめ」
「でも……入相さんがどうしてもと言ったから。戻るに戻れなかった」
「入相さんに望まれて嬉しかった、ってか? ハッ! 何能天気な寝言抜かしてやがる。反吐が出るぜ」

やつがれでなければならないと、言ってくれたから。役に立てると、思ったのだ。前のように。本当は、死ななければならなかったけれど。でも、それはどうしても、できなくて」
「……チッ。死ぬだなんて俺の前でよく言えたもんだな?」
「……ふふ、君は相変わらず舌打ちが多いな」
「てめぇの胡散臭ぇ薄笑いもな」

「――不夜城」
「今度は何だよ、うるせぇな」
「……、……やつがれは……どうしてこうなのだろうな」
「てめぇが一番わかってることだろ」
「そう、だな。全部、全部……真似事にすぎぬ。でも、人間の真似事をするのは、とても……楽しかったんだ」
「……黙ってろ」
「でも駄目だった。何をしても喉が渇いてしまうんだ。我慢ができなくて、それで。ああ、これも言い訳だ。結局やつがれはそうしたかった。それだけなんだ」
「黙ってろ」
「だけど、どうしてもそこにいたかった、温かくて、愛しいから、……嬉しくて、しあわせで、たのしくて、のぞまれなくても……そこにいたかったよ」
「……」

「――やつがれは……化け物、だ。そうだろう?」

「……、チッ。そうだよ、てめぇは化け物だ」
「ああ……ありがとう、……不夜城……」
「……化け物は泣いたりしねえモンだ。だから、てめぇの眼から塩水が出てんのは、見なかったことにしてやる。……、おい。……寝ちまったのか? 勝手なやつだな、ったく……」
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