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パラドキシカルハート

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「それって恋なんじゃないかな?」

 その日の放課後、寮に帰った我は相談相手を悩み……寮長である君嶋知代先輩を頼った。同級生に――例えば渚に相談するのはイヤだった。余のプライドが許さない。そこで、口が固そうで学年も違う寮長を頼ることにした。
 そうして告げられたのが、恋。余があのネクロマンサーと恋仲に……なる? 莉那先輩にも、恋人がいる。その当時は教育実習生で、今は高等部に正式に赴任している湯足柑奈先生だ。あの先輩ですら年上に惹かれた。だとしたら、余も……。

「だが、認めがたいものだ」
「そうかな? 私は恋をきっかけに変われたと思うよ。人と話すことに抵抗もなくなったし、部活にも参加出来るようになった。それに、寮長になったなんて一年生の頃の私が聞いても信じてくれないと思うもん」

 恋が人を変えるかどうかは分からないが、憧れは人を変える。その自覚はある。長浜先輩も何か憧れがあってネクロマンサーになったわけで、その理由を知りたいと思っている。それはきっと、同士に会えた喜びにあるのだろうか。

「ねえ知代――あ、出たなマント」
「マント呼ばわりするな。生徒会の」

 談話室に入ってきたのは生徒会本部役員の纐纈すみれ先輩。余をマント呼ばわりする不届き者で、一度は風紀委員の門を叩いたくせにマスター……莉那先輩の姿に恐れをなして背を向けたらしい。

「すみれちゃんのコイバナも聞きたいな」
「え? コイバナって急に何よ。ウチは……それこそ知代の方がよっぽどあるでしょう?」
「そ、そんなこと言われても。私、ひーちゃんにはほぼ一目惚れっていうか、王子様みたいだなって思って。すみれちゃんはどうだったの?」
「ウチ? う、うぅん。前々から顔見知りだったからなぁ。でも、ウチも纐纈本家の娘として肩肘張ってたわけで……向こうも向こうで人付き合いが苦手なタイプだったから。ていうか、人付き合い苦手系女子の知代はどうやってあの軽薄そうな先輩と出会ったわけ?」
「け、軽薄じゃないもん! あれはね新春の夜に――――」
「長くなりそうだからカット」
「えぇ!? そっちが聞いてきたのに。ちゃんと聞いてよ。私が一人でフルート吹いてたら――――」
「いや、もういいです……」

 二人にはそれぞれ年上の恋人がいる。参考になるような、ならないような……のろけているだけにも聞こえる二人の話を、一応先輩だからということで最後まで聞こうとしたが限界だった。真面目な彼女らと異能に身をやつす余とではきっと何もかもが違うだろう。余と長浜先輩だからこそ通じ合う何かが……いや、通じ合いたいと思っているわけではないのだけれど。
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