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双神ナイトフォール

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 今朝、ネクロマンサーはこう言った。逢魔が時に会おう、と。さて、それはいつか。夕刻である。春の空がかすかに紺青に染まる刻に、彼女は姿を現した。

「出たな、ネクロマンサー」
「ふふふ、そんなに我との再会が待ち遠しかったか? 双神そうしんの巫女よ」
「そう……しんの、みこ。二柱の神のことか! それいい!!」

 長浜先輩が私につけた称号の響の良さに思わず声が大きくなる。室内には他の風紀委員もおり、余の振る舞いには理解があるとは言え少々気恥ずかしくなり、わざとらしい咳で場を濁す。

「さて、何用かは聞くまでもないな。ウィッグの返却申請なのだろう?」

 鷹揚に頷く先輩。そんな彼女に余は問うた。

「この学び舎では生徒が髪を染めることを禁止していない。ならば何故ウィッグをかぶる?」
「……ふむ、異なことを聞く。君には関係のないことだよ、双神の巫女よ」

 ひどく冷たい声で拒む長浜先輩の双眸は逢魔が時よりも闇を湛え……深淵でも覗いているようだった。ぴしゃりと閉められた風紀委員室のドアは、ネクロマンサーの行使した闇の結界のように、ただ、そこに残された。

「あー、あのね、ぜのちゃん。取り敢えず座って」

 高等部二年ハイセカンドの……長浜先輩と同級生の先輩が余に声をかけてきた。
「土橋先輩は長浜先輩の事情、何かご存知なのですか? いや、全知全能の神の使いとしては知っているのだけれど、思い出せない……みたいな? それで、その……聞かせてください」
「よろしい」

 土橋先輩は重そうな両胸を支えるように腕を組み、どこから話そうかと逡巡するような素振りを見せた。それから一呼吸、置いて、余の目をじっと見据えた。

「ぜのちゃんはさ、どうして神を宿しているの? それも二柱も」

 その問いに書類を整理していた別の風紀委員が土橋先輩を見やる。同じ部屋にいるので先ほどからの会話もずっと聞いていたわけだが、慣れきった先輩方はあまり気に留めていない。

「私もさ、櫻井先輩で慣れたし、星花なんてそれこそもっと濃いキャラな人もいるら? でもそれぞれさ、個性を会得する上での生い立ちってもんがあるのよ。分かる?」
「えぇ、それは理解できます」

 余は弱い自分を変えたくて神を宿した。他人に支配されないために、強い自分でいたかった。自らを余と語り、知恵者であり強者であると喧伝した。それは愚かで弱かった自分との決別。なればこそ……。

「どうして、長浜先輩はネクロマンサーに……」

 もし誰かを亡くしていたとしたら……。そうでなかったとしても……きっと、相応の理由があるはず。

「きっと君たちは似ているんだろうね。私はもう帰るよ。妹が待ってる。じゃあね」
「あ、ちょ! 土橋副会長!! まだ書類残ってますよね!?」
「いいのよ。風間会長が来たら判を押してもらって。あのシスコン、また大倉と揉めてるんだろうからさ」

 風紀委員はマイマスターだった櫻井莉那先輩が卒業し、三年の風間みなと委員長と二年の土橋千颯ちはや副委員長を屋台骨としている。二人にはそれぞれ妹がいて、風間なぎさと土橋紅凪くれなは余のクラスメイトであり、よき理解者でもある。その余の友でもある渚が最近、ダンス部部長の大倉ゆら先輩と交際を始めた。その馴れ初めは割愛するが、まずもって一番衝撃を受けたのは風間委員長だった。

「こりゃ仕事進まないなぁ。世音ちゃん今日はもう上がっていいよ。校内のパトロールは私と佐野が担当するから」
「分かりました。失礼します」

 良識派の先輩にシンプルに礼をして風紀委員室を後にした。空にはもう太陽の輝きはなかった。
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